第一話 異世界転生。
先ずは三話。
初話投稿。
『人とは罪深き生き物である。』
よく聞く言葉じゃ。
人の罪とはいくつもあるが、大罪として有名なモノは【傲慢・強欲・嫉妬・憤怒・色欲・暴食・怠惰】の七つであろうのぉ。
キリスト教のカトリック教会が発表したものが所謂【七つの大罪】として有名じゃな。
儂はこの考えにも共感できるのじゃが、それ以上に罪じゃと思える事があんじゃ。
それは、【自殺】じゃ。
生物の根源には『種族の命を繋ぐ』というモノがDNAレベルに組み込まれているのじゃが自らを殺すという行為はその生物の根源を揺るがす行為じゃ。
自らの命を絶たねばならない背景は人それぞれであろうが、致し方ないとは言えぬ。
こんな事を言うと『炎上』するかもしれんがのぉ。
じゃが、自分で命を絶つ行為はして欲しくはないんじゃ。
ある時代は【特攻】という言葉で、ある時代は【自決】という言葉で死を迎えねばならぬ存在がいたのじゃ。
生きたいのに、国の為、一族の為、色んな理由で死地へと送られて散った命を思うとな。
色々な人生を見つめて来た儂だからかのぉ?
儂が特別なのかもしれんがな。
歳を取るとダメじゃのぉ。
要らぬ事を言ってしまうわい。
わっはっはっはっは。
出来れば、今から登場する人物の人生の終え方をしてもらいたいものじゃ。
◇◇◇◆◇◇◇
ある男が死を迎えようとしている。
死とはどんな生物にも訪れる平等な現象である。
形はどうであれ、死は必ず訪れるモノだ。
その男は今年で88歳という年齢に達していた。
現在の日本での男性の平均寿命は82歳ぐらいと言われている。
その平均寿命を越えて迎えた死である。
老衰と言える症状は沢山の体の異常をその男に与えた。
しかしその男の顔には安らかな様子を見せている。
「父さん。今までありがとう。父さんのおかげで僕等は幸せに過ごせたよ。」
あちらこちらからすすり泣く声がしている。
男はすこやかな笑顔を浮かべた。
もう、声をあげる事も出来ないその男は自分の死を悟っている。
しかし悔いは無かった。
長い様で短い人生。
88年の歳月はあっという間に過ぎて行った。
多くの出会いと別れ。
悲しい事、つらい事、嬉しい事、楽しい事、沢山の出来事が頭の中を巡る。
そんな沢山の出来事を乗り越えて、今がある。
平凡な人生であったとも言えるし、かけがえのない人生でもあったと男は思った。
発展逞しい日本の時代を生き抜いた男の人生は多様性を求められるモノであった。
例えば、仕事では手書きの図面からシステムを利用した図面作成になった。
始めは利用するネジの一つ一つまで手書きで書き起こしたりもしていたのがシステムを利用する事でパソコン上において立体図面を作成するまでに変化した。
連絡手段も、手紙から個人用の電話機によるオンライン通信で即時の返信まで出来る様になったのだから【日進月歩】と呼ぶに相応しい発展である。
人生とは複雑で数奇なモノだと男は思った。
子供の頃にマンガで見た事のあるモノが後に世の中に存在する様になっている。
凄いなと素直に思ったし、自分の所属する日本という国を誇らしく思った事もあった。
設計をしている事で色々と想像した事もあったほど多種多様なモノに興味を抱かされた時代でもあったのだ。
「お爺ちゃんに、おやすみなさいと言ってあげて・・・。」
「お爺ちゃん。おやすみなさい。」
薄れゆく意識の中で、自分の人生を振り返り見ていた男は孫からの悲しそうな言葉で現実世界へと意識を戻した。
こうして身内に看取られながら死ぬ事が出来るのは幸せなだと男は思った。
そして幸せな人生であったとこの時に実感したのである。
【家族、ありがとう。神様、ありがとうございました。かあさん、今そっちに行くよ。】
口に出す事が出来ない男の言葉は【思い】となって波を打つ様に広がっていった。
そして、男の意識は無くなったのである。
◇◇◇◆◇◇◇
≪目覚めよ。≫
そんな言葉が男の頭の中で響いた。
【なんだ?】
そう思ったのだが、その言葉は威厳があるが優しい響きだった為に男は不快になる事は無かった。
言葉に導かれる様に男は目を開けると、眼に前には絶世の美女?が立っていた。
知らない絶世の美女から声を掛けられたのに、不思議と不安な気持ちにならなかった。
【何処かでお逢いしたかな?】
そう思いながら、目の前の絶世の美女を見る。
腰まで伸びた髪は黒色であり、パッチリとした黒目は凛とした感じを受ける。
