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私の転生物語。 ~ クロスロード In New World ~  作者: ボンバイエ
第一章 私は幸せな人生を終えた・・・えっ?転生?前世の記憶を持ったまま、好きなように生きろ?こんな爺さんを転生させてどうしたいの?女神様。
2/7

第二話 叔父の帰還。

二話目。


ザバルティとシャルマンの二人は街へと向かった。

街に入る前に隔てる門があり、門番が複数名立っている。


「「こんにちは!」」


二人が大きな声で挨拶をすると、門番たちは道を開ける。


「これはザバルティ様にシャルマン様。いつもの城下町の視察ですかな?」


門番たちの中でも威厳のある風貌の騎士らしい男が代表して声を掛けた。

後の者はただ頭を下げ、顔をあげない。


「うん。デニアスさん今日もよろしく。」


「かしこまりました。」


デニアスと呼ばれた隊長らしき騎士が正門の横の通用門を開けると二人は競って門を潜り抜ける。


「行ってきます。」


「お気をつけて。」


二人は門番たちの返事を背中に受けながら街中へと向かう。


「隊長!良いのですか?!」


「ああ。そうか、お前は初めてだったな。問題は無い。領主様より指示も受けている。お二方とも顔は知られているし、下手な事をして我が主君に歯向かう者等おらんさ。それに専属の護衛が陰から護衛しているから問題はないさ。」


デニアスと呼ばれた騎士は新米騎士に向かって説明をした。

街に単独で向かう貴族など普通はいない。

危険であるからだ。

貴族が従者を連れずに街を動くなど治安の良い王都でもあり得ない。

だが、ここマカロッサ子爵家では少し違う。

治安が良い上に影の部隊が存在する。

常に護衛対象である領主一族を陰から見守っているのである。

よって最上位の治安となっているのである。

またこの街は外国との取引をおこなっており、最新鋭の魔法装置も設置してあり認識している領主一族が万が一攫われる様な一幕が起こったとしても直ぐに対処可能となっている。

厳戒態勢が常に張られている街なのだ。

他国の大切な大使なども寄る港だから当然である。

もちろん、この世に完全なるモノは無いがいつも出入りしている事で顔が割れており領民達の目もまた見張りの役を担っているのであるから、この街に限っては領主一族にとっては安全なエリアとなる。

