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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

猫は幸せ

作者: みさき

残酷な描写ありは保険です

 私の家族はお父さんとお母さんとお姉ちゃんの四人家族。お姉ちゃんは私と姉妹か? って疑ってしまうほど綺麗な人。ブロンドの髪に鮮やかな青い瞳。対して私は色の抜けた薄い茶髪。目の色こそお姉ちゃんに似たがそれ以外は全く似ていない。

 両親はそんな私たちを比べたりせず平等に愛してくれた。

 だけど、それがお姉ちゃんには気に食わなかったらしい。

 両親の見ていない隙をついて、暴力を受けたことがあった。一人、暗い森に置き去りにされたことがあった。親戚の家に出かけている時にご飯を抜かれたことがあった。

 とにかく、お姉ちゃんは私を虐めたいらしくて私はそれを両親には言うつもりは無かった。

 虐められていてもたった一人のお姉ちゃんだし、大切な家族だと思っていたから。


 ある日、王都から偉い司祭様が来た。神託で私たちの住む田舎町に聖女が誕生したと言われたらしい。


 聖女はお姉ちゃんだった。


 司祭様がお姉ちゃんを一目見た瞬間、跪いた。


「その神々しいお力はまさに聖女。是非とも、我らと共に来て頂きたい」


 そう言われ、私達は田舎町から王都へと引っ越すこととなった。

 生まれて初めて町の外へ出た私はとてもワクワクしていた。


 王都へついて私達は教会へ行った。

 そこで、教皇様という人に会った。教皇様は優しいおじいちゃんという感じで、亡くなったおじいちゃんを思い出させた。


 なんだか、お姉ちゃんは終始偉そうにしていて少し恥ずかしかった。いや、まぁ。聖女なんだから偉いのは当たり前なんだけど。


 姉は聖女として教会に住み勉強していくらしい。私達は他に家を与えられてそこで暮らす、と説明された。

 聖女の家族ということで家とお金を与えられた。今まで、聖女を育ててきた報奨金だとか言っていたけど、よくわからなかった。


 そして、王都に来てから一ヵ月後。


 私は、教会にいるお姉ちゃんに呼び出された。


「聖女様。ディーナ様がお着きになりました」


 侍女の言葉に可憐な声がかえってくる。


「こんにちは、お姉ちゃん」

「久しぶりね。ディーナ」


 ニコニコと機嫌が良さそうに笑ってるお姉ちゃんをみて、嫌な予感がした。こういう時はたいてい何か良くないことを企んでる。


 侍女はお姉ちゃんに下がってと言われ部屋から出ていった。

 今、この部屋には私とお姉ちゃんだけ。嫌な予感はさっきからどんどん大きくなる。


「最近はどうかしら? こちらの暮らしにもなれたかしら?」

「あ、うん。大丈夫だよ。お父さんもお母さんも元気だし」


 お姉ちゃんはそう、と一言だけ答え立ち上がる。


「お姉ちゃん?」


 私が呼んでもニコッと笑うだけで答えてくれない。やっぱり、怖い。


「ふふ、やっとよ。やっと邪魔者がいなくなるわ」


 突然、お姉ちゃんが笑い始めた。


「愛されるのは私だけでいいの。邪魔な妹なんていらないのよ」

「お姉ちゃん? どうし……」

「お姉ちゃんなんて呼ばないで! 鬱陶しいのよ。愛されるのは私だけでいいの。邪魔な妹なんていなくていいのよ」


 鋭い声に思わず黙り込む。

 すると、またニッコリとお姉ちゃんは笑った。


「私、たくさんお勉強したの。病気を治す術とか怪我を治す術とか」


 テーブルに置いてあったナイフを手に取りお姉ちゃんが話を続ける。


「そのなかでね、面白い術があったの。何かわかる?」


 恐怖に体がかたまって動かない。

