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ザ・ブラインド  作者: 千勢 逢介
第二章
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   5



 広大な牧草地に一軒だけぽつんと佇む家、そこでジョンは生まれたそうだ。

 断言できないのは幼いジョンの記憶が曖昧であり、そこが本当に生家であるかどうかはっきりとしないからだ。もしかしたら、彼の家庭は牧場主の家を間借りするほど貧しかったのかもしれないし、逆にその家を別荘として使えるほど裕福だったのかもしれない。

 真実はともあれ、ジョンは子供心に長く感じるほどの年月を、その家で滞在していたそうだ。


 ある日、ジョンがいつものように庭先で絵を描いていると、牧草地を通る一本の砂利道を数人の男たちが歩いてやってきた。

 男のうちのひとりがジョンに笑いかけ、こう訊ねた。


「やあ、坊や。それは虎の絵かい?」

 ジョンは首を横に振ると、「ううん、牛の絵だよ」


 男は笑みを顔に張りつけたまま何度か頷いた。


「お父さんは家にいるかい?」

「うん、本を読んでる」ジョンは男を見上げながらそう答えた。


 男たちは家に入っていった。

 ジョンはまた絵を描きはじめた。

 しばらくすると、男たちは家から出てきた。


「坊や、また来るぜ」そう言ったのは、先ほどの男だった。


 数日後、男たちはふたたびやってきた。

 同じように砂利道を歩いてくる男たちに気づいたジョンは、慌ててポーチの下に潜りこんだ。頭上で響く男たちの大きな足音に膝を抱えていると、男たちは父親といくらか言葉を交わし、そのまま帰っていった。


 さらにその数日後、男たちは夜、銃を持って家にやってきた。

 あの笑顔の男が、ジョンの腕をつかんで食卓から引き離した。その顔に浮かんだ笑みは相変わらず冷酷だった。

 詰め寄った父親が別の男に撃ち殺された。

 母親はジョンを取り返そうとしたところを撃ち殺された。


 あっという間の出来事だったのか、そこにいたるまでに長いやりとりが交わされたのか、ジョンは覚えていない。

 ただ、目の前の光景をしめだそうと、両目を強く瞑ったことだけは覚えていた。

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