そんな影の部隊を運営できるのも外交・外商を担う港町であり、そこを治める特別な貴族であるからだ。


そんな事は新任の国から派遣されてきたばかりの騎士ではわかる訳はない。

『そうなんですか。』としか答えようが無いだろう。


門番たちがそんな話をしている事など知らずにザバルティとシャルマンは街の中を疾走する。


「今日はどちらに?」


「今日は兄上と一緒に港へ行くんだ!」


「いってらっしゃいませ。」


走りながらも街の人と軽く挨拶をしながら走る兄弟を街の人達はにこやかな笑顔で迎えている。

仰々し過ぎないほど良い言葉のやり取りが領主と領民の関係性が非常に良好な関係である事がうかがい知れるであろう。

他の領地で同じ事をすれば、貴族に対する不敬罪で最悪の場合は死刑であろうが、ここではその様な事にはならない。

『子供な皆で育てるモノ』という先達の領主により定められた法がある。

この世界では異色の法律ある。

『貴族は貴い血族』であり身分差がハッキリと分かれている世界において異常とも呼べる法である。

とは言え、不敬罪に当たらないからと言って領主一族に対する対応は平民に対する対応とは違いがあるのは事実だが、それでも不敬罪にならない事で幾分も違いが出て来る。

領主の子供に優しく接するのだから、他の子供にも自然と優しくなる。

結果、このマカロッサ子爵領では孤児はいてもスラムは無い。

皆が屋根の下で寝る環境にあるのだ。

とは言え、路上で爆睡する輩も居るが浮浪者ではなく、お酒に飲まれた者達だ。


「ザバルティ様とシャルマン様だ!」


「本当だ。お~い!」


街の子供達も気軽に声をかける。

二人もそれに答えて手を振る。


「また、今度ね~!」


「わかった。約束だよ!」


「うん!」


そんな子供らしいやり取りも交わしながら港へとやってきた二人はずっと走ってきているのだが、息切れをしていない。

通常の子供なら息を切らす距離だが、毎日の鍛錬と魔法のおかげだ。

もちろん筋肉は疲弊し体力は消耗するのだが、それを身体魔法によって補う事で体力の消耗を緩やかにする事が出来るからだ。

この世界に魔法は普通に存在する。

魔力を利用して行使するモノであり、生物として脆い人間が生物として強者たる為に必要な力の一つである。


「「着いた!」」


目の前には沢山の大型船が停泊している。

世界各国から客船や貨物船等がやってくる港である。

港と街の間も門が設置されておりここにも門番が立っていた。

門番達は二人を見とめると通用口の門を開けてくれる。


ザバルティは門番にポワロ叔父の船が停泊した場所を聞き出し二人で向かった。


海に面した半月の様な曲線を描いた湾全体を港として整備しており国内最大級規模の港である。

『港町アンバー』『交易都市アンバー』『領都アンバー』と言われる。

他にも『アスワン王国東の玄関アンバー』という様な呼ばれ方もする。

その中央部のど真ん中に領主一族の所有する船が停泊する為の桟橋がありそこには1~20までの数字で管理された区画が設けられている。

1番区画は開けられており、2番区画には真っ白な大型船が停泊している。

2番区画にはザバルティやシャルマンの父であり現マカロッサ子爵であるアルカティの所有する専用船だ。

そのアルカティの白い大型船の奥に3番区画があり、ザバルティとシャルマンの目的の船つまり丘の上から見た真っ黒な大型船が停泊している。

二人は見慣れた白い船を通り越し黒い船の前に来ると大きな声が聞えた


「ふざけるな!誰がそんな事を受け入れるんだ!出ていけ!!」


ザバルティとシャルマンの二人は目を丸くする。

聞きなれた声だったのだが、何故大きな声で怒鳴っているのか見当が付かなかった。

そして直ぐに船から黒ずくめの者達が降りて来た。

その者達は全身に布を被っており見慣れない姿をしていた。


「邪魔だ。どけ!」


「イタっ!」


走って降りて来た彼等とのすれ違いざまにシャルマンと接触してしまい、シャルマンが飛ばされてしまう。


「シャルマン!大丈夫か?!」


すぐに飛ばされたシャルマンにザバルティが駆け寄り助け起こす。

そのまま去ると思われた黒ずくめの者達は立ち止まっていた。


「シャルマンだと?!」


一人の黒ずくめがシャルマンの腕を掴もうとする。


「触るな!」


ザバルティは咄嗟に声を上げ、シャルマンを引寄せ間に割って入る。

追撃あるモノとして身を固めるザバルティ。

そのタイミングで大きな声がした。


「何をしている!お前らまだ居るのか?!早く立ち去れ!!」


先ほどの大声と同じ声が怒声を上げた。


