NEET 世界を壊した小さな拳の結末を見守る
最終決戦を前に静まり返る場内。
シアは相手の男を睨みつけていた。
相手はというとノワールを見て舌舐めずりすると、いやらしい笑みを浮かべていた。
「この「混血」さえ始末すればあの魔神を我がものに出来るとは…」
魔族の言葉にシアが反応した。
「混血じゃと?お前は相変わらず我等をそう罵るか!」
その言葉に男は苛立ちながら言った。
「貴様ら混血が我に視線を向けるだけでも虫酸が走る!その臭い口を閉じよ!混血め!」
その言葉を聞いたシアは……笑っていた。
「最後に聞くのじゃ……お前はあたしを覚えとるか?」
シアが怒りに震えながら聞くと、魔族の男はめんどくさそうに答えた。
「知るか!我には貴様等「混血」の見分けなどつかぬ。」
その言葉を聞いた瞬間シアの怒りが爆発し、会場に激しい振動が起こると仕切り役に叫んだ。
「早く鐘を鳴らすのじゃ!」
その剣幕に気圧された仕切り役はすぐに鐘を鳴らすと、鐘の音を確認したシアは男に突進すると激しく蹴りつけた。
防御する間も無く蹴りつけられた男は壁に激突するとその場に崩れ落ちた。
シアはゆっくりと近付くと倒れる男の右膝を力任せに踏みつけた。
するとシアは悲鳴をあげて苦しむ男を見て笑うと、次は左膝を狙って踏みつけた。
両膝から下を無くした男は顔を涙と鼻水で汚しながら残された両腕を使って必死に逃げ出した。
けど、シアはそんな男の右肘を狙って三度踏みつけた。
激しい痛みに苦悶の表情を浮かべる男を冷酷な目で見下すと、残る左腕を踏みつけて言った。
「あたしは街で煉瓦を並べ続ける毎日で良かったのじゃ。そこにお姉ちゃんがいて……共に暮らす仲間達が居てくれれば……それだけで良かったのじゃ」
「でも、お前達はそんなあたしの日常を奪った。混血相手だから何をしても良いのか?混血だから何もかも奪われる事を我慢しないといけないのか?」
「あたしはあの時……お前達の街を吹き飛ばした時……我を忘れて仲間達も吹き飛ばしてしまったのじゃ。それはあたしの罪じゃ。あたしは消し飛ばした罪無き仲間達の命を背負って眷族を守り続けると誓ったのじゃ」
「じゃがな……今だけは私怨の為にあたしの全力を使うのじゃ。ただ1人……お前を出来る限り苦しめて殺す為に……」
その言葉を聞く余裕もない程の激痛に襲われている男の首を掴むと、シアはゆっくりと締め始めた。
シアは苦しむ男の表情を冷たい瞳で見ながら少しずつ力を掛けていった。
長い時間を掛けて、ゆっくりと締め上げるシアの姿に会場が静まり返る中……
魔族の男は苦悶の表情を浮かべると……絶命した。
仕切り役は相手の死を確認すると終了の鐘を鳴らした。
その鐘の音を聞いた俺達は勝利が確定したので皆で喜んでいると、シアの怒鳴り声が響いた。
「まだじゃ!あたしはまだ許さぬのじゃ!」
そう叫ぶシアは正気を失っていた。
俺はシアを止めようと動き出そうとしたら、ジークが俺の腕を掴むと言った。
「俺に行かせてくれ!あいつを止めるのは……俺だけだと今度こそ自分に認めさせたいんだ!」
そう言って戦いで傷ついた体を起こすと、ジークはシアの元へとゆっくり進んでいった。
俺達はその様子を見守っていると、シアの元にたどり着いたジークは語りかけた。
「どうしたシア?機嫌が悪そうだな?」
シアはジークの声に気がつくと言った。
「ジーク……我等の敵はどこじゃ?」
その言葉に優しい表情を浮かべたジークは言った。
「シア……お前を苦しめる敵はもう居ない」
そう言ってジークはシアの前に立つが、シアの怒りは治らなかった。
「ジーク!そんな訳ないじゃろ?あいつは言った!混血は汚らわしいと!あたし達を汚いと蔑み、隷属した奴等は何千年と経った今でも……未だあたし達を汚いと侮辱したのじゃ!!」
「許さない……あたしは許してなどやるものか!」
シアは限界を超えた力を身に纏うと叫んだ。
そんなシアにジークは話を始める。
「俺を忘れたのか?シンシア姉ちゃん?」
その言葉にシアは尋ねた。
「シンシア姉ちゃんじゃと?ジーク……何を言っとるのじゃ?」
その問いかけにジークは髪をかきあげ額を見せると、そこには大きな傷があった。
それを見てシアは目を見開くとジークに問いかけた。
「ジーク……ジークハルト……?」
そう呟いてシアはジークに驚嘆の視線を向けると、ジークはかきあげた髪から手を離すと話を続けた。
「やっと思い出してくれたか?メイは一目見て直ぐに俺をジークハルトだと気付いたぞ?」
そう言って笑うジークにシアは動揺しながら聞いた。
「じゃがジークよ……なんでお前も……メイもあたしに教えてくれなかったのじゃ!あたしがどんな思いで今まで生きてきたと思ってるのじゃ?」
そう言ってシアは身に纏う力を霧散させると涙を流し始めた。するとメイはシアに寄り添うと静かに話しを始めた。
「私はノワール様に魔王として任命された時、約束を結んだの。あなたが破壊した場所を修復できるまでシアに正体を明かしてはならないってね……」
「例え何百年でも……何千年かかってもいつかシアと2人であの頃を思い出して笑い会える日々を夢見て頑張ってたら……トーヤが一瞬で修復してくれたの」
メイはそう言って俺に笑顔を向けると、ジークがシアに話を始めた。
「俺も同じだ。だからメイと2人で力を溜めてあの場所を少しずつ修復していった。だからメイから話を聞いた時は心底驚いた……あと数千年はかかると思っていたからな」
ジークはそう言ってシアの前に片膝をつくと……血に濡れた小さな拳を優しく握った。
「シア……こんな小さな拳で獣人差別の世界を壊してくれた。だがこれからは幸せを掴むためだけの手であって欲しい。シアを傷付ける全ての存在から今度こそ俺が守ってやる!だから……」
シアは言葉が詰まったジークに涙で潤んだ瞳を向ける。
ジークはその瞳をしっかりと見て言った。
「俺と結婚してくれ!」
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