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天使 お嬢様1

しあるさいど

 

「フローライトですか?」


「ああ、お前強いんだってな」


 夜明け、鍛冶屋に届ける赤硬石を取ってからマグベルに戻って依頼を受けようとすると、ランクアップを告げられた。


「ほらよ」


 銀色になったギルド証を返される。

 ちなみに、タルクのときは鈍色だったギルド証だが、フローライトで光沢をもった銀色、そしてスピネルで金色になる。


「ありがとうございます…あの、何故なのか聞いても?」


 登録して以来とにかくたくさん依頼を受けてきたから、ランクが上がるのは不思議ではない。

 シアルも、そろそろセレナイトにいけるかと考えていたのだ。だがまさか二つ飛ばしてフローライトに上がるなんて思わなかった。


「この前、駆け出しの四人助けたろ。あの時四人が持ってきた討伐証明部位と素材の量が半端じゃなくてな。昨日やっと集計が終わったんだ。」


 シアルは驚く。

 それはつまり、あの魔物の討伐者が自分になっているのか。

 絶対奢らせるわけにはいかなくなった。


「あの四人が倒した分もあったはずですが…」


「もちろん、本人たちが言う分はアイツらのものにしたよ。その量もなかなかだったが、ざっと全体の4分の3はお前の倒した魔物だとよ。」


「……」


「おっと、変更はもうできないぞ。お前がなんと言おうと、今日からお前はフローライトだ。」


 そう言われてしまって、仕方なく頷く。


「アイツらはカルサイトと言っても、実力でそうなっただけで、経験はまだ浅い。その辺の雑魚魔物よりは強いが、まだまだ幼いし危険を顧みないところがあってな、その、なんだ」


