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7話 準備


 お礼を言って、カウンターを後にする。

 次に向かうのは依頼掲示板だ。

 狩人たちの間を縫って掲示板の前に立つ。

 もう朝ではないからかそれほど多くの依頼は貼られてなかったが、端の方に植物の絵図が描かれた採集の依頼があったので気になって手に取ってみる。

 それは大きな葉の中に、小さな赤い花がまとまって咲いているような植物のようだった。


 ロート草・10本ほど・報酬 銀貨10枚(追加報酬あり)


 と書かれている。

 どうにか調べてみて、できそうなら受注してみようか。


 依頼書を持って受注受付カウンターへ向かう。


「これ受けたいんですけど、ロート草についての資料とかってありますか」


 対応してくれたのは若い男性職員だった。紫がかった髪が清潔に整えられている。


「ああ、ロート草の採集依頼だね。依頼を受けるのは初めて?」


 頷く。


「この奥に資料室ってところがあって、ギルド員なら自由に出入りできる。動物や魔物、需要のある植物なんかの資料もたくさんあるから、そこで調べるといいよ。依頼がくるようなものは大体載ってるからね。

 採れる場所なんかがわからなければ、資料室の隣の貸し出し受付で地図なんかを無料で貸し出してるからそこへ行ってくれ。」


 魔物という単語に、一瞬胸が高鳴る。


「わかりました」


 そう言って下がろうとすると、手に持っていた依頼書をつまみ上げられる。


「受注してからいきな。」


「ああ、はい」


 どんなものか確認してからと思ったが、職員が匡を見て大丈夫だと判断したのなら大丈夫なのだろう。

 素直に頷いた。

 職員は懐から判子を取り出して依頼書に押すと、手元の書類をめくって何かをチェックした。


「ギルド証は?」


 慌てて差し出す。


「はい、ありがとう」


「採集が終わったら報告カウンターに素材とこの依頼書を持っていくようにね。」


 青いインクの受注判子が押された依頼書を返されて、頷いた。


「ありがとうございました」


 ◇


 資料室は思ったより汚…いやたくさんの紙やファイルなどの資料が粗雑に置かれている部屋だった。

 天井までの本棚が二つの壁に並んでいて、一応分類はされていたようだが本の間から紙がはみ出していたり大きく隙間が空いていたりして使いっぱなしのような状態だ。

 中央に置かれたテーブルには書類や本がたくさん積まれていて、中にはたった今まで誰かが見ていたように開いているものまである。

 入って右手の床には書類の詰まった箱が二、三。


「ええ…」


 依頼書を片手に、匡は思わず顔を顰めた。


 少し散らばった書類を集めて一箇所にまとめると、植物が載っている資料を探す。

 効能などは知らないので片っ端から図鑑を捲った。


「ロート草、ロート草…あ」


 あった。

 染色のための植物図鑑、はじまって数ページのところに、たしかに依頼書と同じ植物の絵と、ロート草という名前が載っていた。


 [ロート草]

