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トーヤ 崩壊への道 後編

農業を始めて2週間が経った。


普段通り農作業を終えた俺は、フレイヤと話しながら食事を進めていた。


「ヴァレさんはいつも美味しそうに食べてくれるね?」

フレイヤはパクパク食べる様子に笑みを浮かべた。


「実際うまいしな。特にフレイヤの味付けは好みだ……」

俺がそう言ってからかうとフレイヤは頬を膨らませると言った。


「なにさっ!今はまだ下手だけど……そのうちヴァレさんが美味しいって言ってくれる料理を作るもん!」

そう言って拗ねるフレイヤに言った。


「気長に待ってるよ。名コックさん?」

フレイヤは俺を睨むとプンスカ怒っていた。

その様子が可愛くて、つい笑ってしまった俺を見たフレイヤは更に怒った。


「ヴァレさんは、たまに凄く意地悪になる!そんなヴァレさんは嫌いっ!」

しまった……言い過ぎたか?

俺が狼狽えてる様子に気付いたフレイヤは笑いながら言った。


「あれ?冗談のつもりだったけど……ヴァレさん慌てすぎじゃない?」

その言葉に今度は俺がムスッとすると、フレイヤは悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべてキッチンに引っ込んだ。


俺は食事を終えるとキッチンを掃除するフレイヤに声を掛けて、作業途中の畑へと向かった。


畑には撒いた種が発芽をして、茶色の畑に若々しい緑の点が目立ち始めていた。

俺は芽を見て無常の喜びを感じた。


農作業をしながらフレイヤと話をする日常が、とても居心地が良かった。



そんな日々を数ヶ月過ごした俺に、畑に姿を見せたアーヴァインから突然その命令が報された。


「ノエル……久しぶりだな。さっそくだが国王陛下からの命令を伝える」

久しぶりに再会したアーヴァインは無表情のまま淡々と話を始めた。


「2ヶ月後、我が国は四大国の一国である「ドーラン共和国」に宣戦布告を行う。ノエル・ヴァレンシュタインは直ちに王宮へと向かうように……だ」

アーヴァインの話を聞いた俺はすぐに拒否した。


「断る。俺はアーヴァインと違って貴族じゃない。ただの平民に兵役の義務はないはずだ!」

そう言って拒否する俺にアーヴァインは言った。


「ならどうする?宣戦布告すれば国民はお前が英雄、いや「戦神」として戦場に出ると確信するぞ。そんな国民を裏切るのか?」

その問いかけに俺は決断した。


「なら俺が国王陛下に宣戦布告の撤回を直訴する。俺が参戦を拒否したら考え直してくれるかもしれない……」

俺の意志を聞いたアーヴァインは少し考えると言った。


「……馬車を駐屯地に手配しているから、さっそく王宮へと向かおう」

急かすアーヴァインに言った。


「済まない……少し準備があるから終わったら駐屯地に向かうよ」


「……分かった。先に行って待ってる」

そう答えるアーヴァインに背を向けると、俺はフレイヤのいる店に向かった。


店に入るとフレイヤの姿を見つけた俺は駆け寄ると、キョトンとした様子のフレイヤに言った。


「フレイヤ、少しの間だけど街を離れる事になったんだ。たまに畑の様子を見に行ってくれないか?」

俺の頼みに驚きながらもフレイヤは答えた。


「それは大丈夫だけど……まさか戦争に呼ばれたの?」


「違うよ。ちょっと王宮に顔を出すだけだ」

その言葉に安心したフレイヤは言った。


「分かった!待ってるから早く帰ってきてね?次に来た時は美味しい料理を作ってあげるから!」


「楽しみにしてる」

そう答えて店を出た俺を、フレイヤは見えなくなるまで見送ってくれた。


駐屯地についた俺はアーヴァインの誘導で馬車に乗り込むと王宮へ向かった。


馬の調子が悪いらしく、途中で何度も他の馬車に抜かれながらの移動は3週間ほど続いた。

そして俺達はようやく王宮へと到着した。


さっそく謁見の間に入った俺は膝をついて頭を下げると、アーヴァインは国王陛下の傍に控える。


すると頭を下げる俺に国王陛下が口を開いた。


「ノエル、顔を上げよ。何だその身なりは?貴殿は「英雄」としての矜持を無くしてしまったのか?」

俺は顔を上げると言った。


「私は英雄などではありません。ただの「殺戮者」でございます。そもそも英雄の矜持など持ち合わせておりません」

その言葉に国王陛下は笑いながら言った。


「そうか殺戮者か!貴殿はなかなか面白い事を言ってくれる。その殺戮者に命令だ……次の戦争で敵軍を根絶やしにせよ!」

その命令を聞いた俺はすぐに答えた。


「お断りします。私はもう命を奪いたくないのです」


「……我が頭を下げてもか?」

国王陛下は強い口調で問いかけたが、俺の意思は変わらなかった。


「お断りします。その為に参りました」

俺の言葉に国王陛下は衛兵を呼び指示を出した。

何かする気だろうかと考えていると、衛兵達は誰かを連れて……!?


「フレイヤ?」

俺の呼びかけに気付いたフレイヤは衛兵達に囲まれながらも「ヴァレさん!」と言って笑顔を見せてくれた。


でも何故フレイヤが……!

