NEET 慰める
「もうヤダ。魔王なんて辞めてやる……」
部屋の隅でうずくまるベルに近付くと彼の嘆きと失意が伝わってきた。
俺はベルを立ち上がらせると椅子に座らせ、話をしようと声を掛けるが反応がない。
その様子を見ていたセリナが俺の隣に座るとベルに優しく話しかけた。
「ベルさん……ゆっくりで構いませんから気持ちを聞かせてくれませんか?」
セリナの言葉にゆっくりと顔をあげたベルは重い口を開いた。
「みんな酷いんだ……他人事だと思って僕に「馬」や「ゴリラ」とお見合いしろって笑ったんだ…」
ベルは涙を溜めながら話を続けた。
「だいたい僕はお見合いなんてしたくないんだ……それなのにノワール様の一言で決まって……僕の人生はいつもそうだ!大事な事はノワール様の一言で全部決まっちゃう!」
そう言って涙を流すベルにセリナは話を始めた。
「ベルさんの気持ちは良く分かります。大事な事はベルさん自身で決めたいですよね?」
無言で頷くベルにセリナは話を続けた。
「でしたら断りましょう。旦那様と私でノワールさんに話をします」
意外な提案にベルと俺は驚いていると、セリナは俺に顔を向けて言った。
「ベルさんが可哀想です。旦那様が同じ立場ならどうでしょう?」
間違いなく拒否する……。俺はベルに問いかけた。
「セリナの提案は正しい。ベルが望むなら俺達からノワールに話をするよ!ただなぁ……」
そう言って考え込む俺にベルとセリナは視線を向けると俺の話の続きを待っていたので、俺は手早く考えをまとめると話の続きを始めた。
「あのノワールが考えなしに行動してるとは思えないんだ。多分何かしらの意図がある……ベルに1つ聞いていいか?」
「いいよ……」
力なく答えるベルに俺は尋ねた。
「ベルは魔王になった事を後悔してるか?」
その問いかけにベルは素直な気持ちを話し始めた。
「魔王になった事を後悔した事はないよ。何だかんだ言っても楽しい日々だったし。だけど今回の話は酷いよ……ノワール様は何を考えてるんだ?」
そう言って失意の表情を浮かべるベルに言った。
「確かに馬とかゴリラと本当に見合いする羽目になるなら辛いが……実はあの後は真面目に選考して、ベルの見合い相手は本当に良い女性達を選んだつもりだ!」
「ただ、書面からは性格や相性が分からない。だから会うだけ会ってみて嫌なら断ればいい。その時はセリナと2人でノワールに話をすれば、無理やり結婚させられる事は絶対にないって約束するよ!」
その言葉を聞いて次第に元気を取り戻していくベルに話を続けた。
「ここからは俺の想像なんだけど……多分ノワールは同胞たるベルやゼルに結婚して幸せになって欲しいと考えたんじゃないかな!」
「え?」
俺は困惑するベルに言った。
「ノワールは最近俺と結婚して……多分幸せを感じてくれてるんだ。だからベルやゼルにも見合いをさせて相手を探させたいんじゃないか?幸せを感じさせる為に。まぁ……発想が極端過ぎるとは思うけど」
話を聞いたベルは暫く考えると結論を出した。
「分かったよ。僕、お見合いする!」
元気を取り戻したベルは力強く宣言すると俺達にいつもの笑顔を見せてくれた。
「2人とも本当にありがとう!僕、ノワール様に謝ってくるよ」
そう言って転移すると部屋を去っていった。俺とセリナは顔を見合わせると話し始めた。
「旦那様は流石です。私はノワールさんの真意に気付けませんでした……」
そう言って俯くセリナに俺は慌てて言った。
「いやいや、あくまで俺の想像だよ?もしかしたら断るのが面倒だっただけかもしれないし。ただ、そうだったら良いなとは思うよ!」
その言葉にセリナは笑顔で頷くと言った。
「きっとそうです!間違いありませ……クシュン!」
セリナはくしゃみをすると恥ずかしかったのか顔を赤らめた。その様子に俺の視線が釘付けになっている頃、空中庭園ではベルの謝罪が始まっていた。
「ノワール様。数多くの不敬な言動……申し訳ありません。見合いの件、謹んでお受けします!」
そう言って謝罪するベルにノワールは静かに言った。
「いいの……気にしてないわ。私も少し悪戯が過ぎたし。それに戻って来てくれて助かったわ」
そう言ってベルに一枚の見合い状を差し出した。
「動物」以外なら何でも構わない。ベルは覚悟を決め受け取るとゆっくり開いて内容を確認した。
……!
ベルは驚いた。
銀髪で見開かれた瞳は真紅、白い肌の美しい女性の写真が貼られていてプロフィールは無記載だった。
驚くベルにノワールは話を始めた。
「最初は断ろうと思ったの。だけどその娘の写真が目に留まったわ。何故だろうと考えているとベル……あなたの顔が不意に浮かんできたの。だから皆には見せずに私の手元に置いて、ベルにだけ見せようと決めたわ」
「そして皆が選んだ4人と合わせて5人と見合いするか、それとも今からあなた自身が選んで決めるかは自由よ……」
ノワールがそう言ってテーブルに視線を向けた先には4枚の見合い状があった。
ベルはすぐに目を通すと、それぞれ素晴らしい女性たちだと理解できた。
ちゃんと選んでくれてたんだね……ベルは仲間達の気持ちに感謝するが、やはり気になるのはノワールの選んだ女性だった。
ベルは少し考えると決断した。
「ノワール様。僕はこの女性と見合いをします!」
そう言って選んだ一枚の見合い状をノワールに差し出した。
ノワールはそれを受け取り確認するとベルに言った。
「分かったわ……日時が決まり次第連絡するわね」
そう言うと書類を処理し始めるノワールにベル一礼して庭園を後にした。
ベルが選んだのはノワールが勧めた女性だった。
ノワールはベルが去った後、紅茶に口をつけながら静かに微笑んだ。
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