「ちっ!何をしている。行くぞ!」


他の黒ずくめが立ち止まった男の腕を引き足早に去っていった。

大声を張り上げた男が船から降りてくる。


「やっぱりお前か。」


「はい。ポワロ叔父さん。お久しぶりです。」


「おう。久しぶりだな。で大丈夫か?まさか何かされたのか?」


「いえ。ぶつかっただけです。ちょっと油断したシャルマンが飛ばされたけど、問題ないです。なっ?シャルマン。」


「うん。大丈夫。」


「そうか。なら良いんだが、すまんな。変な所を見せて。」


海の男らしく精悍な顔つきと逞しい体をした風貌であるポワロ。

大声も良く通る。

先ほど迄は鬼の様な形相をしていたが、今ではザバルティとシャルマンを前にして破顔した笑顔を見せていた。

目に入れても痛くない存在。

それがポワロにとってのザバルティとシャルマンなのだろう。

可愛がっている証拠でもある。


「何かあったんですか?」


「なに、子供が気にする事ではないわ。」


ニカリと更に笑顔を深めて豪快に笑うポワロを見て安心した様な顔になるザバルティとシャルマン。

流石に大声を張り上げる叔父の姿と先ほどの騒動で不安になっていたのであろう。

ぞろぞろと降りてくるポワロの部下を見て笑顔を取り戻していた。


「少しの間、入口を見張っとけ。後、騒動があった事を門番に報告を入れておけ。」


降りて来た部下にポワロが指示を出してさっと部下達が動き出した。


「さぁ、中に入れ。」


「ありがとう。」


「ねぇ、ポワロ叔父さん。今日はどんな話をしてくれるの?」


ポワロがザバルティとシャルマンに船に乗れと言うとそれぞれ違う反応を見せた。

ザバルティが感謝を述べるが、シャルマンは待ちきれず聞いてしまう。


「今日は兄上に挨拶に行かねばならない。だから今日は無理だな。」


え~と項垂れるザバルティとシャルマンの二人は本当に残念そうにする。

ポワロ叔父から冒険の話を聞く事が今日一番の楽しみだったのだ。


「まぁ、そんなにガッカリするな。後で暇をみてちゃんと話は聞かせてやるよ。」


「「やった~!」」


二人は飛び上がり喜びを表す。

子供らしい反応にポワロを始めとした大人達は笑顔になる。


「キーファ。飲み物を出してやってくれ。」


「了解です。さぁ、坊ちゃま方はこちらへ。」


キーファと呼ばれた女性の側頭部には特徴的な尖った耳がある。

金髪蒼目の整った顔立ちの美貌の持ち主。

そうエルフ族の女性である。

彼女はエルフでも上位種とされるハイエルフであり、ポワロのパートナーである。


「ありがとう。キーファお姉さん。」


「いいえ。それにしても益々可愛くなられましたねぇ~。」


「それは、男には誉め言葉ではないよ~。」


拗ねた顔になるザバルティとシャルマンを見てキーファはふふふと微笑む。

笑顔もやはり綺麗であり品がある。

エルフの女性は軒並みスレンダーで整った顔立ちをしており、ほりが深く鼻がスッと高い。

透明感のある白い肌をしており同性からも羨望の眼差しを受ける種族だ。

その分、選民意識は高くプライド高い種族でもあるとされる。

エルフの中でもハイエルフ達はそれが如実にでる傾向にある。

キーファもハイエルフらしい見た目をしており品のある美しさを持っている。

そんなキーファから微笑みを受けたらドギマギしてしまうのが男であろう。

ザバルティとシャルマンも他の男の例に漏れず何も言えなくなるのだった。




◇◇◇◆◇◇◇




数刻経ちザバルティとシャルマンはポワロ達一行と共に帰路についている。

行が二人だけだったのに対して帰りは100人以上になっている。

船員達もごく少数の見張り番を残して全員がついて来ている。


一団は行進の如く港から街中を通り丘の上へと向かっている。

港の中央部から真っすぐに道は整備されている。

何台もの馬車による一団の向かう先である丘の上には蒼き城が建っている。

王が住む王城ではない。

しかし東の玄関口アンバーを象徴するその白はマカロッサ子爵家の城であるシャンデル城。

シャンデル城へと至る道は城下町から続く一本道である。

丘の上は独立したエリアとなっている為、空を飛ぶ以外に侵入出来ない形だ。

また、丘の上は周辺にぐるりと設置された城壁がある上に設置型魔法による障壁が常時張り巡らされている。

防衛面も相当に高いのだ。

マカロッサ家のシャンデル城は下手な小国の城よりも広く丈夫な造りとなっているし外観も美しく、『美蒼城(ビューティフル・ブルー・キャッスル)』という呼ばれ方で世界各国の来客の目を楽しませる事が出来るモノとなっている。