白銀の様式の鎧姿であり神々しい立ち姿は威厳がある上に後光が指しており神聖な雰囲気を持っている。
≪これから、汝には我の力となって欲しい。≫
唐突な依頼。
一方的な物言いであるにも関わらず、男は不快にならない。
ただ、何が自分の身に起こっているのか?と首を捻るばかりであるが、目の前の絶世の美女に返事を返さないのはマズいであろうと返事をする。
「申し訳ないのですが、貴方様はどちら様でしょうか?それに、力になれとはどういう事なのでしょうか?」
丁寧に質問をする。
心の中では沢山の?マークが占めている。
それが分かったのか、クスリと目の前の絶世の美女は笑顔を見せた。
≪すまない。我とした事が急ぎ過ぎてしまった。我は神と呼ばれる存在の一柱である。我の使徒として私の統括する世界に来て欲しいのだ。≫
神も複数存在すると自称神は男に告げる。
神が告げる内容はそういうモノなのか?と理解させられる。
男が住んでいた世界とは異なる世界の一つを治めている一柱であるというのだ。
その世界は、地球とは異なる世界であり、魔物や魔法が存在する世界であり、地球に比べて未熟な世界であると女神は言う。
「私は普通の人間です。そんな私が神様のお力になれるのでしょうか?」
≪もちろんだとも。汝の不安は分かるが安心するが良い。もちろん力を授けよう。それとも嫌かな?≫
少し砕けた感じの話し方に変わっているが、それは目の前の男に配慮しての変化であるが男には余裕がなく、変化にも気づけないでいた。
男は生きている時も神様という存在を信じていた。
信心深いかはともかく、運命や非科学的なモノを疑う事は無かった。
なぜなら、人間ですら夢物語であると思っていたモノが科学の発展により現物として地球には存在していたからである。
そんな男が神様を目の前にして平常心ではいられないであろう。
「滅相もございません。私の様な物で良ければ、神様の命に従います。」
≪うむ。嬉しく思う。で、何か希望や願いはあるか?≫
「ありがとうございます。ですが、今すぐに思い浮かべる事の出来るモノはありません。」
≪そうであろうな。では、汝には使徒としての力を先に授けよう。時期が来たら、再度お主に願いや希望を問う事としよう。≫
「ですが、記憶は無くなるのでは無いのですか?」
男の知識にあるのは、輪廻転生というモノだけである。
そもそも転生したモノの記述や話を聞くなどという話は物語でしかしらない。
『私は転生した』と誰かが言った所でそれを信じる者など居ないし、それを証明できる証拠など提示しようがない。
また輪廻転生には前世の記憶が無くなるとされている。
記憶を保存するのが肉体である脳だとされている事からもそれが間違いない事であると信じられている。
≪ふふふ。信じられないのは仕方がないであろう。だが、今現在のこの状況もお主にとっては夢だと思えるのではないかな?≫
「たしかにその通りでございます。」
男は神の言う通りに夢ではないか?と思っていた。
ただ、思い返すと、意識を失ったのは間違いなく死を感じていたのも実感として残っていた。
だが、今の自分の状態を理解している訳では無いので夢かもしれないと思ってしまうのだ。
それも仕方がない事だろう神は考えていたのである。
人という存在は実感を持たねば理解する事が難しいという事が分かっているのである。
それも、この様な想像外の出来事が起こればより一層であると考えた。
≪お主には、地球で育った感性を大切に生きて欲しい。頼むぞ。≫
「私は何をすれば良いのでしょうか?」
≪ふふふ。汝の心の赴くままに生きれば良い。≫
「生きるだけですか?」
≪うむ。≫
神はニコリと慈悲深い笑顔になると頷く。
男の頭の中は疑問で埋め尽くされて、疑問ばかりが頭を支配しかけたが、神の笑顔に見惚れてしまい『どういうことですか?』という言葉は声にならなかった。
そしてやはり何処かでお逢いした事があるのではないか?という思いが沸き上がってくると共に男の意識は遠のいていった。
男は周りを確認する事も出来ずに意識を失ったのである。
◇◇◇◆◇◇◇
ジャポネス帝国統一歴 728年
帝国の統一から700年以上の歳月が過ぎ、世界は混沌の時代を迎えている。
200を軽く超えるこの世界の一つの貴族の家で産声が上がった。
ガタンと大きな音を立て、扉が開いた。
開いた先には、豪華な衣装を纏った青年が立っていた。
整った顔つきの蒼髪蒼目であり背も高くスラッとしている。
