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ザ・ブラインド  作者: 千勢 逢介
エピローグ
172/172

5

<ザ・ブラインド>をとりまく一件以降、わたしは署長代理であるリッチーから巡回警官への異動、つまり事実上の左遷と、謹慎処分を受けた。

 知らなかったとはいえ、嘱託殺人の共犯者であった事実に違いはない。むしろバッジをとりあげられなかったのは破格の条件と言えた。

 意外にも、わたしの同僚たちはこの処分に異を唱えてくれた。彼らは口を揃えて、わたしが殺人課に必要な人間だと言ってくれたのだ。

 嬉しくはあったが、わたしは処分を受けることにした。


 ジョンとはやり方が違うのかもしれない。それでも、警官は警官としてけりをつけなくてはならない。


 わたしとリッチーを除いて、警察署内でジョンの秘密を知る人物はいない。少なくとも、いまのところは。

 謹慎明けに懐かしの制服に袖を通せば、古巣でティムがわたしを待っているはずだ。

 ジョンのことを伏せながら、真実を話すというティムとの約束をどこまで果たせるかはわからない。それでも、マクブレインの容疑が立件されれば、わたしさえも知らない部分を含めて事件の真相はいずれ白日の下に晒されるだろう。

 そのときこそ、ティムと、それからアルに、わたしが事件の顛末を伝えるときだ。


 リッチーに言いわたされた謹慎期間は半年間。彼はそれとともに、わたしにいくつかの命令を下した。


 まず謹慎中はウェストヴァージニアの実家で過ごすこと。

 それから毎日近しい人たちと会話をし、故人を悼み、それから母親を大切にすること。


 これがいまのわたしに課せらた職務だ。

 つまりリッチーは謹慎処分と銘打ちながら、わたしに体のよい里帰りの口実を与えてくれたのだ。


「今度は実力で刑事になってみろ。待ってるからな。なに、おまえさんならできる」処分を受け、立ち去ろうとするわたしにリッチーがかけてくれた言葉だ。


 いまこの物語の最後を、故郷へ向かう車中でしたためている。


 正直、実家には素直に足が向かず、乗り合いバスに揺られては行く先々の安モーテルに泊まって時間を浪費するという日々が続いている。

 それでも母が待つ家には……故郷のウェストヴァージニアには少しずつだが近づいている。


 きっとジョンも、いまは穏やかな生活をおくっているのだろう。


 レオはシシーを殺すのではなく、組織の命令に背いてまでジョンの大切な人を守ってくれた。

 ジョンは警察官としてのまっとうな人生に戻れるよう、あえてわたしを突き放してくれた。

 拳銃やランプだけではない、ジョンはレオから受け継いだ炎を、今度はわたしに託してくれたのだ。だからわたしは、前よりもほんの少しだけ強くなれた気がする。

 その小さな証拠として、ジョンとの最後はかつての恋人以上につらい別れとなったが、わたしにはもう傷心を癒すためのアルコール入りのアイスクリームや紅茶は必要なかった。


 ここにあともう少しだけ強さがあれば、きっと母に会うことへのためらいも振りきれるはずだ。


 これはジョン・リップの物語だ。同時に、わたしと彼との友情の物語でもある。

 その根底にはいつだって血塗られた死が横たわってはいたけれど、鮮烈に生きた人々の命の輝きもまた存在していた、わたしは強くそう信じている。


 だからわたしはこれを書き終えた。

 どこにいるとも知れない相手にこれが届くことはないだろう。

 それでもジョンに……わたしの友人に宛てて、これを書いた。


 この物語は、手紙を受け取ったわたしから、ジョンへ宛てた長い長い返事の手紙だ。

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