港と街と城は扇の形を形成していて、城が要の部分で街が仲骨に位置しており港が扇面にあたり親骨が街の外周部になる形だ。

扇の天の部分は海上に設置された灯台になっている。

海からの攻撃は海そして街を越えて城という形となっており東の玄関口として強力な守りになっている。

また陸からは直接攻める場合は城からとなり得るが、唯一の上り坂は街に面している部分のみとなっているので制圧するのに時間の掛る仕様である。


そのシャンデル城へ続く真っすぐで大きな道をマカロッサ子爵家の紋章入りの馬車が通るのだから、領民が道の端に並んで見るというのも頷けるものである。

さながら【英雄の凱旋】の様であり見物人が出来るのである。


「ポワロ様!お帰りなさい!」


「キーファ殿!こっち向いてくだされ!!」


「きゃー!!キーファ様!素敵!!」


「キーファ!キーファ!キーファ!」


とは言え、そのほとんどが【麗しきハイエルフ・キーファ】が目当てだったりするのは仕方がない事かもしれない。

ハイエルフ自体の数が少ない上に人族との繋がりが少ない者達なのである。

だが、ポワロとしては仕方がないとは思いつつも面白くはない。

今もブスッとした顔でザバルティとシャルマンの前に座って居る。


「まったくよぉ~。」


「まぁまぁ。仕方が無いよ。キーファお姉さんだから。」


などとザバルティやシャルマンに宥められる始末だ。

決してポワロが不細工なわけでは無い、逆に人族の中でも貴族であるし顔は良い。

しかしそれ以上に、【麗しきハイエルフ・キーファ】が凄いだけだ。

八対二、もしくは九対一の割合でキーファ優勢である。


「そんなにイジケナイの。」


「けどよう。あの男どもの視線はムカつくんだ。」


「ふふふ。良いじゃない。見るだけなんだから。全てを見れる訳じゃないんだし。」


「む~。」


キーファに窘められるポワロという図を見てザバルティとシャルマンの尊敬の念はキーファに向かうのも道理であろう。

ただ、二人の関係が男女のそれである事をなんとなく理解しているザバルティとシャルマンは顔を赤らめ下を向く。

二人の父と母も同じ様に甘い空間を作り出す時があるので察してしまうのだ。


そうこうしている内に街と城との間の門を潜り抜け丘へと上がる上り坂になる。

緩やかな坂は右に緩いカーブを描きながら城へと続く道となっている。

もちろんこの道もシッカリと整備されており、両サイドは二重になった城壁が連なっている上に魔法の力によって補強されており、崖の上にある道とは思えない程にしっかりしたモノになっている。