俺は立ち上がると……アーヴァインに聞いた。


「アーヴァイン!お前が指示したのか?」

そう聞くとアーヴァインは淡々と答えた。


「そうだ。これでお前は「断れない」だろ?心配するな……彼女に手荒な真似は一切していない」

表情を変えず淡々と話すアーヴァインを睨みつけていると、国王陛下が言った。


「どうだろう……力を貸しては貰えぬか?我の願いを叶えてくれるなら、我も貴殿の願いを叶えよう……」


俺は力無くその場にヘタリ込むと手をついて懇願した。


「お願いします……その女性には手を出さないで下さい……」

力なく項垂れる俺を見た国王陛下は満足そうに言った。


「なら貴殿は我に何をしてくれる?」

無言を続ける俺の姿に焦れた国王陛下は、衛兵に命令を出した。


「その娘を斬り捨てよ!」

するとフレイヤを取り囲んでいた衛兵の1人が剣を抜く姿を見て俺は叫んだ。


「待ってください!」

その言葉を聞いた国王陛下は衛兵を制止すると言った。


「何が「分かった」のだ?」

俺は国王陛下の言葉に力無く返事した。


「戦場に……出ます。だからその女性を解放してください……」

俺の返事に満足した国王陛下は衛兵に「離してやれ」と指示を出した。


フレイヤは「ヴァレさん!」と言いながら俺に駆け寄ってくると……

その後ろを剣を抜いた衛兵が追いかけた。


力が抜けていた俺は、フレイヤに振り下ろされる剣が彼女の背中を斬りつける光景に絶句した。

そして斬りつけた衛兵は俺の様子を見て笑い声をあげると言った。


「どうだ!大切な人を奪われた者達の苦しみが、貴様にも少しは理解出来たか?」

そう叫ぶと、すぐに他の衛兵達に拘束されて何処かへ連れていかれた。


俺はフレイヤに這いよると、激しく出血する彼女の体を抱き起こして声を掛けた。


「フレイヤ?……なぁフレイヤ?」

すると呼びかけに気付いたフレイヤは、俺の頬に手を当てると言った。


「ヴァレ……さん……笑って……?」

俺は必死になって笑顔を作るとフレイヤも痛みに耐えながら笑顔で言った。


「わ……たし……ヴァ……レ……の……す…き……よ……」

そう言ってゆっくり目を閉じると、俺の頬から力が抜けたように手が離れ……



そしてフレイヤの呼吸が止まった。


俺はそんなフレイヤを抱きしめて泣き続けた。


どこで間違えた?

何故こんなことになってしまった?



フレイヤの流した血が俺の服を赤く染める中、俺はアーヴァインに聞いた。


「……覚えてるか?2人で死を前にした時の事を。あの時、俺達は死ぬべきだったんだ……」

アーヴァインは黙ったままだったけど、俺は構わず話を続けた。


「死を恐れた俺は……生き残ったら今度はこのザマだ。何が英雄だ?何が戦神だ!?」


「だから共に死のう。俺が捻じ曲げてしまったこの国の運命は……俺が元の形に戻す!!」

そう言って力を発動させた俺は、力を自身に溜めると一気に解放した。


虹色の衝撃波は王宮全体を通過し、国土の大半に広がると激しい爆発を起こした。


すると爆心地となったその場で、フレイヤを抱きしめ続けていた俺の頭の中に神の声が聞こえた。


「結局「修正力」には抗えなかったみたいだね?それに「死を恐れた君」が「死を望んだのに死ねない」なんて傑作だ!」

俺が沈黙する中で神は話を続けた。


「正解はその力で逃げ出す事だった。君は間違えちゃったね?」

そう言って笑う神に聞いた。


「使い方を教えてくれたのは神だろう?」

俺の問いかけに神は笑いながら答えた。


「そうだね!でも使えとは一言も言ってないよ?まぁ君が始めた物語……そろそろ第一章が終わるね?」

どういう意味だ?

考えているが神の声は聞こえなくなった。



すると静寂に包まれるこの場所に声が響いた。


「これはまた派手に暴れたのぉ?元気いっぱいじゃな?」

声のする方に目をやると少女が立っていた。そしてその少女は俺とフレイヤの様子を確認すると言った。


「……そうか。気持ちはよく分かるのじゃ……あたしも似たような目にあったことがあるからのぉ……」

少女はそう言って少しの間黙祷すると、俺に問いかけた。


「それでじゃが、お前はこれからどうするのじゃ?」


「この国を完全に破壊する。それが俺の責任だ…」

俺がそう言うと少女が纏う空気が変わった。


「最終確認じゃ……それをやめる気はあるか?」


「ない」

そう答えると少女は悲しそうな表情を浮かべて言った。


「ならここで死ぬのじゃ……」

少女の言葉を聞いた俺は、フレイヤをそっと置いて立ち上がると神剣を構えた。


「本気の一撃でくるのじゃ!悔いが残らぬようにな!」

少女はそう言って力を集中させると「いくのじゃ!」

と叫んで俺に拳を向け、俺は神剣をその拳に振り下ろした。


互いの力がぶつかり合う中で少女は拳から血を流し始めると、俺が振り下ろした神剣には少しずつヒビが入り始めた。


「あれだけ暴れてまだこれほど力を残していたのか?すごいのじゃ!でも……もう終わりじゃ!」

少女はそう言って力を解放すると、神剣は砕け散り拳が俺の左胸を貫いた。



俺は崩れ落ちると見下ろす少女に言った。


「あり……がとう……これで……終わ……れ……」

そう言って目を閉じると、フレイヤの笑顔を思い浮かべながら深い闇の中に沈んでいった。



少女は空を見上げると少しの間……涙を流した。


ども!へっぽこです!


ここまで読んだ勇者の皆様


お疲れ様です!


ブクマ61件!ありがとうございます!


また、感想頂きありがとうございます!


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