第三十八話 ようこそ私のお屋敷へ
タリアヴィルで起きた先ほどの一件の後、私達は簡単な買い出しを済まし街を離れアピロさんの住んでいる家に移動している。鬱蒼としている木々の間を獣道よりは幾分かマシと呼べる程度の道をそこそこの荷物を抱えながら歩くのはそれなり堪え少し休憩が欲しいと思った時、前方に木々が途切れている場所が見えてきた。
「やっと終わりが見えてきたっすね。いやぁなかなかここを歩くのはしんどいっすよ……」
私の横でキャトも私の内心と同じように弱音を吐いている。
荷物があるからという事もあるが、街に行くためにこの距離を毎度毎度歩くのは大変不便だろうと思ってしまう。
ちなみにアピロさんの足取りはというと重いどころか軽快でまるで疲れなど知らないという感じだ。私達がおいて行かれないよう時折少し立ち止まりはするが見えなくなるぎりぎりのところまで先へ先へと進んでいる。
「あの人、私達の速度に合わせて歩いてくれればいいのにどんどん前に行っちゃうせいでついていくのに疲れるっす、まるで子供じゃないっすか……」
「でもここ数日見てる感じ、子供っぽいというかお茶目なところあるよね」
「おちゃめな人は化け物相手に火球を何十発もぶち込んだりしないっすよ」
そんな会話をしながらも歩みを進めていると。ついに木々に囲まれた道を抜け光のさす開けた場所へとたどり着く。
そして、そこで目にしたのは
「さあ、二人ともついたわよ。ここが私の家」
「えっと、これって」
「お家っていうかその……お屋敷?」
私達の目に入ったのは、想像していたよりも遥かに大きなお屋敷だった。
外観を見るに作られてそれなりの年数は経過しているであろうと感じられるくらいの老朽化した感じを受けはするが、大きく破損したりヒビが入っているような箇所はなくしっかりとした印象を受ける。
そうやって呆気にとられている私達を気にする素振りもなく、アピロさんは入口の大きな扉の鍵を開けるとさっさと中へはいっていってしまった。
「こんな人も来なさそうな森の中にこんな大きなお屋敷って、本当に何者なんすかねあの人」
「キャトが知らないなら私もしらないわよ。多分、キャトとかほかの人達に合わなかったから魔法使いの人はみんなこれくらいの屋敷に住んでるのが普通っておもってたかも……」
「普通の定義が捻じ曲がらずによかったすねエーナさん」
「そうかもね……、とりあえず中に入ろうかな」
呆気にとられながらも私は玄関の大きな扉の前へ足を運び取っ手に手をかけ中へと入る。
おじゃまします、と声を出しながら扉をあけて目に映ったのは屋敷の大きさから想像できる通りの大きな広間であった。
中央奥には二階へつながる大きな階段がみえ玄関を開けただけでも一階と合わせて複数の扉が見える。屋敷内の空気は埃っぽさなどは全然なく、床や階段の手すりについても埃や塵も積もってもいない。
「どう?なかなかいい所でしょここ」
「いや、本当に凄いお屋敷ですねここ。ここにアピロさん一人で住んでるんですか?」
「そうよ、っと言いたいところだけど数年前からもう一人住んでいるの。今ちょうど頼み事をしてて屋敷を離れてるから戻ってきたら紹介するわ」
頼み事、ということはおそらく使用人であろうか。
(そういえばウルのおうちも屋敷を掃除したりする使用人さんが何人かいたりしたっけ……)
確かにこの屋敷をアピロさん一人で管理するのは大変だろうし使用人がいるのは当然か。といってもその人一人でで掃除から全部行っているのなら大変そうなきがするが。
「さて、とりあえず空いてる部屋に案内するから二人ともついてきてちょうだい」
先へ進むアピロさんに案内され、私達二人は二階奥の隣り合う二部屋と案内される。
「ここが二人の部屋よ。私は少し自室でやる事があるから二人とも暫くは部屋で休憩していて。用事が終わったら声をかけるから今後の事について話をしましょうか」
「わかりました」
「了解っす」
そういって私達はアピロさんと別れると各自案内された部屋と入っていた。
部屋の中は……ベッドにドレッサー、大きな鏡などこれと言っておかしなところはない普通の部屋であった。
私は荷物を降ろすとそのままベッドへと仰向けに倒れこむ。
そして目を瞑り、大きく深呼吸をした後再び目を開け体を起こして周りを見渡す。
(王都ではいろいろあって落ち着かなかったからそんなに意識してなかったけど、私本当に村の外に来ちゃったんだ……。)
見知らぬ部屋を見渡しながら頭に浮かぶ自分の家の部屋との差を感じ、今更ながら遠いころに来てしまったという実感を徐々に感じてきた。
これからどうなるかはまだわからない。
このまま学園に通う事になるのか、それともまた村に戻るのか。
(でも、なんだろう。仮に村に戻ったとしても、今まで通り生活できるのかな?)
この数日間、今まで名前こそ知っていたが振れたことのなかった魔法の世界に足を踏み入れた私は自分の常識を覆され危険に晒された事もあったが様々な事を知ることになった。そのせいなのか村にいる時は強く感じた事はなかったとある一つの感情。
それは好奇心だ。
魔法に関わり始めてから、知らない道具、知らない世界、知らない歴史、知らない事だらけで整理もつかない、混乱する事だって多々あった。けれどそれでも、今振れている未知のこの世界については私はもっと知りたいと思えるのだ。だから例え村に帰ったとしても、今まで通りのほほんとした生活を送れないかもしれない。
ふと、笑みがこぼれた。
なんで笑っているんだろうか、詳しい理由は私にもわからない。でも多分これはきっと、そうだ。魔法についてもっと知りたい、自分でも魔法が使ってみたい。
そして今そのチャンスが目前にきている。ならきっと取るべき道は一つ。
「ねぇお母さん、私魔法使いに……なってもいいかな?」
ぽつりとそう呟いて私は暫くの間瞳を閉じたのだった。