またその外側の壁の外は崖になっており外からの侵入が難しいモノとなっている。

その為、マカロッサ子爵家の創家が建てたこのシャンデル城は一度も落城した記録は無く、難攻不落の城として幾度の戦火を越えて来た歴史が証明している。

平和時の【美蒼城(ビューティフル・ブルー・キャッスル)】は戦時の【不落蒼城(イモータル・ブルー・キャッスル)】と呼ばれるのだ。


全長1キロに及ぶ城へと続く道は戦時にでもなると大きな防衛力になるが、平和な今時代においてはただ不便な長い道となってしまうのがつらい所だ。

ただ人間も馬鹿では無い為、平時では内壁と外壁の空間を利用して騎士団の軍事訓練場と化す。

もちろん二重になった城壁の向こうなのだが、お客が通るタイミングでは見えない様に工夫されている。

長く緩やかなカーブを持った緩やかな坂は重量のあるフルプレートメイルを着て重量のある武器を持つと、非常につらい訓練場になるのだ。

騎士達の間では【悪魔坂(デビルズ・スロープ)】と呼ばれているのだが、戦時でも呼ばれ方は変わらないであろう工夫があちらこちらに設置されている。


今は両サイドにマカロッサ子爵家の騎士達が立ち並び、ポワロ一行を出迎えている。

そしてようやくポワロ一行が城を囲む城壁の前の門に辿り着き門をくぐると城の入口の前に大勢の人が待っていた。

その中央部にザバルティ達が乗る馬車が止まり、ポワロ達が降りると、先頭で出迎えていた黒髪の精悍な顔つきの男と青髪の色気のある女の前に立つ。

ザバルティが産まれて10年近く経っており、少し幼さが見え隠れしていたザバルティの父アルカティの幼さは影がなくなり、渋さがまし男を上げている。

また、少女の様な様子があったザバルティの母エスネスは美貌に磨きがかかり色気を纏っている。


「兄上、只今戻りました。」


「良く戻った。元気そうで何よりだ。」


父アルカティと叔父ポワロがハグをしてお互いの無事を喜びあっている。

その横では、エスネスとキーファが挨拶をしていた。


「さぁ、あなた皆さんには早く中に入ってもらいましょう。」


「おお。そうだな。ドドリゲス。案内を頼む。」


「かしこまりました。」


老年ながら衰えを感じさせないシュッとした様子の執事長のドドリゲスがサッと合図を出すとメイド達が動き出し、ポワロの部下達に案内を始めた。

シャンデル城は地球で言う所の中世ヨーロッパ風の造りをした建造物である。

また、貿易拠点であり東の玄関口である為に来客は多く、お客をもてなす設備は整っている。

それは城だけに留まらず、城下町にも来賓館など用意されている程だ。

今回のポワロ達は身内でもある為に城の敷地内にある別館が用意されていた。




◇◇◇◆◇◇◇




「ポワロ一行が無事に帰還した事を祝して乾杯!」


「「「「乾杯!!」」」」


思い思いの飲み物を入れた杯を掲げパーティーは開始された。

基本はエールと呼ばれる発泡酒である。

今回は長期遠征という事もあり、船員の家族達も呼ばれている為、大人数でのパーティーとなっている。

エールを入れた杯を大人達が豪快に重ね合う姿を子供たちが遠巻きにして見ている。

エスネスやキーファを中心とした女性陣は椅子に座り雑談に花を咲かせ始めた。


「ザバルティとシャルマンは良い子にしていましたか?」


「はい。二人は良い子にしておりましたよ。」


「良かったわ。」


「ふふふ。種族関係なく子供は同じですね。」


「まぁ、そうなの?」


「うちの子も、手が付けられなくって。」


同じ悩みを抱える母親同士、または身近に感じる同世代が多く揃っており徐々に愚痴へと移行しつつあるが、楽しそうな笑い声が絶える事は無かった。

そうしてパーティーは参加者の笑い声と共に時間は過ぎていく。



ザバルティは他の兄弟達と離れて大人達を憧れの眼差しで大人達を見ていた。


「あれはヤバかった!後少し遅ければグリットの腕はなくなっていたな!」


「馬鹿言え!あれはお前が足を滑らせたタイミングで偶々クラーケンの足を斬り落としただけだろうが?!」


「アホか?!偶然という奇跡も実力のうちだ!」


バカ笑いがホールに響く。

酒場の様な大騒ぎである。

普通の貴族のパーティーとは随分と趣向が違う。

そのバカ騒ぎを含めた『海の男とはこういうモノだ!』と言わんばかりのその姿にザバルティは憧れを持ち羨ましく思っていたのである。

ザバルティは長男であり次期マカロッサ家当主となる存在である。

長兄が家を継ぐのが当たり前の貴族であり、突発的な何かが無い限り不変のルールである。

そしてザバルティに対する期待は家族のみならず領民も望んでいる事を薄々ではあるがザバルティは感じていた。


海の男達による武勇伝。

アルカティが語ってくれた海の冒険。

キーファが教えてくれる世界の事。

少年ザバルティの好奇心をくすぐる世界の冒険譚は刺激的だった。

なので、ザバルティが『僕も世界を見て回りたい!』と思うのは自然な事だった。