待ちに出向けば、誰もが振り向くほどの美貌の持ち主である。
その男に向かいメイド服を着た女性が声を掛ける。
「元気な男の子でございます。」
「ほんとうか?エスネス!よく頑張った!!」
「ふふふ。ありがとうございます。」
青年に優しい笑顔を向ける女性。
こちらも整った容姿をしており、飛びぬけた美貌の持ち主で黒髪黒目ある。
今は出産の後という事もあり少し疲れた様子を見せているが、達成感からなのかどこか凛とした雰囲気をもっており青年を優しい眼差しで見つめる。
その隣には産まれたばかりの黒髪黒目の子が寝かせられている。
目は開いているので起きているのだが、鳴き声を上げずにマジマジと自分を見る大人達を見まわしている。
「「「「おめでとうございます。」」」」
周りの大人達は青年と女性に対して一斉に頭を下げつつ声を揃えた。
「うむ。ありがとう。」
「皆さんも色々と助けてくれてありがとう。」
青年と女性は笑顔になり感謝を口にした。
二人の子供を見る目は優しい。
その赤子の名はザバルティ・マカロッサ。
マカロッサ家27代目であるアルカティ・マカロッサとその妻エスネス・マカロッサの嫡男として生を受けた存在である。
「なんてことだ?!こんな状況なのに泣きもしないとは?!この子はきっと立派な男になるぞ!大物の予感しかしない!」
空気が読めるかのように、今は泣いていなかった。
ただ、満たされているだけなのかもしれないのだが、そんな事は誰も分からない。
そんな赤子を前にしたアルカティが勢い込んで発言する姿を見て妻であるエスネスを筆頭に周りの従者達は苦笑する。
大袈裟だと思いながらも、よほど嬉しいのであろうと皆は感じたのである。
微笑ましい様子に、従者達は自分が仕えるこのマカロッサ家の継続する繁栄を感じ取っていた。
◇◇◇◆◇◇◇
そう、彼こそがこの物語の主人公である。
前世において地球の日本で88歳・88年という時間を過ごした男である。
家族に見送られ、神の一柱に請われてこの世界に転生した元地球人であり元日本人である。
そんな男が織り成す物語はきっと楽しいものであろう。と儂は思うのじゃ。
故に、一緒に見てみようではないか?
◇◇◇◆◇◇◇
この世界には、剣と魔法がある。
この世界には、多種多様な人種と生物が生きている。
この世界は、ある人物が治める国により統一された事があるのである。
その統一を成した国の名はジャポネス帝国。
その帝国の天帝にして唯一無二の天帝となった人物。
それが、リン・M・ジャポネスという女性であった。
人族であった彼女は他の追従を許さぬ程の隔絶した武力を持っており、どんな存在も彼女に勝つ事は出来なかったと言われている。
始原の存在達も誰一人として勝てなかった。
龍であろうと悪魔であろうと勇者であろうと魔王であろうとその限りではなかったと言われている。
神すら凌駕すると言われる程に、他者との隔絶した武力を示した存在であった。
その上で、圧倒的なカリスマを備えていたというのだ。
そのカリスマ性は凄まじく、敵対者を次々に下しながらもその相手が臣従させた。
どんな存在も彼女を害する事をせず、忠誠を誓ったというのだ。
彼女がこの世界を統べる覇者となったのは偶然ではなく必然だったのであろうと後の歴史学者たちは口を揃えて結論付けた。
そんな圧倒的な武力と圧倒的なカリスマでもって統一した存在も寿命には勝てなかったと歴史は証明しており統一後数年でリン・M・ジャポネスは崩御したのである。
そしてその後を継いだのがエスクダートという魔族の者であった。
この世界の魔族は人族よりも平均的に優れている種族である。
しかし、優秀な者が多い種族ではあるが、全体の人口を見るに少数の存在である。
圧倒的に人族が多い。
結果、起こる帝国の崩壊である。
天帝であるリン・M・ジャポネスは人族であった。
人族の代表者たちは、次期天帝の一族の中から選ばれると思っていた。
しかし結果は魔族である。
『天帝は騙されている!』と人族の代表者たちは声を上げた。
エスクダートは人族を制圧する事はしなかった。
よって統一国家ジャポネス帝国は滅ぶ事になったのである。
エスクダートの思いは分からないが、事実として統一国家は無くなったのである。
ただし、統一国家があった事実はいたる所で散見される。
例えば、道などは目に見えて当時の物を利用している所が多い。
そして歴である。
今現在も、この世界では統一歴を使用しているのである。
