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4話 ギルド

 

「それで、他に手伝えることはあるかしら?」


 とシードルに問われ、匡は考えた。


「あの、では情報ついでにこのギルドのことを教えてもらってもいいですか。対価はお支払いしますので」


 受け取ったばかりの皮袋を顔の横で揺らすと、二人は笑うように息を零した。


 シードルがライラの肩を叩く。


「教えてあげなさい」


「はい!」


 ライラの元気の良い返事を聞くと、シードルは少し前から報告カウンターの前でウロウロしていた狩人たちのところへ行き、会話を始める。


 匡は、説明を担当してくれるらしいライラに向き直った。


「それじゃあ…お願いします?」


「はい!我が狩人ギルドについて説明しますね!


 このギルドは、サウザン、エルレン、キートソニアの三箇所に支部が設置されている大規模ギルドの一つです。

 あ、ギルドというのは、お仕事を代わりに受けて、所属員に斡旋する組合のことですね。冒険者ギルドなんかが有名ですといえばお分かりいただけると思いますが。この街には狩人ギルド以外にも薬師ギルド、商業ギルドがあります。

 こちらで主にお受けする依頼は、採集、狩猟の2種類になります。また、依頼がなくても、とってきた素材は商業ギルドを通して、職人等に売ることができますので、是非持ってきてくださいね。

 そして活動の仕方ですが、12歳以上ならばどなたでも無料でご登録いただけます。ギルド登録に必要な情報は、名前、年齢、種族のみで、普段カードに記載される名前は、言ってくだされば仮名にできますのでお申し付けください。

 また、普段から依頼を受けてくだされば更新の必要はありませんが、一年以上なにも依頼を受けないと無効になってしまいますので、その前になにかしら受けるか、必要になった時に再度登録をし直してください。既に登録されている方の二重登録は禁止です。

 登録が済んだら、あとは好きな依頼を受けてもらうことになります。

 あちらにある依頼掲示板や、受注受付に置いてある常時依頼の冊子、あとは職員に声をかけていただければ張り出す前の依頼もお見せできるので、その中から自分にできそうなものを選んで、受注受付に持っていって受注してください。

 基本的にどなたでもどの依頼でも受けていただけますが、明らかに遂行が不可能な場合、職員から断らせていただくこともありますので、ご了承ください。

 受注してから、失敗したりやっぱりできないとなったときには、先払いの依頼のみ違約金が発生します。」


「あとこれはあまり関係ない話かもしれませんが、ランク制度というものがありまして、活躍が著しい人に称号として付与されることがあります。

 ランクはCからAで、Cだとしても凄腕の称される方ばかりなので、ランク持ちは凄いと、是非覚えておいてください。


 こんなところですかね?」


 ふむふむ。


「ありがとうございます」


 冒険者ギルドという言葉を聞けたことに感動を覚えつつ、言われたことを少しずつ咀嚼する。

 ギルドの仕組みについては、大方予想通りだったので今後関わることになっても大丈夫だろう。


「他のギルドもこんな感じなんですか?」


「そうですね、大規模ギルドはどこも似たような感じです。小規模ギルドに関してはそれぞれですとしか言えませんが…。」


「そうですか」


 大規模、というのがこの形式ということは、小規模というのはどちらかというとオンラインゲームのギルドに近いだろうか。仲間内で始めてこじんまりとやっていく、みたいな。

 想像だけど。

 勝手に納得し、もう一つの気になっていたことを聞く。


「あの、冒険者ギルドっていうのはなにをするギルドなんですか」


「お!冒険者ギルドが気になるんですか?そうですよね、この国最高峰、というか、始まりのギルドでもありますから…」


 嬉しそうに笑った後、後ろを向いてなにかを探すライラ。


「あ、あったあった。冒険者ギルドの案内ですよ!よかったらどうぞ」


「ああ、ありがとうございます」


「冒険者ギルドは一番最初にできた大規模ギルドで、基本的にどんな依頼でも受けるなんでも屋さんのようなところですね。

 できた当初は、開拓作業や傭兵業が主だったようですが、今では狩人の仕事である採集や狩猟も普通にやりますし、職人さんも多く所属していて張り出される依頼も多種多様です。

 他の大規模ギルドはこの冒険者ギルドから派生したようなものですから、他のギルドで受けられるような依頼は、冒険者ギルドでは大抵受けられますよ。」


 思ったよりも詳しい説明に驚きつつ、ありがたく拝聴する。


「まあでも、冒険者ギルドはあの規模ですから、登録した瞬間からランク制度が採用されて、えーと、これこれ」


 先程の案内を広げ、その一部を指さした。

 そこには、ピラミッド状の図が書かれていて、それぞれの階層に名前がついていた。


「冒険者のランクは、登録したての一番下がタルク、それから順にセレナイト、カルサイト、フローライト、アパタイト、オーソクレース、クォーツ、スピネル、コランダム、ダイヤモンドと名付けられているんです。」


 宝石か…?


