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ザ・ブラインド  作者: 千勢 逢介
第二章
51/172

14

 三十秒足らずで閃光と発砲音は鳴りやんだ。

 わたしは自らも抜いた銃を構えると、息をひそめて銃撃戦がふたたびはじまるのを待った。

 だがその必要なかった。目を覆う闇の向こうから聞こえてくるのは、苦しげな男たちの呻き声だけだったからだ。


 わたしは手探りで先ほどのレバーを探りはじめた。暗闇の中、金属製のレバーのひやりとした表面が突然指先に触れ、思わず声をあげそうになる。それから探り当てたレバーを握ると、かたく目を閉じてから持ち上げた。


 発電機がうなりをあげ、天井からふたたび光が降り注ぐ。

 わたしは光に慣らすためゆっくりと目を開けると、階下を覗きこんだ。


 一階の床は刷毛で乱暴に塗りたくったように、そこらじゅうに血の跡が引かれていた。

 だが、凄惨な光景とは裏腹に、六人の男たちは全員生きていた。ある者は腕を、またある者は脚を押さえて倒れてはいたが、死んでいる者はいなかった。

 それでも悪党たちがもがくたび、その傷口からはどくどくと血があふれ、床の血だまりも大きくなっていった。血糊の上には大量のコインや札束、それにカードがラメのように散りばめられている。まるで気のふれた菓子職人の作るチョコレートソースのようだ。

 そんな変貌した倉庫の中、ジョンは相変わらず静かに佇んでいた。


「ジョン!」わたしは柵から身を乗り出すと、階下にいる彼に声をかけた。

「降りてきてくれ」ジョンはわたしのほうは見ずに言った。「結束バンドはあるな?」

「ええ、いま持っていくわ」

「よし、それじゃあ――」


 だしぬけに銃声が響いた。撃ったのはジョンだった。

 硝煙をあげる彼の銃口が向く先で、悪党のひとりが自分の手の風通しがよくなっているのを見ながら口をあんぐりと開けている。その男は数インチ先の床に転がっていた拳銃に手をのばそうとしていたところを、ジョンの二発目の銃弾を受けていた。


「まったく手癖の悪い連中だ。ひとりでは面倒見られんよ」


 新しく与えられた激痛で男がのたうちまわるのを尻目にジョンが言う。わたしがキャットウォークまわりこんで階段をおりていくあいだも、男の叫びがやむことはなかった。


 一階におりたわたしは、六人の男たちの前で腕を組むジョンの隣に立った。


「約束、守ってくれたのね」床に転がる悪党たちを見ながらわたしが言う。

「ほかにやりようがなかったからね。まあとにかく、誰も殺していない」


 わたしは頷いた。いつのまにか口元が緩んでいたが、ジョンがそれに気づいた様子はない。


「さてと……それじゃあ、ここからはわたしの仕事ね」


 わたしはポケットから白い結束バンドを取り出した。本来は電気ケーブルなどを束ねるために使うものだ。わたしはそれを手に、男たちをひとりずつ後ろ手に縛っていった。

 この即席の手錠はマフィアも使うので察しがついたのだろう、なかには抵抗する者もいたが、傷を負った体では長くはもたなかった。

 それにわたしだって警察官、逮捕と拘束のプロだ。


 それでも男六人分の相手をひとりでするのはさすがに骨が折れ、最後のひとりにとりかかったときには額にうっすらと汗をかいていた。


「急いでくれ」ジョンは言った。

「だったらあなたも手伝ってくれればいいじゃない」わたしは汗をぬぐいながら答えた。

「無茶言うな。わたしの目じゃ自分の親指まで結びかねんよ」

「銃の撃ち合いができるくせによく言うわ」言いながらわたしは最後のひとりを拘束を終えた。「じゃあちょっと電話してくる。こいつらから目を離さないで」

「《《目を離さないで》》、か。お安いご用だ」


 わたしはジョンのそばを離れると、倉庫の一角をパーテーションで仕切った事務室へと向かった。流れ弾が当たったのだろう、ドアに張られていたガラスが粉々に砕けている。ドアを開けたわたしは、事務所の中で携帯電話を取り出した。


「わたしよ」電話口の相手にそう告げる。「もう来てもいいわ。Aの八十三番倉庫。赤い屋根が目印」


 それだけ言ってわたしは電話を切った。ジョンのところでまた厄介事が起きているのではないかと心配したが、聞こえてくるのは相変わらず怪我をした男たちの呻き声だけだった。

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