 声が出ない。喉がひりついてかすれた息をもらす。


「呪術って知ってるかしら? 血を媒介にしたりいろいろめんどくさいのだけれど」


 あなたにピッタリでしょう? そういうなり持っていたナイフをスーッと腕にはしらせた。

 真白い綺麗な腕に赤い線が浮かび上がった。


「な、なにをしてるの?」

「ふふ、まだ分からないの?」


 相変わらず馬鹿ねぇ、そう言うお姉ちゃんの腕からはポタリポタリと血が垂れている。

 血が腕を這い手を這い指先から落ちていく。


「何がいいかしら? 少しずつ命がけずれていくもの。姿かたちが変わるもの。どれがいい?」


  そう聞くお姉ちゃんの瞳は暗くて狂気の光が浮かんでいて怖くて体が動かない。

 そうしている間もお姉ちゃんは楽しそうにどんな術にするのか話していた。耐えられなくなって床にペタンと座り込んでしまった。


「うふふ。決めたわ。あなたには少しでも長く苦しんで貰いたいから豚にでもなってもらうわね」


 楽しげな声とは裏腹に言っている内容は残酷そのものだ。

 逃げなくちゃ。逃げなくちゃ、早くここから!

 さっまで、体が動かなかったのが嘘みたいに体が動く。立ち上がって扉へと走った。

 あと少しでたどり着く……。


「逃げても無駄なのよ!」


 取手に触れたのと同時に体に激痛がはしった。

 無理やり体が作り替えられていくような感覚。骨がきしんで皮膚が裂けそうなほど。

 それでも、無理やり体を動かして外へ出た。ここにいたら危険だという直感。私が部屋の外へ出た直後お姉ちゃんの叫び声が聞こえた。助けて、妹に襲われる。そう言っている気がする。


 だけど、そんなことにかまっている余裕なんて今の私にはなかった。

 外には誰にもいなかった。でも、今のお姉ちゃんの声でいつ人が来るか分からない。どこでもいいから早く逃げないと! 


 家は……? だめだ。お父さんとお母さんに迷惑はかけられない。それに、すぐに追手が来るだろう。


 どこに、逃げればいいの……?

 王都に来てからまだ一か月。私をかくまってくれるほど仲がいい人なんていないし、隠れる場所なんて全く思いつかない。


 そうしている間もどんどん痛みは増している。

 痛い痛い痛い。


 そして、私は教会の裏の草むらの中で意識をなくした。


 あれから、半年ほどたった。

 結論からいえば、私は死んでないしお姉ちゃん――ソフィアにも捕まっていない。


 胸糞悪いことに世間で、私は聖女であるソフィアに嫉妬し傷をつけ逃亡。今だ見つかっていない。そして、ソフィアは妹が改心していつか戻ってくると信じている心優しい姉。

 ああ、気持ちの悪いことこのうえない。心優しい姉? あんなのが? 冗談も大概にしてほしい。


 そして、私は気づいたら猫になっていた。


 ソフィアは豚にするとか言ってたけど、どうやら失敗したらしくうっすい茶色の猫になってた。

 さすがに猫になったのは誰も分からなかったらしい。誰にも見つからずに無事に教会を抜け出し、王都をさまよい始めた。もちろん、家にも行ってみた。お父さんもお母さんも私とは気づかずに追い払われたけど。


 行く当てもなく王都をさまよい、お腹が空いたらゴミ箱を漁った。運がいい日には優しい人がご飯をくれた。毎日ご飯が食べられていたのがあんなに幸福だったなんて初めて知った。


 眠たいときに眠って、お日様で日向ぼっこして。そして、気づいた。猫って楽じゃん、と。

 ソフィアに命を狙われることもない。無駄な責任を負うこともない。そりゃあ、大変なこともあったよ。もしものことを考えて治安の悪いとこにいたおかげで、性格も口も悪くなった自覚があるし。でも、この体に慣れた今人間だった頃より今のほうが楽だった。