「へえ、」


 匡は石には全く詳しくないので強さの基準はよく分からないが、ダイヤモンドが一番上に位置することからモース硬度らへんを参考に使われているのだと予測する。

 いやモース硬度ではないか。この世界基準の硬度とかで。

 そしてなにも地球と同じ名前がつけられているわけではなく、地球でいうダイヤモンドにあたる石を指す言葉であるためにこう翻訳されているのだろう。


「それで、通常自分のランクと、一つ上のランクまでの依頼しか受けることはできません。」


 制限があるってことか。


 頷いて、案内に視線を落とす。


「というか、詳しいんですね。」


「ええ!冒険者っていう職業がもう憧れでしかなくて調べまくったこともありますから!私としてはいつかスピネル以上の冒険者に会って握手を……じゃなくて、」


 ライラはそこで言葉を止めて咳払いをした。


「冒険者ギルドは始まりのギルドでしょう?全ての大規模ギルドにとっては親のようなものなんですよ。うちのギルド員もほとんどの人が登録していだと思いますし」


 要はライラが冒険者好きなんだな。

 納得しつつ、その誤魔化しをスルーして、続きの説明もきちんと聞く。


「複数のギルドに、登録できるんですか?」


「もちろんです。それに、冒険者ギルドのギルド証は作っただけで放置してても無効になったりしませんし、どこの街でも身分証に使えるので、便利なんですよ。登録料はちょっぴり高いんですけどね。」


 ライラはそう言って笑った。

 案内に目を滑らせると、登録料の記載を見つける。


「エルデン硬貨、金10。」


 読み上げると、ライラが「ね?」と言った。

 金10というのは、おそらく金貨10枚のことだろう。

 情報量で貰った中に金貨は4枚。残りの銀貨40枚は、変えられたのなら金貨で渡してくれるだろうから、金貨1枚分には満たない。

 そうなると、銀貨50枚で金1枚?

 いや、おそらくは100枚だろうか。

 しかし硬貨を100となると持ち歩くには相当重いだろうなと、匡は少し関係ないところに考えを飛ばした。


「あの、」


「はい?」


「金貨10枚ってどれくらいの価値なんですか」


 言ってから、やはり早まったかと口を結ぶ。

 匡だって、突然知らない人に千円の価値を教えてくれと聞かれたら不審に思う。


「いや違くて…」


「ほー。しっかりしてそうに見えて、普段お買い物とかしないんですね?そうですねぇ、宿に素泊まりでひと月弱泊まれるくらいですかね。安い宿ならもっといけるかも」


 だいぶ行ったな?

 ライラの能天気そうな性格が幸いしてか、それほど不審に思われなかったことを安堵するも、すぐに匡は眉を顰めた。

 安宿の定義がわからないので容易に判断はできないが、金貨1枚一万円、銀貨1枚百円といったところだろうか。


 ギルド登録に十万円!?


「ちょっぴりどころじゃないのでは、、」


 顔を青ざめさせた匡に、ライラはケラケラと笑った。


「まあポンポン出せる額ではないのは確かですが、考えてみてください」


 匡の持つ皮袋を指さす。

 金貨4枚…?


「あ、」


「ギルドに所属して働いている人にとっては、比較的容易に稼げるお金だと思いますよ。少しずつ貯めればそれほど負担にもならないでしょうし?冒険者になるのには余りあるメリットがありますから…」


 それはその通りだと思い、匡は頷いた。



「色々教えてくださってありがとうございます」


 あらかた知りたかったことを教えてもらった匡が満足して皮袋を差し出すと、すぐに押し戻された。


「どこでも聞ける情報ですし、知ろうと思えばタダで知れることばかりなんですからこんなにいただけませんよ。

 どうしてもと言うなら、これだけいただきます」


 ライラは、そう言って皮袋からに銀貨を2枚取り出して残りを匡の手に握らせた。


「は……わ、わかりました」


 大分時間をとってもらった気もするし、他のギルドの案内まで貰ったのだから少なすぎではないかと思ったが、せっかく手に入れたお金をわざわざ手放そうとする必要もないなと、今度はあっさり引き下がる匡だった。



 そしてギルドを出ようとしたところ、酒を飲んでいた狩人たちから、


「よう、小僧。グレイトベアーにあったんだって?」


「冒険者になりたいのか?」


「どこの田舎からきたんだ?一人か?」


 と口々に声をかけられ吃驚する。

 どう答えていいかわからず、


「いやぁ、まあ、、、はは」


 と苦笑いを向けつつそっと早足で入り口に進み寄る。


 悪い人たちでは無さそうだが、その輪に入って平然と言葉を交わせるほど匡のコミュニケーション能力は高くない。

 軽く会釈をしながら狩人ギルドを後にし、ドアを閉めると、匡はふう、と息を吐いた。


 とにかく、あの少年のおかげでお金が、そして情報が手に入ったのだ。

 勇気を出してここにきた意味はあっただろう。

 匡は空に向かって

 ありがとう白い少年…と手を合わせた。


 再び異国の風景を前にし、休まらない思いで匡は足を踏み出した。



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