単純にある方が便利であるのも理由の一つであるが、700年以上経った今でも、世界中の人々の心の中には天帝であるリン・M・ジャポネスを尊敬しており、敬意を払っている証でもある。
彼女は英雄であり、偉業を成し遂げた偉人であると同時に信仰の対象になっている事が大きな理由である。
統一国家の分裂と消滅により世界は戦争と混沌、そして欲望が渦巻く世界へと変貌していった。
現在では大国小国等合わせて200以上の国が存在している。
単一種族からなる国から複数の種族からなる国。
宗教国家や連合国家に都市国家。
その形態は700年以上の歳月を経て、多種多様な形態を形成している。
その多くの国が並び立つ世界のなかの一つ。
ロードスト大陸の中東部に位置する場所にアスワン王国という国がある。
人族が支配する国家であり、貴族社会が支配する単一種族の国家で、隣国のフリーア王国より自治を認められ独立国家へと成った国である。
初代国王はフリーア王国の王族出身であり、フリーア王国からの強い影響を受ける国である。
もちろん世代が進むにつれて薄くなっているが、血の尊さを求める貴族世界の為、フリーア王国を重んじる風潮は変わりない。
アスワン王国は国内を15の地区に分けており、自国に所属している貴族に所領を与えて統治させている国である。
その中の一つ東方地区の一画にマカロッサ子爵家の領地がある。
領地は海に面した地域で、他国との交易を担う貿易拠点の一つとして栄えている。
大陸における面積は大きく無いモノの海岸沿いにある為、ほとんどが無人島とはいえ、周辺に位置する島々も統治下に治めている。
多岐に渡る言語が飛び交う場所に生まれた一人の男の子はすくすくと成長していた。
そして誕生から10年の歳月が流れようとしていた。
◇◇◇◆◇◇◇
潮の香りを風が運び海面に波紋が広がる。
その穏やかな海面をキラキラと輝く太陽の光が反射して二人の少年の髪に艶を与える。
潮風に黒髪と青髪の二人の少年のその髪がふわりと浮かび上がる。
小高い丘の上にある城壁の上からの景色には海に面している街並みとそこから広がる様に海が見渡せる。
「兄上。今日も風が気持ちいいですね~。」
丘の下から上がってくる潮風を感じた青髪の少年は言葉の通りの気持ちよさそうな顔を黒髪の少年へと向けた。
「そうだね。シャルマン。とっても気持ちがいいね。」
黒髪の少年は青髪の少年シャルマンに優しい顔を向けた。
この黒髪黒目の少年こそ、ザバルティ・マカロッサである。
父親の特徴を受け継いだ黒髪黒目に母親から受け継いだ容姿は気品に満ち溢れており彫刻の様な美しさを持っている。
まだ10歳になっておらず、男女の区別がつきにくい程だが、少年は少年らしい服装をしているので分かるという程度である。
「今日は何処に行くのですか?」
期待を込めた目でみるシャルマンを愛おしそうな顔で見返すザバルティ。
「今日は船着き場へ行こうと思っているんだよ。」
「船着き場ですか?」
「ああ。船着き場だよ。」
「・・・もしかして、ポウロ叔父様が戻られたのですか?」
「そうだよ。ほら、あそこ見えるかい?」
ザバルティがシャルマンの肩を寄せながら指さす先には真っ黒な帆を立てた大きな黒い船があった。
黒い船体の側頭部には黄色い雷マークの様なラインが入っている。
帆の天辺にマカロッサ子爵家の家紋が白で描かれている濃い黄色の旗が立っていた。
マカロッサ子爵の家紋は六芒星の中心にドラゴンが描かれている。
ドラゴンとの所縁があるという家紋はマカロッサ子爵家を表わす。
「はい。僕にも見えました!でもなんで兄上はポワロ叔父上が今日戻られるのをご存知だったんですか?」
「魔法の伝書鳩が昨日届いたんだよ。」
「兄上だけズルいです!」
「ふふふ。そうだね。ごめんね。少しシャルマンを驚かせたくてね。次からは必ず先にシャルマンにも教えるね。」
少し頬を膨らませたシャルマンに慌てて謝罪をするザバルティ。
「絶対ですよ?!」
「もちろん。」
「なら許します。さぁ、兄上急いで行きましょう!」
「ああ。急ごう。」
本当に怒っていたわけでは無いのかスイッチを切り替えたかの様に直ぐに機嫌を直したシャルマンはザバルティを急かして走り出す。
兄弟は丘の上にある城壁に上から街へと続く道へ飛び降り、城下へと勢いよく駆け出した。
冬も終わり、暖かい太陽の光が兄弟を包み込む。
少年達の笑顔と笑い声が辺りを更に暖かくした。