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ザ・ブラインド  作者: 千勢 逢介
第二章
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「レオは昔話もよくしてくれた。

 子供のときのことも話してくれたが、話題はもっぱら従軍していた中東での出来事と、アルベローニと出会ってからのことだった。


 わたしがアルベローニ・ファミリー旗揚げに詳しいのも、もとはアルベローニ本人から話を聞いたレオに、それを教えてもらったからなんだ。

 レオからはそれ以外にもファミリーの秘密をいろいろと打ち明けられた。それを刑事であるきみに話すわけにはいかないがね。話せばますますきみの安全を保障をできなくなる。


 目が見えなくなる兆しがあらわれたのがいつなのか、はっきりとは思い出せない。

 だが、わたしはあるときから目に違和感をおぼえはじめていた。目の奥にしこりができたような、どことなく眼窩が熱っぽく火照るような感覚は半月に一度の割合で起きていた。

 はじめは疲れが目に出ているんだと思ったよ。仕事のストレスによる一過性の症状だとね。そもそも自ら手を下していないとはいえ、わたしはレオの暗殺の手並みをいちばん近いところで見てきたんだ。心身になにかしらの影響が出ないともかぎらない。それでもいずれはこの痛みに馴れるか、知らないうちに治っているとたかをくくっていた。


 ところがその症状は、わたしが二十歳に手が届こうとするころには慢性化していた。それでもレオに打ち明けようとは思わなかった。話せばきっと、レオはわたしをこの仕事からはずすだろう。いくら凄惨なものであっても、わたしはこの仕事を離れたくはなかった。


 そんなとき、組織からの新しい依頼をレオではなくわたしが受け取ったのは、偶然ではなく運命だと言うほかなかった。


 その日わたしとレオはいつになく激しい口論を繰り広げていた。

 とはいえ、一方的に口を開いていたのはわたしだけで、レオは煙草を吸いながら必要最低限の返事でそれをあしらっていた……まあ、それがあの頃の普段の光景だった。


 ちょうどその頃、ファミリーはひとりの暗殺者をよそから雇っていたんだ。

 暗殺者の腕前は超一流というほかなく、実績を重ねるごとにファミリーはそいつに積極的に新しい仕事をまわすようになっていた。反面、レオとわたしの仕事は減りはじめていた。


『おまえたちはいずれお払い箱さ』


 新しい暗殺者を雇っていくらも経たない頃、わたしたちの前にめずらしく顔を出したピーノが嬉しそうにそう言ってきたのをいまでも覚えているよ。


 実際のところ、その暗殺者をファミリーがわたしたちより重宝しているのはあきらかだった。多少は扱いづらいところもあったが、なにより仕事が早かったからね。


 わたしの話をここまで聞いたんだ。なにより刑事であるきみならわかるだろう。『お払い箱』というのが、裏社会の人間にとってなにを意味するのか。


 わたしがレオに噛みついた理由も、そう考えれば納得してもらえると思う。わたしたちは圧倒的に不利な状況で新参者とのゲームの最終局面をむかえたんだ。

 ひとりの殺し屋よりふたりの殺し屋。これがファミリーに見捨てられないための最善策だと、わたしは信じて疑わなかった。


『あんたの力になりたいんだ』


 そう言ってわたしは家を飛び出した。

 レオに不満を抱いたときにいつもしていた、子供じみた反発の仕方だった。そのあと玄関ポーチで苛立ちをやりこめるのも習慣になっていた。ほかに行くところもなかったしね。


 ただその日、いつもと違っていたのはわたしたちの家に来客があったことだ。それはファミリーの人間で、レオに書類を届ける配達人だった。配達人がその中身を知ることはないが、わたしたち宛に届く郵便物なんて督促状以外では仕事の依頼ぐらいのものだった。


 配達人にとって家の前で応対されるのははじめてのことだったろうし、わたしがこの配達人の相手をするのもはじめてだった。


『レオにだろ。おれが渡しておくよ』わたしはそう言った。

『本人に直接手渡せとの指示だ』配達人が答える。

『家にはいるが、いま手が離せないんだ。ちゃんと渡すからさ』

『駄目だ。そんなことしたらおれがぶん殴られる』


 配達人は強情だったが、わたしも譲る気はなかった。

 結局配達人が折れて、わたしは書類を受け取った。わたしが見せたいかにもらしい誠意と、配達人に押し問答をしている時間がなかったことが決め手になったんだ。


 受け取った書類を、わたしはレオに渡さなかった」

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