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NEET 第1種接近遭遇

その日……


俺とセリナ、エルダは久しぶりに3人で町を歩いていた。

特に目的があった訳じゃなかったので見慣れた町を眺めながら会話してると、前方から女性たちの黄色い悲鳴が上がり始めた。


俺達は何事だろう?と顔を見合わせていると、女性たちの黄色い悲鳴は徐々に近づいてきた。


そしてついに悲鳴の原因が俺達の前に姿を現した!


オールバックに黒いサングラス、葉巻を咥えたハードボイルドな変態が立っていた。


その変態は右手に水鉄砲を持っており、水鉄砲は担いでいる樽とホースで繋がっていた。


そして黒のブーメランパンツ一枚を身に纏った変態……いやガチの変質者は、周りの女性達に水鉄砲を発射しては黄色い悲鳴に笑顔を浮かべていた。


その様子に唖然とする中、変態は声高らかに宣言する。


「私の聖水を浴びたい者は前に出なさい!」

その言葉に女性達が殺到すると、変質者は再びノリノリで水鉄砲を連射し始めた。


「セリナ、エルダ……引き返そう!」

俺は2人に声を掛けて来た道を引き返そうとした時、その変質者に声を掛けられた。


「君達にも僕の聖水をかけてあげよう!さぁこちらに来るんだ!」

俺は「間に合ってます!」と断ったけど、その変質者は首を傾げて言った。


「ご主人。心配はいらないよ?何故なら僕の聖水は人肌に温められているからね!」


「それに「美肌」や「美白」の効果も保証するよ!」

……想像を遥かに超えるヤバい変質者だ。


「大丈夫ですから気にせず他に行ってください!」

そう告げると男は閃いたように言った。


「失礼。私は「水鉄砲おじさん」だよ!これで安心して貰えたかな?」

むしろドン引きした俺は無視して引き返そうとすると、水鉄砲おじさんは俺に「ピュッ」とひと掛けしてきた。


……そんなに死にたいのか。


俺は水鉄砲おじさんの咥えた葉巻を手に取ると脇腹に押し付けた。

すると水鉄砲おじさんは痛みに悶えながら脇腹に聖水を掛けると……驚いた事に火傷の跡が綺麗に消えた。


マジで聖水なの?

俺が驚いていると水鉄砲おじさんは言った。


「いきなり酷いじゃないか!中身が聖水じゃなかったら大変だったよ!」

そう言って俺に背を向けると樽を見せた。


樽には「業務用高級聖水」と書かれていて、どうやら本物の聖水みたいだ。


水鉄砲おじさんは俺に向き直ると言った。


「ね?間違いなく聖水でしょ?しかも領主様にも町の人々にも事前に告知して許可を貰っているんだ!」

なるほど……それは申し訳ない事をした。


「すみません。どうやら俺はあなたを変質者と誤解していたようです」

素直に頭を下げる俺に水鉄砲おじさんは言った。


「気にしないでくれ!幸いにも聖水のお陰で怪我も治ったし、私も悪ノリが過ぎたみたいだ」

話してみると水鉄砲おじさんは良い人だった。


俺は会釈をして場を離れようとしたその時、バランスを崩した水鉄砲おじさんが派手に転んだ。


俺は水鉄砲おじさんに近付くと、なかなか立ち上がらない水鉄砲おじさんが大袈裟に言った。


「しまった!足首を痛めてしまったようだ…」

見ると確かに赤く腫れていた。


「こんな時……私の代わりに水鉄砲で聖水を撒いてくれるステキな男性はいないかな?」

そう言って俺に熱い視線を向けてきた。


「俺は無理ですよ!」

そう答えると水鉄砲おじさんが脇腹をさすりながら言った。


「先ほど痛めた脇腹に気を取られてしまったから、転んでしまったんだけどなぁ……」

俺をチラ見しながらプレッシャーを掛けてきた。


「……分かりました。それを背負って聖を女性に掛けて歩けば良いんですね?」

そう言って樽を外そうとしたら、水鉄砲おじさんは黒のブーメランを俺に渡して言った。


「準備はしておくから、君はそれに着替えて来るんだ!」

……マジか?


「無理です!こんな格好は絶対に無理!」

俺がそう答えると寂しそうに言った。


「……これが私の仕事なんだよ」

そう言って涙ぐむ水鉄砲おじさん。


……もうどうにでもなれ。


俺は近くの公園にあるトイレで着替えると、ブーメラン一枚になった姿で水鉄砲おじさんに近付いた。


そして無言で水鉄砲セットを装備すると女性達に聖水を発射した。


女性達は俺に「もっとかけて!」と言いながら近づいてきたので望み通りにかけて回ると、聖水が空になるまで発射し続けた。


その様子にセリナは笑顔を見せてくれたが、エルダは顔を赤くしてチラ見を繰り返していた。


水鉄砲おじさんは空になった樽に満足すると、俺達に手を振りながら去っていった。


俺はすぐに着替えると2人の慰めを虚ろな表情で聞いていた。

そんな俺を励まそうとセリナとエルダはブーメラン姿の感想を言い始めた。


「とっても素敵でした!」と、セリナ


「ま、まぁ良かったよ?」と、エルダ


俺は2人に「それは良かった……」と力なく告げると3人で町を歩き続けた。


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