NEET 魔王としての初仕事 前編
その日、珍しくノワールから呼び出された俺は空中庭園を訪れていた。
そこには表情を曇らせるジークが席についていたので、俺は2人に声を掛けると椅子に座った。
席に着くと2人の深刻そうな雰囲気に戸惑っていた俺に、ノワールが口を開いた。
「トーヤ…「魔神」として命令するわ。人界に誕生した「魔王」を折伏しなさい。それが無理と判断したら討滅しなさい…」
ノワールが魔神として俺に初めての命令を下した。
魔王を折伏?
出来なければ討滅?
俺が更に戸惑っているとジークが言った。
「人界に新たな魔王が確認された。トーヤにも覚えがあるだろう?」
…確かに。
こみ上げる怒りに任せて暴走する俺を仲間達が救ってくれた。
なるほど…今回は俺が救う側なのか。そんな事を考える俺にジークが言った。
「恐らく今回は「討滅」になるだろうな…そいつは自我を無くして暴れ回ってる。だからトーヤを呼んだんだ」
話の意味が分からない俺にノワールが言った。
「トーヤはまだ「魔王」を討滅した経験がないわね?ジークの言う通り、今回は間違いなく「討滅」する事になるわ…」
「だからこそトーヤに任せたいの。経験がないのは「あなただけ」という事もあるし…これは「魔王」としての責務だからよ」
ノワールはそう言って顔を伏せると、俺はジークに聞いた。
「もし…そいつが正気に戻ったなら、殺さなくてもいいんだよな?」
その問いかけにジークは頷くと言った。
「だが…正直に言って厳しいぞ?」
ジークはそう言ったが…俺はそうは思わなかった。
「やるだけやってみよう!」
俺の言葉に溜息をつくと、ジークは俺の肩に手を置いて転移を開始した。
転移先に広がる光景を見た俺は…絶句した。
見渡す限り焼け野原になっていて、立ち込める刺激臭に顔を歪めた。
その光景をジークは気にも留めずに歩き出したので、俺も後へと続いた。
するとジークが歩きながら声を掛けてきた。
「トーヤが暴れ回った時も酷かったが…今回もなかなか激しいな…」
そう言って周囲を見ながら歩くジークに言った。
「ジーク…なんでそんなに平然としてるんだ?」
俺の問いかけにジークは足を止めると答えた。
「長く魔王をやっていると次第に見慣れていくんだ。昔はシアが一人で対応していたんだが…あいつはその度に泣いていた。だから俺は強くなろうと思った。シアが泣かずに済むよ……」
ジークは話を途中で止めると先を見据えた。
俺も視線の先に目をやると…
そこには少年が立っていた。
すると、少年は俺達に気付くと振り向いて睨みつけてきた。
慌てて声を掛けようとすると、少年は俺達の姿を確認して…笑顔を見せて言った。
「お兄ちゃん達は「仲間」だよね?」
俺はその言葉に頷くと言った。
「そうだよ。君を迎えにきたんだ」
そう声を掛けると少年は首を傾げて言った。
「僕を迎えに来た?ごめんね…僕にはまだやる事があるからお兄ちゃん達とは行けないよ…」
そう言って表情を曇らせる少年に聞いた。
「やる事って何かな?俺達も手伝うよ?」
俺の言葉に少年は再び笑顔を見せると言った。
「ホント?なら早く次の街に行こう!もうここには生きた「人間」は居ないからね!」
そう言って笑顔を浮かべる少年に俺が言葉を失っていると、ジークが言った。
「もう充分暴れただろう?君に何があったかは知らないが、復讐は終わりだ…」
ジークの言葉に少年は激怒した。
「まだまだ足りないよ!この街の奴らが僕達に何をしたと思う?」
そう叫ぶと少年は話を始めた。
「父さんと母さんは少しのお金の為に毎日頑張って働いてた…なのに「臭い」「汚い」って理由で石を投げつけられて、最後は……」
少年は涙を流しながら話を続けた。
「兄ちゃんも、姉ちゃんも…妹も金持ちの玩具にされて……僕もそうだよ…毎日が生き地獄だった」
「少し前、僕らを玩具にしてた奴らがみんな死んだと思ったら、街の連中は俺達を追放した…俺達がいたら「天罰が下る」って言いながらね…」
興奮する少年は、深く息を吸うと話を続けた。
「本当の地獄はここから始まったよ。姉ちゃんと妹は死ぬ事を望むと…兄ちゃんが首を絞めて殺したんだ。2人とも幸せそうに笑いながら死んでいったよ…」
「そして兄ちゃんは首を吊って死んだ。その姿を見た時に思ったんだ。きっとこの世界は僕達を苦しめる為にあるんだって…」
「虫とか草を食べながら生きてるうちにそう確信したよ。そしたら突然頭に声が聞こえたんだ!」
「その話を聞いてると体に力が漲ってきた。この力であいつらに復讐してやる…そう思って街を壊してみたけど、まだまだ物足りないんだ!だから僕はもっともっと殺すんだ!」
そう言って笑う少年に俺は言った。
「君の好きにすればいいよ。俺に君の邪魔は出来ない」
そう言って笑顔を見せる俺にジークが言った。
「トーヤ…本気か?」
そう聞くジークに俺は答えた。
「彼の言ってる事は正しいよ。「知らなかった」じゃ済まされない。これは魔族じゃなく「人間」が自力で解決すべき話だ…」
そう言って転移を始める俺に声が掛かった。
「ヴァレンタイン!お前はまだまだ子どもなのじゃ!」
俺とジークが振り返ると腕を組んだシアが立っていた。
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駄作ですが…暇つぶしにでも
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