この世界の一人の子供として憧れるのも無理は無い話である。


「「ザバルティお兄様。」」


ザバルティは声をする方へと顔を向けた。

そこには二人の少女が並んでいた。

薄い蒼の髪と黒目の瓜二つの少女達はザバルティの妹で双子だ。

ロングヘアにしている大人しそうな様子をみせる子が長女のリスタ。

ショートヘアにしている活発そうな様子を見せる子が次女のキティ。

双子の姉妹は5歳でザバルティとは5歳差になる。


「うん?どうしたの?」


「母上がお呼びです。」


「そっか、ありがとう。」


双子の妹達に先導されてザバルティはエスネスの元へと向かう。

そこには、父アルカティと母エスネスが揃っており、そしてシャルマンともう一人の弟である三男のスイードが居た。

スイードは金髪で3歳になったばかりで、既に眠たそうに黒目を閉じかけていた。


「どうだ?楽しい話は聞けたか?」


「はい。色々な話を聞かせて頂きました。」


アルカティは満足そうにしているザバルティを見て頷いた。

隣に居るエスネスも微笑をザバルティに向けていた。


「では、一次は終わりとしよう。」


一次の終わりとは、子供達の退場を意味する。

アルカティは席を立ち持っていたグラスを叩いて注目を集めた。


「これで宴はお開きとしよう。今宵は楽しかった。また開くとしよう。今日はゆっくりと休んでくれ。」


「「「「「はっ!」」」」」


こうして、ポワロ一行の無事を祝うパーティーは終焉を迎えた。

街に繰り出そうとする者や与えられた部屋で休もうとする者。

久しぶりの家族との時間を過ごそうと家に帰る者など各自自由行動になった。


そんな中、ザバルティ達マカロッサ家の子供たち自室へと戻らされた。

ザバルティは、まだまだ海の男達の話を聞き違ったのだが、母エスネスによる説得もとい言い付けには引き下がるほか無く、渋々と部屋へと戻る事にしたのである。

キーファが母エスネスと一緒に子供達を説得し、自室へと先導したのが大きい。

アルカティはポワロを誘い別室へと向かっていく。

そして後に残されたのは家人達だけとなり、パーティー会場は静かになった。




◇◇◇◆◇◇◇




アルカティとポワロはパーティー会場を後にしてアルカティの執務室へと入った。

大きな机の前にはソファアが二つむかい合って並べられてある。

そのソファに兄弟は向かい合って座る。

後ろからついて来ていた執事長のドドリゲスがサッと二人の前に二つの氷の入ったグラスを並べて、高価そうな蒸留酒をそのグラスに注いでいく。

二つのグラスに注ぎ終わると、ドドリゲスは挨拶をして部屋を出て行く。

その様子を見て感心した様子をポワロは浮かべる。


「凄いな。親爺と同年代とは思えない身のこなしだな。」


「ああ。本当に頭が下がる思いだ。彼のおかげで随分と楽をさせてもらっているよ。」


ドドリゲスは先々代からマカロッサ家に仕える執事でマカロッサ子爵家の生き字引的存在になりつつある老年執事長だ。

二人の小さい時も知っているのだが、傲りそうな場面でもそう言った感情を一切出さない姿に二人は逆に畏まる程である。

二人の父であるロマネス・マカロッサと同年代であり、このシャンデル城でロマネスと一緒に育てられた幼馴染的存在でもある。

そしてアルカティとポワロにとっては叔父の様な存在でもあるのだ。

そんな雑談を交えつつ二人の密談は進んで行く。


「それにしても、ここはいつもと変らない平和な様子で嬉しいぜ。」


「うん?どうしたんだ?改まって?いつも通りだろ?」


『ああ、そうなんだが。』と言って少しの間を置いてからポワロはグイっとグラスの中身を飲み干した。

氷がグラスに当たりカランという音がした。


「世界の情勢は少しキナ臭くなってきているんだ。」


「やはりそうか。」


「ああ。」


世界情勢、そして国内情勢が安定している様であって実際は権力や利権などの自身の益になる事を虎視眈々と狙って色んな人間が蠢いている状況である。

世界を動き回るポワロも貿易の拠点の領主であるアルカティにも情報は入っている。

だが、アルカティは耳にしているがポワロは目のあたりにしている違いがある。


「気を引き締めなければならないか。」


「うむ。戦争も覚悟せねばならぬかもしれない。」


「そうか。また民が苦しむ事になってしまうか。」


「ああ。そうだな。まぁここがそんな事になれば、俺が皆を逃がすがな。」


「ふふふ。頼もしい限りだな。期待しているぞ。」


「ああ。任せておけ。ただ、最後まで諦めるなよ?」


「分かっている。戦争にならない様に尽くすさ。それに万が一がという事態が起きても先祖伝来のこの地を簡単に手放すつもりも無いさ。」


『くっくっく。』と笑い合う兄弟は、空いたグラスに酒を注ぎ足す。

そして何度目かの乾杯をした。


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