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トーヤ 崩壊への道 前編

あの日から1ヶ月が過ぎた。


王宮で祝勝会が執り行われると、皆が俺を戦神と呼び褒め称えた。


憔悴していた俺に国王陛下は労いの言葉と暫しの休息を与えてくださったので、1人で王宮を出た俺はフレイヤのいる街を目指した。


2週間と数日に渡る馬での移動を終えた俺は、街に到着するとフレイヤが働いている店のドアを開けた。


そこにはフレイヤの姿は見当たらなかったけど、席に着くとパネーの香草焼きを注文した。


少し待つと頼んだ料理が出てきたのでさっそく食べ始めた。

久々に食べる味に懐かしさを感じていると、店のドアが開く音がして振り返った。

するとそこにはフレイヤの姿があった。


フレイヤは俺に気付くと、すぐに駆け寄ってきて隣に座ると俺に笑顔を見せて言った。


「待ってました!あの話の続きを聞かせてください!」

俺はフレイヤの笑顔に泣きそうになるのを堪えると彼女に聞いた。


「ごめん……どこからだっけ?」

その言葉に頬を膨らませると「森を抜けた先で見た大きな穴の話」ですよ!」と俺に言った。

そのタイミングで出してくれた料理を食べながらフレイヤと話を続けた。


楽しい時間を過ごしていると、俺はいつの間にか涙を流している事に気付いた。

フレイヤはそんな俺を見て驚きながら聞いた。


「英雄さんもちゃんと泣けるんですね?」

そう言って俺の頭を抱きしめると、涙が止まるまでの少しの間……何も言わずに抱きしめ続けてくれた。


涙が止まった俺は顔を拭うとフレイヤに言った。


「ありがとう。もう大丈夫だ」

俺がそう言うとフレイヤは笑顔を見せてくれた。


「私で良ければ何でも話して下さい。時間だけはありますから!」

そう言って椅子に座るフレイヤと話の続きをしながら食事を済ませると、俺は駐屯地にある訓練所の隅に腰を下ろした。



……


ふと空を見上げると急に激しい頭痛と、何かが体の中に入ってきたような違和感に襲われた。


気が付いたら頭痛は治まっていて妙な感覚も消えていたけど、頭の中を掻き回す不快感に意識が乱れた。


その感覚に戸惑っている俺に声が掛かった。


「よぉ!調子は戻ったか?」

声の方を見るとそこには俺に近付きながら手をあげるアーヴァインがいた。


「調子が戻ったってどういう意味だ?」

そう尋ねるとアーヴァインは溜息をついた。


「おいノエル!お前がそんな感じだと次の戦争で仲間がまた死ぬぞ?」


「……あれからまだ2年しか経ってないのか」

そう答ると次第に意識がはっきりしてきた。


「もう2年だ!」

そう言って隣に腰を下ろしたアーヴァインは話し始めた。


「この2年で近隣国家を吸収して大きな国になった。それこそ四大国家と張り合えるくらいにな!」


「噂だが、国王陛下は近々その一国との戦争を考えてるらしい……」

アーヴァインの言葉に俺は震えながら聞いた。


「……それは噂……だよな?」

そう聞く俺に、アーヴァインは渋い表情を浮かべながら答えた。


「いや……それが噂と言うよりは真実に近いだろう。一般兵士は普段通りに過ごしてるが、上層部はバタバタ駆け回ってるし……貴族には「軍資金」を国に納めるように通達があった」

その話に言葉が出ない俺を見たアーヴァインは話題を変えた。


「それより聞いたぞ!お前……この街に「いい人」がいるんだって?可愛いのか?」

俺は突然の話に動揺しながらも答えた。


「別にいい人なんかじゃない……フレイヤは俺の話を聞いてくれる優しい女の子ってだけだ……」


「フレイヤっていうのか……」

そう呟いて静かになったアーヴァインに俺は首を傾げていると、アーヴァインは俺に言った。


「いや、いい名前だなと思っただけだ!フレイヤの為にも次の戦いは頑張らないとな!」

そう言って俺の背中を叩くアーヴァインに言った。


「俺は奪う為の戦争には協力しない。これからは守る為に……俺はこの力を使う」

俺がそう言うとアーヴァインは頭を抱えながら言った。


「おいおいマジかよ?ノエルが出なきゃ間違いなく勝てないぞ?考え直せ!皆がお前に期待してるんだ!」

俺はアーヴァインに本音を漏らした。


「もう嫌なんだ。今更なのは分かってるけど…俺はフレイヤを、この国に生きる数多の命を守る為に戦うと決めた」


「俺は愚かだった。「戦神」と呼ばれても所詮はただの人間で、その領分を超えちゃいけなかったんだ。だから俺はもう奪う為には戦わない。守る為ならいくらでも力を貸すよ」

俺の話を聞き終えるとアーヴァインは立ち上がって言った。


「ノエル……お前の力を使わないと確実に敗戦するぞ。そうなったらお前が守りたいと言ったものはどうなる?」

そう言ってアーヴァインは睨みつけるけど、俺は素直に思った事をそのまま口にした。


「こちらから奪いに行って返り討ちにあうのなら、それもまた運命だ。俺はそれに従うだけだよ」

俺の言葉に、アーヴァインは何も言わず訓練所を後にした。


俺はアーヴァインの背中を見送ると、その場に寝転んで空を流れる雲を見ているうちに眠ってしまった。


目を覚ますとあたりはすっかり茜色に染まっていたので、俺は宿に戻ると食堂で夕食を済ませると部屋に戻った。


そのままベッドに横たわると、昼寝したにも関わらず俺はすぐ眠ってしまった。


翌日


俺は仕事を探した。

金がない訳じゃない……ただ、この街にいる理由が欲しかった。


なかなか見つからなかったけど、街外れに住む老夫婦が畑を貸してくれたので農業を始めることになった。


もともと実家で農作業の経験があった俺は、種を植えて管理をしながら、空いた時間はフレイヤの働く店で食事をしながら話した。


フレイヤに俺が農業を始めた事を伝えると「嘘でしょ!?英雄が鍬を片手に農作業!?」と笑っていた。


そんな日々の中でフレイヤは俺に敬語をやめると「ヴァレさん」と呼ぶようになる。

あだ名で呼ばれる経験は久しぶりで新鮮だった。


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