 まあ、そう思ってた時期もありました。

 簡単にいえば油断した。今、目の前には私の何倍もの大きさの犬。油断した、最悪。

 いつの間にか、この犬の縄張りに入っていたらしい。ああ、本当に馬鹿だ。


 逃げるのは難しいそうだ。せっかく、新しい猫生を過ごせると思ってたのにな。


 そして、私は犬の牙にお腹を刺され猫生を閉じたはずだった。


 ***


 おかしい。なぜ私はここにいる。


 足元はフカフカとしたベッドの感触。お腹はズキズキと痛みを感じるから夢ではない。……はず。

 そして、私の目の前にはイケメンが。

 そうイケメンだ。しかもこれまで見たことないような。


 太陽のように輝く金髪。紫水晶のような瞳。……紫水晶なんて見たことないけど。

 そんなイケメンが私をみつめてニコニコと笑っている。


「おはよう。ケガは大丈夫かな?」


 そうか、このイケメンが助けてくれたのか。


『ニャー』


 お礼の意味をこめて鳴いてみた。

 すると、イケメンは心臓あたりを抑えてうずくまってしまった。大丈夫か、このイケメン。

 まあ、ケガの手当てもしてくれてただの野良猫を助けてくれて。


『ニャー』


 もう一度鳴いてみた。

 イケメンは動かなくなった。

 うん、私は何もしてない。それにしても、ここどこだ。どこかのお金持ちの家か貴族の家か。十中八九貴族の家だろう。こんな、イケメンが貴族以外にいてたまるか。


 さてと、手当をしてくれたお礼は言った(正しくは鳴いただけど)。

 ここにいる意味はないな。


「ごはん、食べれるかな?」


 いつの間にか復活したイケメンの手にはいい匂いの物体が。

 立ちかけた体がピタリと止まった。仕方ないでしょ! ここ数日ごはんが見つからなくてお腹いっぱい食べれてないんだから。ていうか、あの犬の縄張りに入ったのもご飯を探してだったし。


 差し出されたスプーン。

 そこには久しぶりのごはん。思わずペロッと。


 なにこれ、うっまぁ!!

 人間だった時でも食べたことないぐらいおいしい。


 気づいたらお皿の中身は空っぽ。おいしかったぁ。


「……かわいい。ねぇ、君うちの子になる?」


 ごはんの余韻に浸っていた私。勝手に首が縦に振られ、気づいたらこのイケメンの家の子になっていた。

 まあ、いいかな。おいしいごはんがもらえて、こんなイケメンがいるなら。


『ニャー』



 快適だ。とてつもなく快適。むしろ快適すぎる。

 猫になってから一年。

 私の捜索は打ち切られたらしい。イケメン――アークが読んでいる新聞を盗み見した時に知った。


 アークの家の子になってから快適すぎて困っている。アークは猫が大好きですごく甘やかしてくれるし、メイドさんたちは会うたびに撫でてくれてお菓子をくれて、運動なんて家っていうかお屋敷の中を歩き回るだけだからちょっと太ったんじゃないかな。


 そして、気づいた。私にかかった呪術が解けてきてることに。

 二か月前の満月の日、私は人間に戻った。夜中だったし数十分のことだったからアークにはばれてないはず。その日から、私は脱出計画を立てている。アークが望んでいるのは猫の私であって人間の私は迷惑だろう。メイドさんたちの部屋の場所と洋服を直してある場所を確認して少しだけ宝石をもらった。裸だったんだよ! 初めて人間に戻ったときはいつアークが起きるかすごく焦った。

 一か月の満月では前よりも人間の時間が長くなっていた。


 そして、今日。

 満月じゃないのに人間に戻っていた。それもアークの目の前で。


 人間本当に驚いたときは声も出ないっていうけど本当だったんだね。

 イケメンの目の前に素っ裸の私。はたからみたら私がアークを襲ってるようにしか見えない。

 違うんだよ。アークに呼ばれて膝の上に載せられて、まさか人間にもどるなんて誰が思うか。


「えっと、とりあえず服ください……」


 そして、なぜか私はアークの服を着せられた。女性用の服はメイドさんの服しかない。でも、私のことは誰にも言えない。で、アークの服を着せられた。すごく大きい。袖まくっても手が出てこないしズボンなんかウエストがぶかぶかすぎて履けなかったし。