 ナナエズ高原などに多数生育している、衣服の染料として使われる植物。大振りの葉に細かい花をつける。通常花部分が使われ、他の部分は必要とされない。

 採集時の注意:色が鮮やかなものを選び、花柄かへいから慎重にとる。数本ずつで纏まって生育する特徴があるので、ひとまとまりの中で一本は残して採集する。

 細かい生育分布:…


 覚えようとして、あ。と気づく。

 ポケットを触ってみるときちんと入っていたスマホを取り出し、無音にしてその部分の写真を撮った。

 これで忘れても安心だ。

 ついでに確認してみるが、時刻表示は動いておらず、電波も圏外であった。


「ま、当然か」


 自分は果たして帰れるのだろうかと、またもや答えのない疑問が浮かんできて、とっさに振り払った。

 今は考えても仕方がない。


 ついでにグレイトベアーについても調べてみることにする。

 やはり、魔物の一種と書かれていた。

 グレイトとつくのはグレイトベアーだけではないようで、多くは魔物化した獣に最初につく名称らしい。

 魔獣ではあるが、根っからの魔物ではないと。

 ちょっと何言ってるのかわからないけど。

 ちなみに、獣型の魔物を魔獣というようだ。

 強さとしては、もともとの獣の強さに力が少しプラスされた程度で、厄介なのは心臓部を潰さないと死なないことである。

 力が少しプラスされた程度って…そもそも熊な時点で無理だろ。

 と思う。

 魔物化とはなんぞやと思いそれも調べてみようとするが、なかなか見つからない。


「ここにはそういうのは無いのかもな」


 あまり時間をかけていたくも無いので、匡は図鑑を元の位置に戻して群生地の場所を調べるために資料室を後にした。



 貸し出し受付、というから他の受付と同じようなカウンターだろうと思っていたら、それは部屋だった。

 貸し出しと札の下げられた扉をそうっと開けてみる。

 室内には丁寧に物資が並べられていて、無人だった。

 匡は中に入って扉を閉め、部屋を見回してみる。

 そこは思ったよりも広く薄暗くて、雰囲気としては体育倉庫のような感じだった。

 先程の資料室と比べると整理整頓のされ方が段違いで、管理している人が違うんだなと感じられる。

 いや、もしかしたら資料室は管理する人などいないのかもしれない。


「いいのかそれで…」


 呟きながら、室内を進んでいく。

 棚を見ていると、どうやら借りていった人がその場所に貼られているリストに名前を書いていくというシステムらしい。

 結構アバウトなんだなと驚くが、まあこんなものだろう。

 もしくはなにか自分の知らないセキュリティシステムがある可能性もある。

 黙って従っていれば間違いはない。


 地図は、進んで四列目の棚に筒状で並んでいた。

 〜地域と区分けされているが、知るはずもないので端から手に取って広げてみる。

 ナナエズ高原とこのサウザンの街が載っているものが好ましいが、距離があって一枚では纏まっていない可能性もあった。


 三度目にして、サウザンの街が全体載っている地図が見つかる。

 全体載っているので周りの地域は見えないが、四方にフリーデの草原へ、ガリア街道へ、スレーの平原へ、ナナエズの草原へと矢印が引いてある。

 この街で暮らしていく以上役に立つだろうと、写真に収めた。


 狡いとか悪いとか言うのはなしでお願いしたい。



 続いて、それに続く形でナナエズ高原までの地域が載っている地図も見つけたので、一応写真に収めて、それを借りていくことにする。


 リストにコウ、と書き込んだ後、地図をリュックにしまった。

 そして他に使えそうなものはないかとあたりを物色し始める。


 結果から言うと、採集した花を入れる籠と、黄土色のローブと、狩猟ナイフを一本借りていくことにした。

 ローブは、少し空気も涼しく服装に頼りなさを感じたのと、やはり異質なデザインは目立っていたから隠したかったためだ。ナイフに関しては、もしまた何かが迫ってきたときに、少しでも抵抗できるように念のために持っておきたかった。

 普通の学生のカバンの中には、獣に対しての武器になるようなものは入っていないのである。


 ローブも着こんで、とりあえずの準備が整うと、いよいよ採集に出かけることにする。

 貸し出しが無かったらどこかの店へ買いにいっていただろうことを考えると、ギルドのおかげで少しお金を節約できたのは大きい。

 まあそのうちは買うことになるのだと思うが。

 なんたって小さめのを選んだつもりなのに結構ぶかぶかなのだ、このローブ。つらい。


 まずは、身分証を持っていく約束をしていた門兵の元へ行く。


「こんにちは」


 無難な挨拶を選ぶ。

 ちょうど外から入ってくる人もおらず、手持ち無沙汰で立っていた門兵と目が合った。


「おお、お前か。ギルドは見つかったか」


 聞くと、ギルドの説明や案内をせずに送り出したので少し不安に思っていたらしい。

 良い人だ。


「狩人ギルドに登録しました。これがギルド証です」


 ギルド証と、街に入るときに発行してもらったレシート(レシートではない)を見せる。

 門兵はそれを受け取り、確認するとギルド証だけを匡に返した。


「たしかに。滞在を延長しておくよ。しかし狩人か…」


 何か不味かったかと首を傾げる。


「いやダメってわけじゃないんだが、大丈夫かなとおもってよ。」


 なるほど。この小さく貧相な体型で戦えるのかと言うことだろう。


「無理ですね」


「は?」


「獣相手に勝てるのかってことですよね?少なくとも今の俺には無理ですから地道に草本摘んで日銭を稼ぎますよ。」


「はあ…まあそれならいいが。無理するなよ。」


 優しい言葉に、匡は目を瞬いた。

 最初に来てしまった街がここで良かったなと思いながら。


「…はい」


 俺の返事を聞いて、思い出したように門兵が言い出した。


「お、そうだ。宿は見つかったか?」


 首を振る。


「それなら、狩人ギルドの裏にある『旅の宿サウザン』に行くと良い。旅人向けの宿で、そんなに高くないのにサービスは割といいところだ。」


 思わぬタイミングで有益な情報が得られて匡の瞳は輝く。


「おお…あとで行ってみます。ありがとうございます、えーと、」


「ミンダレだ。」


「ミンダレさん」


 門兵ミンダレは満足げに笑った。

 その後匡は依頼で花を摘みに街を出る旨を伝えて別れた。


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