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シア 世界を壊す小さな拳 後編

お姉ちゃんとバイバイしてからしばらく経った。


あたしは相変わらずに煉瓦を並べては固める仕事をして生活していた。


頑張って働いて……いつかお姉ちゃんが会いに来てくれた時に胸を張って会うために頑張っていた。


そんな日々を過ごしていると路地裏仲間があたしに駆け寄って来た。

そして仲間はあたしに話すと……血の気が引いた。



そして気がつくとあたしは走っていた。


息を切らしながら向かったその場所には仲間から聞いた話の通り「お姉ちゃんだったもの」が捨てられていた。


あたしは近付くと、お姉ちゃんをゆすって起こそうとした。でも、冷たくて固い「それ」は嫌な匂いがするだけでピクリともしなかった。


「なんで!?なんでじゃ!?お姉ちゃんは遠くの街に引っ越すんじゃなかったのか?」

あたしの中には激しい怒りと深い悲しみが入り乱れていた。


するとその時……聞き覚えのない声が頭に直接響いた。


€$甘美な絶望に希望を与えよう$€


すると突然体内に強烈な力が溢れ出し、訳が分からず動揺するあたしに声が語りかけた。


€$理不尽な世界に抗う力を授ける$€


するとあたしの頭の中に映像が流れ始めた。



……


そこには見たことがある魔族の男がいて、その男は何か言うとお姉ちゃんに何かを飲ませた。

お姉ちゃんはすぐにその場に倒れると、周りにいた人達に連れていかれた。


そして映像が切り替わると……胸に穴が空いて目をくり抜かれたお姉ちゃんが映し出された。


「……なんじゃこれは?お姉ちゃんに何をしたのじゃ?」


あたしの混乱をよそにその映像は続いた。


「目はお前の息子に、心臓は私の娘に使うとして……他は要らないかな?」

魔族の男は言った。


「あぁ。残りはいつものように捨てれば良いだろう。処理は私の方でやっておこう」

横たわるお姉ちゃんの捨て方について、そいつらは淡々と話していた。


少し経ってあたしは理解した。

こいつらがお姉ちゃんを切り刻んであんな姿に変えたのじゃと……。


流れ続けていた映像が終わると、あたしは涙を流していた。


するとまたあの声が聞こえた。


€$汝は既に力を得ている……理不尽な世界を破壊せよ$€


涙が止まるとあたしは叫んだ。


「壊す?そうじゃ……こんな世界はあたしが壊すのじゃ!」

あたしはお姉ちゃんを抱きかかえると、ゆっくりと街を歩き始めた。


そんなあたしに冷たい視線とヤジが飛び交った。


「まぁ汚らしい!」


「クセェな!早く立ち去れ!」


ヤジを聴きながら歩くとあの魔族の声が聞こえた。


「何だ?あれは確かに捨てたはずだが?」

その声に振り向くと……そいつは汚物を見る目をあたし達に向けていた。


「……見つけたのじゃ。お前がお姉ちゃんをこんな目に合わせたのじゃな?」

あたしは近付くとその魔族は言った。


「近寄るな!汚らわしい混血の分際で!」

……あたし達が混血だからこんな目にあうのか?


……あたし達がお前達に何かしたのか?


あたしの中に激しい「ぐるぐるー」が巻き起こると周囲に激しい風が吹き荒び、異変に気付いた魔族達は騒ぎ始めた。


「何が起こっているのだ!?」

そう言って慌てる男に近付くとあたしは力任せに蹴りつけた。


すると男の足は膝から下がなくなり、その場に血を吹き出しながら崩れ落ちた。

あたしは近付いて男の顔に拳を叩きつけると聞いた。


「お前の家はどこじゃ?」

男は息も絶え絶えに指を差すとあたしに命乞いを始めた。


「頼む……もうやめてくれ!金ならある……だから……」

金?そんなものいらない。

お姉ちゃんは金があれば帰ってくるのか?


……違うじゃろ?


あたしは渾身の力を込めた一撃を頭に叩き込むと、その男は静かになった。


あたしはそれを確認すると、そいつが指を差した家に向かった。


そして窓を覗きこむと、そこにはベッドに横になりながら楽しそうに話す娘と家族の姿が見えた。


お姉ちゃんの命を奪って……それでお前達は幸せに過ごすじゃと!?



……こんな理不尽を許せるものか!!


あたしはお姉ちゃんの亡骸に目を向けると……自身の怒りに身を委ねた。


「貴様等に我が怒りの一撃を贈るのじゃ!!」

あたしは力を込めた。

まだ足りない……もっとじゃ……まだまだ足りない!もっともっとじゃ!!