 机をはさんでソファにアークと向かい合わせで座った。


「君はココでいいんだよね?」

「……そうですね。本当の名前はディーナといいます」


 ココはアークがつけてくれた猫の名前。薄茶色の毛並みからつけたらしい。


「ディーナ……。聖女様の妹の名前……?」


 やっぱり知ってるか。そりゃあ、貴族なんだからあの事件のことぐらい知ってるか。


「せっかくですから、全てお話します。そのあとは煮るなり焼くなり衛兵に突き出すなり好きなようにしてください」


 私が猫になった理由。猫として生活した半年間。それから、アーク助けられて一緒に暮らした半年間。その全てを包み隠さず話した。


「……これが、全てです。この話を信じるも信じないもあなたの自由です。どうぞ、あとはご自由に」


 だけど、信じて欲しい。

 好きにしろと言った手前なにも言えないけれど。


「分かりました」


 そして、アークは口を開いた。


「ここにいていいですよ」

「……は?」

「ディーナさんの捜索は打ち切られました。今更、衛兵に突き出すことなんてしません。それに、ここから出たとして行くあてがあるとは思えませんし、家に帰るとしてもそこで捕まって終わりですよね」


 そして、もう一度口を開き言った。


「何より、聖女様を害そうとするとは思えません。猫としてのあなたしか私は知りません。あなたは、自由にしろと言いましたよね。なら、ここにいてください。私は、あなたにいてほしい」


 その言葉に涙が出た。

 そうだ。私は何もしてない。悪い事なんてしてないのに。なのに、猫になって死にかけて。ソフィアは今頃、聖女として悠々自適に暮らしているのだろう。

 ただ、彼女の妹として生まれただけ。それだけなのに。


「ありがとうございます。でも、ここにいてはアーク様にご迷惑です。私の捜索は終わったのでしょう。なら、どうにかします。猫になってからもそうやって生きてきましたから」


 ようやく、涙が止まりそう言えばアークは変な顔をする。けど、諦めたのか小さくため息を吐き私の提案を受け入れてくれた。


 そして、まだ夜も遅いからと少し眠ることになった。

 私がアークのベッドで。アークはソファで。私のほうが体も小さいし家主のベッドを取るわけにはいかないからソファでいいといったのに、寝室に押し込まれてしまった。


 大きなベッドの端っこに座りそっと息を吐いた。

 アークの目の前で人の姿に戻ったときはびっくりした。今日は満月じゃないし、夜中でもない。けど、アークが猫のココじゃなくて人間のディーナを受け入れてくれて本当にうれしかった。


 ……今何考えた?  


 そして、気づいた。


「そっかぁ。好きなんだ、アークのこと」


 猫のココとして、人間のディーナとして。というか、私の話を信じてくれてこうやって優しくしてくれ好きにならないほうがおかしい。

 うん、寝よう。ベッドが大きすぎて落ち着かないし、心臓がどきどきしてるけど寝れば忘れるよね。肌触りの良いベッドに横になりそっと目をとじた。


 * * *


 結論から言って私は今もアークのお世話になっている。というのも、あの日目が覚めたらまた猫になっていたからだ。

 あの、目が覚めた時の絶望感。それと同時に少し嬉しかったのは内緒だ。


 ベッドの上で目を覚まして視界が低くて四つ足で立ってて、また猫になっていることに気づいた。

 アークは猫になった私を嬉しそうに抱き上げた。恋心を自覚した私にとってそれは拷問でしかなかったけど。


 私はまだ猫のココとしてアークのお屋敷にいる。たまに、人間に戻ってはアークと話をしてまた猫になるという生活を続けている。幸いにも、お屋敷の人たちには私が人間だということはばれていない。いつ、ばれるかハラハラする日々だけれど。


 そして、この間アークからソフィアのことを聞いた。

 いま、彼女は体調を崩し療養中らしい。

 呪術は、万能ではない。とても強力な術だけど、その分代償もある。

 だけど、ソフィアが私にかけた呪術は不完全だった。その分代償も軽いらしい。もし、この術が解けたときソフィアがどうするのか私は知らないし、興味ない。だって、今の生活が楽しくて幸せだから



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