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第五十八話 未来は赤く煙っていた

「無用堂……えっと、その変……じゃなくて、面白い名前ですね!」

「ああ、別に無理に言い直さなくたっていいよ。実際、変な名前だしね。ところで君は……学生さんかな? それに魔法関係のこの店をおすすめされたってことは、ザマンティードに通っている子だね」

「え、どうしてわかったんですか?」

「どうしても何も、この街で魔法の学校といえばあそこしかないからね。細かく言えば、最近は普通の学校でも魔法を教える授業があるらしいけれど、本格的に魔法について学ぼうと思ったら、ほぼあそこ一択だよ」


女性はその妖艶な顔に指を当て、フフッと微笑む。

なんだろう、この人からはアピロさんから受ける感じとはまた別の、どこか得体の知れない雰囲気を感じる。

魔法関係者というのは、こういった独特な空気を纏うものなのだろうか。


「まあ、せっかくここに寄ったんだ。いろいろ見ていきたまえよ」

「ありがとうございます……。あ、その前に聞きたいんですけど、私がここに来る前に、もう一人女の子が入ってきませんでしたか?」

「はて、どうだったかな。先ほどまで奥で作業していたからね。一階に見当たらないとすると、二階の方に行ったんじゃないかな」

「二階ですか?」

「ああ、入口のすぐそばに階段があるよ。かなり急だからね、上がるなら落ちないように気をつけなよ」

「ご忠告どうも。ちょっと見てきます」


私はそう言って入口へ戻り、横に備え付けられていた階段を見た。

店員の女性が言っていた通り、かなり急な造りで、もともとあったものではなく、後から取り付けられた梯子に近い見た目をしている。

足場が崩れないかという不安が、ふと頭をよぎる。

けれど、二階へ続く道はここしかない。

私は慎重に足をかけ、ゆっくりと上へ昇った。


階段を上りきり、二階に辿り着くと、そこには様々な道具が置かれた棚の数々が広がっていた。

一階の本棚とは打って変わり、奇妙な形をした瓶や箱、人形、表現しづらい妙な形状の筒のような何か――

そんな品々が雑然と並べられている。


「妙な品物を扱っているとは言っていたけど、本当にそうなんだ……って、そうじゃなかった。フロノー? いるの? いるなら返事をしてー?」


薄暗い室内に声が響く。

けれど返ってくるのは、部屋にこだました自分の声だけで、望んでいた返答はなかった。


「おかしいな……確かに先に入っていたはずなのに……」

「おや、どうやら探している相手は見つからなかったようだね」

「ふぇぁええええあ!?」


突然、真後ろから声がして、またも妙な悲鳴を上げてしまう。


「ははは、君はいい声で驚いてくれるなぁ」

「て、ててて店員さんですか……びっくりした……」

「ごめんごめん。今回も脅かすつもりはなかったんだけど、今の君の反応を見ていると、つい意地悪したくなってくるなぁ」

「や、やめてください。本当に心臓に悪いですから……」

「まあまあ、今度から気をつけるよ。それで、お友達はいないようだけど、本当にこの店に入ったのかい?」


店員の女性は、わざとらしく部屋の中をきょろきょろと見回す。


「でも、確かにこの建物に入っていったはずなんですけど……」

「一度外に出て探してみた方がいいかもしれないね。もしかすると、さっき私と話している間に、入れ違いで外へ出て行ったのかもしれない」

「確かに……。そこで入れ違ったのかな」


とはいえ、私と店員が話していたあの狭い店内であれば、気配に気づいてもよさそうなものなのだけれど……。


「ところで……話は変わるのだけれど」


店員の女性は、改まった様子で、訝しんでいた私に声をかける。


「はい、なんですか?」

「私はこう見えても、魔法使いでね」

「はぁ?」


こう見えても、というか――その格好でそれを言うのは、むしろ見なくても魔法使いなのでは?

そんな考えが一瞬頭をよぎったが、口には出さず胸の奥へしまい込んだ。


「学園にいる名立たる教師たちほど優秀ではないがね、他の魔法使いには真似できない、一つの特技があるんだ」

「特技、ですか?」

「そう。ここだけの話にしておいてほしいんだが、私はちょっと特殊な“目”を持っていてね」


その言葉を聞いた瞬間、体が強張る。

特殊な力を持つ目――それは、私も持っていると言われた能力。

そして、貴重ゆえに外部へ漏らしてはいけないと、きつく言い含められているものだ。


「簡単に言えば、私は未来が見えるんだ」

「未来が見える!? なんですか、それ……とんでもない能力じゃないですか!」

「見えると言っても、細かく先の出来事すべてがわかるわけじゃないよ。私は人を見るとね、その人にこれから起こるであろう出来事が“色”として見えるんだ」

「色?」

「そう。人の周りに、うっすらと色づいた煙のようなものが纏わりついて見えるんだ。全員に見えるわけじゃないが、近いうちに幸運や不幸、あるいは大きな転機が訪れる人には、それが現れることがある」

「そんな大事な力のこと、私に話してしまっていいんですか? そういう能力って、他人に教えちゃいけないものなんじゃ……」

「おや、気遣ってくれるのかい? 感心だね。最近の学校教育は本当に行き届いているようだ。……でも、今の説明を聞いて、なんとなく察しはつかないかい? なぜ私が、わざわざ君にこの話をしたのか」


わざわざ話した理由――。

思い当たる節はない、と言いたいところだったが、さすがにここまで言われれば答えは一つしかない。


「もしかして……見えるんですか。私に?」


言葉にした瞬間、喉が渇き、唾を呑み込む。

女性は無言のまま、静かに頷いた。


「君に見えるのは赤い色の煙。それも、飛びきり濃いやつだ」

「赤色って……どういう意味なんですか?」

「赤はね、警戒色だ。危険や警告を示す色。――おそらく君は近いうちに、これまでにない困難や災難、危険な出来事に巻き込まれるだろう」

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