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ザ・ブラインド  作者: 千勢 逢介
第一章
8/172

5

 マートンの家は大きい、というより巨大とさえ言えた。

 玄関ロビーのすぐ右手がシュールームになっており、嘆かわしいことに靴を置くだけのこの空間だけで、わたしの家のバスルームと同じくらいの広さがあった。


「すごい家ね。家賃を払うのが大変そう」備え付けの棚に整然と並んだ革靴を見てわたしは言った。

「分譲だろ」現場検証のための水色の手袋をはめながらリッチーが言う。「しかし、たしかに事件現場でもなきゃおれたちとは無縁の場所だな」

「またそんな不謹慎なこと言って」

「とにかく行こう。刑事エリック・マートン、その知られざる私生活を拝見だ」


 リッチーは豪壮なたたずまいの家を、気後れすることなく進んでいった。いましがた現場に駆けつけ、いまいち事情を把握できていないわたしは、おとなしく彼についていくしかない。


 玄関ロビーから右手に伸びる廊下を進んで部屋に出ると、慌ただしく行き交う鑑識官たちの鋭い視線がわたしたちを出迎えた。

 そこにはキッチンとダイニング、それからリビングがひとつになった壁も柱も無いひとつの大きな空間で、家主の許可さえ降りればベッドと見まがうほどに立派な樫材のテーブルを周回コースにバイクを乗りまわせそうなほど広かった。

 周囲をぐるりと囲う大窓からはニューオーウェル市民の憩いのシンボル、クライトンパークの緑豊かな風景が一望できた。その窓際では鑑識官たちが作業しており、ときおり明滅するカメラのフラッシュがロウテーブルに乗ったガラスの天板で反射した。


「班長」


 リッチーが声をかけると、鑑識官のひとりが振り向き、こちらに歩いてきた。わたしも何度か現場で顔を合わせたことのある班長はリッチーと同世代だが、無精ひげがのび放題の我が相棒とは対称的に、長さをきっちり揃えた口ひげをたくわえている。


「やあリッチー、それにリサも」


 班長は鑑識班のマークが刺繍された黒い帽子を脱ぐと、汗をぬぐいながら薄くなりはじめた髪をなでつけた。現場のこの熱気では無理もない。人いきれと暖房のせいだろう、わたしも上着を脱ぎたくなっていた。


「進捗は?」とリッチー。

「いいとは言えんな」

「リッチーから単純な現場だって聞いたけど」わたしは訊ねた。

「ああ、単純か……」班長が帽子を被り直す。「たしかにそうだな。密室にいきなり銃弾と死体だけがあらわれた、と言えばいちばんわかりやすいだろう。まあ見てもらったほうが早いな。現場を明け渡そう、ここから先はあんたがたの仕事だ」


 奥へ進むリッチーについていこうとするわたしを、班長が引き止める。


「リサ、無理はするなよ。身内が殺された現場ははじめてだろう」

「ありがとう」わたしは頷いた。

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