力を込めた右腕が耐えきれなくなると、血管が破裂し血で真っ赤に染まった。

そしてあたしはそれを地面に叩きこんだ。


「こんな世界ならあたしが壊してやるのじゃ!!」


その一撃は魔界に大地震を起こした。


震源地となったその場所には底が見えない穴が空き、周囲は何もない荒野と化した。


あたしはそれを確認すると、無くなった右手の代わりに左手を空に手をかざして言った。


「星よ。我が敵を討ち滅ぼす流星となりて大地に降り注ぎ給え……」

すると無数の隕石が世界に降り注ぎ地表の各地で爆発した。そしてあたしはまた左手を上げ詠唱を始めた時……


空から黒い羽がひらひらと舞い落ちてきた。


見上げると黒翼を生やした女と……もう1人の女があたしの前に降りてきた。

そして地に足をつけると黒翼の女があたしに話しかけてきた。


「初めまして……私はノワール。私達はあなたに謝罪に来たの。少しで構わないから話を聞いてくれる?」

そう言ってあたしに頭を下げたけど、激しい怒りに飲み込まれていたあたしは2人に叫んだ。


「謝罪じゃと?そんなものは要らぬ!謝るくらいならお姉ちゃんを返せ!」

あたしはそう言って黒翼を殴りつけた。

黒翼は頬を赤く腫らして、口から血を流しながら近付くとあたしを抱きしめて言った。


「私が至らないばかりに、あなた達には辛い思いをさせたわ。本当にごめんなさい」

その温もりに……あたしはお姉ちゃんを思い出して泣いた。


黒翼……ノワール姉様はあたしが泣き止むまで抱きしめ続けると、泣き止んだあたしに言った。


「あなたはこれから私達と一緒に魔界を変える手伝いをして貰いたいの……彼女はメイ。あなたの……先輩よ」

するとメイはあたしを抱きしめると言った。


「シンシア。あなたは今から私達の姉妹になるのよ!そして私達でこの世界を変えるの!」

あたしを抱きしめるメイの胸からお姉ちゃんの匂いがした。あたしはその匂いに……優しい温もりに安心すると言った。


「……分かったのじゃ。あたしはお前達についていくのじゃ」

そしてあたしの腕をノワール姉様が治すと、あたし達は魔界を変えるための行動を始めた。


いつかまたお姉ちゃんに胸を張って会うその日を夢見て。



……


「と言いう訳で、シアは奴隷とか獣人差別に感情を暴走させちゃったの……」

俺はメイの話に驚いたし……シアの過去を知って胸を痛めた。


まさかあのシアがこんなに辛い目にあっていたなんて……。


未だに大地に残るシアの怒りの痕跡に、俺は何か出来ることはないか考えた。すると一つの可能性に気が付いた俺は大地に手をつくと「反転」を発動した。


その場所には瞬く間に俺のイメージ通りの草木が生い茂る大地に変わっていった。


その様子を見て驚いたメイが俺に聞いてきた。


「トーヤ!?何をしたの?」

俺がメイにざっくり説明すると、納得してくれた彼女は笑顔を見せるが……俺はメイに尋ねた。


「なぁ。メイは……経緯は分からないけど「お姉ちゃん」なんだよな?」

俺の問いかけに、メイは少し考えると話してくれた。


「……信じられない話だけど私は死んですぐノワール様に拾われたの。詳しい経緯は分からないけど、私は目を覚ますと空中庭園にいて、ノワール様から力を与えられたのよ」


「そして少し経った頃、私の死をきっかけにシアが覚醒したわ。だから私がノワール様にお願いして、シアを止めたのだけど……」

話を止めるメイに俺は言った。


「メイ……話してくれてありがとう。話の続きは、いつかまた機会があったら聞かせてくれ」

俺の言葉にメイは頷くと、俺達は部屋に転移した。


するとセリナと遊びに来ていたシアが言った。


「やいヴァレンタイン!ノワール姉様の次はメイか?」

そんなアホな事を嬉しそうに言うシアの頭を撫でると、俺はメイを見て言った。


「シア?あまり「お姉ちゃん」に心配かけるなよ?」

その言葉に驚くシアは俺に言った。


「ヴァレンタイン!何故お姉ちゃんの事を知ってるのじゃ!?」

そう聞くシアの頭を撫でながら、俺はメイに視線を向けると言った。


「シア……鱗はもう無くなったのか?」

俺がそう聞くとシアは胸を張って言った。


「鱗は大人になったら自然と剥がれていったのじゃ!あたしはもういちに……ヴァレンタインよ……何故知っておる!?」

シアは驚きながら俺の視線の先に目を向けるとメイに聞いた。


「まさか……「お姉ちゃん」じゃったのか?」

シアの言葉に無言で涙を溜めるメイはゆっくりと頷いた。

それを見たシアはメイの胸に飛び込むと泣きながら言った。


「お姉ちゃん!あたし頑張ったのじゃ!」

そう言って泣きじゃくるシアの頭を撫でながらメイは言った。




「知ってるわ……ずっと傍で見てたんだから」


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