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ザ・ブラインド  作者: 千勢 逢介
第一章
23/172

20

「それで、今日はどんなご用でしょうか、アークライト刑事?」握手をほどいたミスター・ウェリントン……もといジョン・リップはゆっくりと両手の指を組んだ。

「リサでいいわ」

「では、わたしのこともジョンと呼んでください」

「それじゃあジョン、これはあなたに言うべきことなのかどうか……こんなふうに押しかけてきておいてなんだけど、実際のところ判断がつかないの。上司からの指示でここにきたんだけど」

「ふむ。ひょっとして駐禁の罰金を支払い忘れましたか?」

「そんなんじゃないわ」ジョンならではの冗談なのつもりなのだろうか。しかしわたしは曖昧に微笑みながら牛乳をひとくちすすることしかできなかった。「それとも、もしかして車の運転ができるわけ?」

「まさか」半信半疑で訊ねるわたしに、ジョンが苦笑を浮かべる。


 それから会話が途切れ、わたしたちはしばし牛乳を飲み続けた。

 ジョンの目が見えないことは、焦点の合わない視線からもあきらかだ。にも関わらず、わたしは彼に見られている気がしてならなかった。

 それまで室内に満ちていた和やかな雰囲気が、突然冷え込んだように感じた。急に居心地が悪くなり、わたしはマグカップを両手で包みながらちらちらと彼を見ることしかできなかった。


 冗談の受け取り方がまずかったのか。ジョンが腹を立てているのだと思い至り、わたしは自分の軽口じみた受け答えを詫びようとした。

 だが、それよりも先に言葉を発したのはジョンだった。


「カール・マクブレイン」


 口にされた名前に思わず耳を疑う。わたしは謝ろうと開きかけた口を噤み、同時に彼が怒ってなどいないことにも気がついた。


「どうして署長を?」

「やはりきみをここに差し向けたのはあの男か」

「ええ……」


 呆気にとられたわたしは素直に頷くしかなかった。ほんの数秒のうちに、ジョンの様子は急変していた。丁寧で慇懃な態度は消え去り、どこか冷淡で、口調も平板になっている。

 ジョンは深くため息をつき、こう言った。


「マートンが殺されたと訊いた」


 マートンの名も口にしたジョンに、わたしはふたたび驚かされた。それにしてもマクブレイン署長の名前と同時に出てくるとは、やはりマートンと署長が裏で秘密めいた間柄にあるのだろうか。


「数日中にマートンの代理の人間をよこしてくることは予想していた。だがまさか、それがきみだったとはね」

「ジョン、あなたはなにを知っているの?」

「きみこそ、なぜすぐに自分がわたしの新しい監視役だと言ってくれなかったんだ?」

「ちょっと待って、監視役ですって?」

 ジョンはサングラス越しにもわかるほどはっきりと眉根を寄せると、「まさか、署長からなんの説明も受けていないのか?」

「ええ、ここに行くように指示されただけよ。ある人物と接触しろとだけね。わたしだって、その相手があなただったなんて思ってもみなかったわ。いったいどういうことなの?」


 質問を投げつけあうばかりで、わたしたちの話は少しも前に進まなかった。お互いがいまいち状況を飲み込めておらず、理解につながる兆しもない。

 さらにわたしについて言えば、ある差別的な先入観からジョンよりも理解に対して数歩出遅れていた。


 正直に告白しよう、わたしは盲目の彼が警察の協力者などと、これっぽっちも思っていなかった。それどころか、盲目の人物が警察の職務に携われるはずがないとたかをくくってすらいた。はたして、その愚かな思い込みはここから先の数ヶ月で根底から覆されることになる。

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