 そこで一旦言葉を切る。


「助けてくれて、感謝するよ。」


 期待されていた人たちだったのだなと、少し嬉しくなる。


「どういたしまして」


 ◇


 楽しい。

 本当に楽しい。


 シアルは冒険者としての日々を、心から楽しんでいた。


 やればやるだけ評価が上がり、何ができても自分の利益に繋がる。そして、しっかり稼げるのに自由度が高いため働いているという拘束感がない。

 どうして今までこういう仕事に出会わなかったのが不思議に思うくらいだった。

 しかし、あってもそう簡単に就けるものでもなかったり、明確に職業として認められていない場合も十分にあり得る。


 そう考えると、この世界にたどり着けたのは本当に幸運だ。


 この片翼に感謝してもいいくらいである。


「リスクも、来たがるでしょうね」


 もうすぐ別れて15年ほどが経つ。

 まだちょっと前くらいに感じられることではあるが、神界にいた時よりも遥かにさまざまな出来事を体験したシアルからしたら、かなり長い時間が経ったような気もしていた。


 神界のことは少し気になるが、恐らくもうシアルとは縁のない世界である。

 今はただ、目の前の現実を楽しみ尽くしたい。


「さて…そろそろですか」


 呟くと、同時に眼下の洞窟が爆ぜる。

 その前には、魔法を放った魔法士が数人と、そこそこ豪華な馬車、それから軽装備を身に纏った兵士たちがいた。

 シアルが貰ってきた情報によると、彼らはとある公爵家の手の者のはずだ。

 最近この辺りで問題になっている盗賊団が公爵家のお嬢様をそうと知らずに攫ってしまったようで、その救出に少数精鋭の部隊を向かわせた、と言うことになっているらしい。


 シアルは洞窟のある谷とは反対の、山の木の上から、その様子を遠視で見つめていた。


 この洞窟は盗賊団のアジトと言われている場所で、彼女が捕らえられているならここだろう、と言うことだ。

 それならば、向かっていって盗賊を蹴散らすのはなにも問題ないように思える。お嬢様を救うためだ。


 しかしながら、事実は違う。

 確かに、ここはその盗賊団のアジトである。

 それはシアル自身も確認したので間違いない。

 でも、そのお嬢様と関係があるのかと言われれば、ないのだ。


 シアルが色々なところから聞き出した情報をまとめると、

 この公爵家では、当主が病に臥し、まもなく亡くなろうとしている。

 そこで次の当主はという話になるのだが、その家の長女は側室の子で、優秀だった。

 そして正室のもとに生まれた長男である弟は、まだ幼かったため、次の家督は姉に継承されようとしていた。

 お嬢様を産んだ側室は既に亡くなっており、二人とも同じように正室を母として育ったので家族内では特に異論はなく、何の問題もなく代替わりがなされるかに思われた。

 しかし、その結果に不満を持つ者もいた。

 血統に拘りをもつ者と、長男に影響を与えられる立場にいる人間である。

 人は、権力を欲するものらしい。


 そういうわけで、彼らによって、お嬢様の抹殺計画が立てられた。

 シアルは毎度こういったことに出くわすたびに思うのだが、なんというか、やることが大胆である。

 彼らにもう少し考える脳はないのだろうかと、どうしても思ってしまう。


 とにかく、彼らは自分たちでお嬢様を捕らえた後に、盗賊に拐われたという情報を流し、自分たちでその救出を願い出た。

 そしてお嬢様を乗せた馬車でここへ来た今、盗賊を全て殺した後でお嬢様も殺し、「既に死んでました」とが何とか言って死体を持ち帰るつもりだろう。

 清々しいほどの自作自演である。


 盗賊の肩を持つわけではないが、この件に関しては、無関係な盗賊も巻き込まれて可哀想なくらいだった。


 盗賊については、もちろん殺し切る自信があったのだろう。

 そうでなければ、盗賊が逃げ出した先で本当のことを言う可能性がある。側から見ている感じでは強そうな者も何人かいるようだし、その自信は一応本物といえる。

 だが、その力を別のところで発揮すると言う選択肢はなかったのか。

 シアルは謎で仕方なかった。


 少し、奥へ意識を集中させる。


 洞窟内では、突然攻撃を受けた盗賊たちが慌てている気配があった。

 数は、そう多くない。

 今日もどこかで旅人狩りでもしにいっているのだろう。


 このまま黙って眺めていても仕方がない。

 シアルは、立ち上がって木の枝から飛び降りる。


 まずは、お嬢様の救出である。

 自称お嬢様救出隊が盗賊に夢中になっている今なら容易い。

 素早く山肌を蹴ってお嬢様が乗せられた馬車の背後につき、気配を絶ったまま様子を伺う。

 思った通り、盗賊を崩すのに夢中で、馬車の方など気にしていない。

 当然だ。

 お嬢様は連中にとってはあとは始末するだけの存在。

 余程頑丈に逃げられないようにしているようだし、魔物が寄ってきて食い殺されても一向に構わないのだろう。


「頭が悪いかたばかりで良かったです」


 シアルはそう言って、馬車に細剣の刃を入れた。

 馬車の上部がズレ落ち、馬車の中に寝かされていたお嬢様が露わになる。

 手足を縛られて、周りを荷物で固められてはいたが、意識はあるようだ。驚いた顔でこちらを見つめていた。

 歳は16〜17歳頃に見える。

 特に華奢でもなく、気弱な印象も抱かない。意思の強そうな大きな瞳が必死に周りから情報を得ようと動いていた。


 無事で良かった。


 これは、拘束を解かなくとも大丈夫そうですね。


 シアルはそう思うと同時に、

 よくこんな子を連れ出せたものだと少し感心する。


 とはいえそれは一瞬のことで。


 お嬢様に防護魔法をかけた後、素早く縮地で洞窟に近づいて自称お嬢様救出隊(てき)の魔法士をサッと一閃。

 昏倒効果をもたらす魔法の刃である。

 殺しはしない。公爵家に連れ帰った後で喋ってもらえた方が色々と都合が良いだろう。

 そこで、魔法士が消えたのを察してか、前方で戦っていた兵士たちが振り返る。

 シアルはすかさず斬り込んだ。

 バタバタと兵士が倒れていく。


 残りは、中途半端に統率を失った盗賊たちだ。

 こちらは、一人を残して全て殺すことにする。


 盗賊は討伐対象である。


 一人残すのは、念のため情報を聞いておきたいだろうと思ったからだ。


冒険者のランク

(下から


タルク

セレナイト

カルサイト

フローライト  銀帯

アパタイト   ↓

オーソクレース 

クォーツ    

スピネル    金帯

コランダム   ↓

ダイヤモンド  

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