Xmas特別企画 何かが「反転」したおかしな世界
ある朝…。
「旦那様!起きて下さい!」
その野太い声と、質量を感じさせる手に激しく揺さぶられた俺は目を覚ました。
声の主に顔を向けると……彫りが深くゴリゴリの筋肉を身に纏った…セリナ?がいた。
訳が分からず混乱する俺に、哀しみを称えたような笑顔を見せると「お出掛けしましょう!」と誘ってきた。
俺は混乱しながら着替えを終えると2人で町を歩いた。
…何かおかしい。
セリナの…俺より遥かに大きな体に、逞しい腕もそうだけど町も様子が変だ。
建物は荒廃し、すれ違う男達はモヒカンやスキンヘッドにサングラスで…何故か袖が破かれた服を着ている。
未だ混乱が続く俺は、圧倒的な存在感を放つセリナとしばらく歩くとその店の前に辿り着いた。
目からウロコ亭…だよな?
看板や店の壁は、マシンガンでも打ち込まれたかの様に穴だらけで窓ガラスは割れていた。
いったい何があったんだ!?
混乱が続く中、セリナはぼろぼろのドアを蹴飛ばすとダイナミックに店内へと入っていった。
俺もその逞しい背中を追い店内へと入ったら、そこに広がる光景に絶句した。
店内の至る所に銃弾が撃ち込まれたような跡があり、床には謎の血痕のようなシミ…ぼろぼろのテーブルには無数の傷が付いていた。
俺が頭を抱えていると声が掛かった。
「トーヤ!お帰りなさい!」
…セリナと同じく野太い声が店内に響き渡った。
嫌な予感がした俺は振り返らずに震えていると、声の主の鍛えられた太い手が俺の肩を叩いて言った。
「どうしたの?大丈夫?」
俺は覚悟を決めて振り返ると…激しい戦いを思わせる傷跡が刻まれた、逞しい体のエルダ?が立っていた。
やはりエルダも彫りの深い顔に慈愛の笑みを浮かべていた。
俺の混乱が続く中、セリナがエルダと会話を始めた。
「そうだ!今日はパフェでも食べに行かない?」
と、エルダと思われるマッチョ。
「良いですね!行きましょう!」
と、セリナと思われるマッチョ。
俺はその様子を激しい違和感に包まれながら眺めていると、2人は立ち上がって俺の腕を左右から拘束して早速パフェの店へと向かった。
太い腕の2人に両サイドをガッチリと挟まれ店を出た俺は1つ2人に言いたいことがあった。
180センチとそこそこの背が高い俺より、遥かに高くゴツい2人に腕を拘束されていた為…
…ちょっと浮いているのだ。
だから店を出てから俺は歩いていない…いや歩けない状態が続いていた。
しかも。俺の腕は激しく拘束されていて血の流れが止まっており、パフェを食べる店までに壊死しないか不安で仕方なかった。
そんな不安をよそに、圧倒的な存在感を放つ2人としばらく歩くと店に着いた。
ようやく拘束から逃れた俺は……腕の感覚を失っていた。
両腕は変色していて動かそうにも力が入らない。
そんな俺の状況を知らない2人は店のドアを「ドン!」と激しい音を立てながら優雅に入店したので、俺は2人の大きな背中を追いかけ店内に入った。
そして3人で血塗られた椅子に腰を下ろすと、セリナとエルダはメニューを選び始めた。
俺は腕の回復に全神経を注いでいると、メニューが決まった2人は勝手に俺の分を決めて店員さんを呼び注文した。
少し待っているとパフェが到着し、俺達の前に配膳された。
…のだが。
パフェを食べ始める2人にやはり違和感を感じた。
まずはスプーンだ。
体格に合わないせいか、2人はスプーンをつまむように持つと器用に食べている。
そしてパフェのサイズ。
俺の前に置かれたものと同じサイズとは思えないほど小さく見えた。
俺の前に置かれたパフェは「キングサイズ」ではないかと疑問が浮かぶほど、2人の前のパフェが小さく見えた。
そんな違和感に頭を抱えているとセリナが話しかけてきた。
「旦那様?食べないのですか?」
そう聞くセリナに腕が上がらない事を伝えると、パフェをすくって俺の口の前に運ぶと言った。
「あ〜ん!」
俺に哀しみを称えた笑顔を向けると恥ずかしそうにした。
…遂に目どころか頭まで狂ってしまったのだろうか?
ゴリマッチョのセリナが可愛く見えてきた。
俺はそれを食べると、嬉しそうに笑うセリナに愛しさを感じてた。
すると、身を乗り出したエルダがパフェが乗ったスプーンを俺の口の前に差し出して言った。
「私も!あ〜ん!」
そう言って猫耳をピクピクさせながら、慈愛の瞳を向け笑顔を見せる強靭な身体のエルダが…
…やはり可愛く見えた。
それを食べると俺は2人に笑顔を見せて言った。
「2人ともありがとう!すごく美味しいよ!」
その言葉にセリナとエルダは笑顔を見せてくれた。
そうだ。
俺は2人を見た目で選んだんじゃない!
心に惹かれたんだ!
そんな事を思っていると頭に謎の声が聞こえた。
「良く言った!流石「主人公」だよ!」
なんだこの声?
俺が戸惑っていると突然風景が暗転し、激しい眠気に意識を失ってしまった。
「はっ!?」
俺は目を覚ますといつものベッドにいて、横にはセリナが寝息をたててスヤスヤ眠っている。
夢だった…のか。それにしてもリアルな夢だった。
安心して再び眠りにつく俺は枕の下にある「スプーン」に気が付かなかった。
読者の皆様!
メリークリスマス!
今回はSNSの友人から要望があり
急遽、特別企画として仕上げました。
楽しんで頂けると嬉しいです!
 




