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ゼル 幸せを掴まされた魔王 前編

朝日が差すベッドルーム。


小鳥のさえずりに目を覚ましたゼルは、体を起こすと隣で眠る結婚相手「イリヤ」に目を向けると呟いた。


「どうしてこんな事になっちまったんだ……」

二日酔いで痛む頭を抑えながら、ゼルは昨夜の事を思い返した。



昨夜……イリヤ・デーモンロードの家に招かれたゼルは、イリヤの両親やその一族が準備した祝宴の席で酒を浴びるように飲んだ。


するとお調子者のゼルは酔いに任せて初対面の両親に宣言した。


「イリヤは俺が貰い受けたからな!もう返してやらねぇぜ?」

そう言ってゼルは酒瓶に口をつけると一気飲みをして場を沸かせた。


周囲もゼルに合わせて飲み続けると、あっという間にどんちゃん騒ぎとなった。


そんな楽しい宴がお開きになり、ゼルはイリヤの手を取り居城に転移すると「熱い夜」を過ごして眠りについた。



「……やらかしちまった」

断片的に記憶を呼び覚ましたゼルはそう呟くと、立ち上がって椅子に座ると水を飲んだ。


水を飲み干すと、ゼルは相変わらず痛む頭に顔を歪めながらイリヤの事を考えた。


イリヤは美しい。

性格に難はあるけど、愛嬌のある仕草や一途に想ってくれる気持ちにゼルは心地よさを感じていた。


だけど何かが引っかかっていた。

自身の心にある妙な違和感に気付いたゼルは原因を考えると、ふと1つ思い出した。


多くの人がそうであるように、ゼルも「初めての恋」は苦い思い出だった。


ゼルは一生懸命に想いを初恋の相手に伝えたけど、想い人は顔の良い性悪の男に持っていかれた。


その経験から、所詮は想いよりも「気軽さ」だと考えたゼルは、浅く広く恋愛しているうちに「真剣な恋」を次第に忘れていった。


だから今、ゼルは自分に一途な想いを抱くイリヤに戸惑っていた。


それに気付いたゼルは、自身がかつての「性悪男」と同じ事をイリヤにしている事に気が付くと……。


見合いが決まった時、ベルに「言った言葉」と「言われた言葉」を思い出して苦笑いした。


そんな事を考えていると、目を覚ましたイリヤが体を起こすとゼルに言った。


「ゼル……おはよ。早起きなのね?」

イリヤはそう言って起き上がるとゼルの隣の椅子に座った。


「おはよう……まだ寝ててもいいんだぜ?」

ゼルは挨拶を返すとイリヤが言った。


「しっかり寝たから大丈夫!それより何か食べたいかも」

イリヤの提案にゼルは少し考えると言った。


「あ!そういやトーヤの嫁の1人が飲食店をやってるんだって言ってたな……そこに行ってみるか!」

ゼルは早速ジークに念話で連絡すると、詳しい場所を確認してイリヤに言った。


「うまい飯を食べさせてやるから、準備したら行くぞ!」

ゼルの言葉に笑顔で頷くと、イリヤはベッドの周りに脱ぎ捨てていた服を着て準備を終えた。


ゼルは準備を終えたイリヤの肩に手を置くと、ジークに聞いた店の前に転移した。


さっそくゼルとイリヤは店内に入ると、2人に気付いたエルダは掃除をする手を止めて言った。


「すみません。まだ準備中なんです……ってゼルさん?」

面識のある顔に驚くエルダにゼルはイリヤを紹介した。


「いきなり来て悪いな。彼女はイリヤ……俺の嫁さんなんだ」

その言葉を聞いたエルダはイリヤに挨拶した。


「はじめまして。エルダです!2人が結婚したという話はトーヤから聞いてました。おめでとうございます」

祝福の言葉ににイリヤが挨拶を返すと、エルダは2人を下の階に案内した。


ゼルとイリヤは案内された先で椅子に座ると、エルダは手早く料理を作って2人に出した。


そして掃除に戻るエルダにゼルは軽く頭を下げると2人で食事しながら会話を始めた。


「美味いとは聞いてたが……マジで美味いな!」

ゼルの言葉にイリヤも同意した。


「本当に美味しい。流石は「魔帝」の魔王閣下の奥様……只者じゃないのね……」

そう言って美味しそうに食べるイリヤにゼルは聞いた。


「なんだ「魔帝」って?」

ゼルの問いに食事の手を止めるとイリヤは話を始めた。


「決闘で見た魔王の皆様に魔族が畏敬の念を込めてそう呼んでるの」


トーヤ・ヴァレンタイン魔王閣下は「魔帝」


ジークハルト・タイガーハート魔王閣下は「剣帝」


シンシア・スネイクハート魔王閣下は「拳帝」


ゼルノア・ドラゴンハート魔王閣下は「銃帝」


「魔王閣下の素晴らしい戦いを忘れないよう、そうお呼びする事が決まったのよ」

ゼルは話に耳を傾けているとイリヤが尋ねた。


「私はゼル一筋なんだけど…ベルシュタイン魔王閣下はなぜ戦わなかったのか理由を聞いてもいい?」

イリヤの問いにゼルは答えた。


「ベルか……。あいつは戦闘に向かない性格なんだよ。それはトーヤも似た所があるが、あいつはやると決めたら躊躇わない。俺もジークもそうだ。あの決闘はそういうメンバーで臨んだけど……」


「ベルは違う。あいつは引きずるんだ……いつまでも奪った命に懺悔する。単純な強さなら俺達と同等だけど精神が脆い。それはシアにも言える事だけどな……」

ゼルの話が終わるとイリヤは驚きながら言った。


「ゼルは仲間を良く見てるのね?ちょっと驚いちゃった!」

イリヤの言葉に照れたゼルは無言で食事を続けると、イリヤはゼルの様子に笑みを浮かべた。


そして食事を終えると階段を上ったゼルは、掃除を続けるエルダに礼を言って大金貨を渡すとイリヤと店を出た。


大金貨を渡されたエルダは、そんな2人を呆然としながら見送った。


いつも読んでくれてありがとうございます!



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