表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/115

シア 世界を壊す小さな拳 前編

・立ち入り禁止


朽ち果てた看板には確かにそう書いていたが、看板を無視した俺は深い森をメイの先導で歩いていた。


いったい何故俺はメイと森を進んでいるのか?話は少し前に遡る。




いつものように目を覚ますと突然頭にメイの声が聞こえてきた。


「トーヤ?メイだけど……もう起きてるかしら?」

突然の声にびっくりしたけど、ナビと話す要領でその問いかけに答えた。


「あぁ起きてるよ。どうかした?」

俺がそう聞くとメイは用件を話してくれた。


「トーヤに話したい事があるのよ。迎えに行くから準備を済ましたら連絡ちょうだい」

なんだろ?

俺は着替えを終えると準備ができた事を伝えた。

すると部屋にメイが転移してきた。


「朝早くに悪いわね?少し付き合ってちょうだい」

そう言って俺の肩を掴むとすぐに転移が始まり、気がついたら知らない森の前に来ていた。


「こっちよ」

そう言って歩き始めるメイの後ろを歩き、森を進んでいた俺は少しずつ違和感を感じ始めていた。


そう。

進んでいくにつれて木々が歪に変形していた。


なんだ……この森は?

あたりを確認しながら進んでいくと、唐突に視界が開けた。


「着いたわ」

そう言ってメイが足を止めたので、俺は森を抜けた先に目を向けると……見渡す限りの乾いた大地に、深い穴がポッカリと開いていた。



異常な光景に茫然と立ち竦む俺に、メイが話を始めた。


それは……ある少女の深い悲しみと怒りの物語だった。



……


かつて魔界では獣人が魔族に虐げられる時期があった。


獣人は「混血」と蔑まれ、仕事や生活にかなりの制限が設けられていた。しかしその事に不満の声をあげる獣人はいなかった。


殆どの獣人は、何百年も前から当然のようにそういう扱いを受けていた。

そしてこれからもそれが続いていくんだと、当たり前のように考えていたからだ。


そんな世界で日々懸命に生きる少女の姿があった。


少女はあたりを伺うとパンを手にとって走り出した。

気付いた店主が声を張り上げるが、少女は振り返る事なく路地裏へと姿を消した。



……


ここまで来れば大丈夫!

あたしは歩き始めると路地裏を進み続け、そして寝ぐらに着くと大きな声で呼びかけた。


「ご飯の時間じゃ!早いもん勝ちじゃからな!」

その声に4人の仲間たちが土管から姿を見せるとあたしに駆け寄ってきた。


奪ったパンを与えると、あたしは美味しそうに食べる仲間の様子を眺めていた。

するとお姉ちゃんが声を掛けてきた。


「シンシア!あなたまた街で盗んできたの?」

そう言ってあたしの額にデコピンをした。


「だって……あいつらがお腹すいたって言うから……」

あたしがそう言うとまたデコピンされた。


「シンシア!!あなたを心配してるのよ!盗みで捕まったら私達獣人は手首を切り落とされるのよ?」

お姉ちゃんはそう言ってあたしを叱った。


「お姉ちゃん…ごめんなさいなのじゃ」

お姉ちゃんは、そう謝ってしょんぼりするあたしの頭を優しく撫でると言った。


「シンシア。あなたの気持ちは分かるけどあまり無茶したら駄目よ?ご飯はまた私が持ってくるから!」

そう言って笑顔を見せるお姉ちゃんにあたしは言った。


「うん!ありがとなのじゃ!」

あたしはお礼を言うとお姉ちゃんは皆にバイバイして家に帰っていった。


3年くらい前、お姉ちゃんは捨てられたあたしをここに連れてくると、あたしのように食べものを街で盗んで皆に配ってくれた。


そんなお姉ちゃんは少し前に街で「いいひと」に拾われると寝ぐらから出て行った。


そんなお姉ちゃんの代わりにあたしが街で食べものを盗むようになって少し経つと、久しぶりにお姉ちゃんが食べものをいっぱい持って寝ぐらに来てくれた。


お姉ちゃんは家から持ってきたと言ってみんなに分けると、それからこまめにやって来ては食べものを置いて帰っていった。


そんな日々が10年続いた。


あたし達は大人になると街で働くようになった。

ひたすら煉瓦を並べて固める単純な仕事だったし、相変わらず道端で生活してたけどそれなりに幸せを感じていた。


そしてお姉ちゃんは食料の代わりにお金を置いていくようになった。


「シンシア。みんなでしっかり食べて頑張るのよ!」

そう言って笑顔を見せるお姉ちゃんにあたしは飛びつくと言った。


「分かったのじゃ!お姉ちゃん、いつもありがとなのじゃ!」

お礼を言うとお姉ちゃんは笑って帰っていった。あたしはそんなお姉ちゃんの笑顔が大好きだった。


あ!そういえば……

その笑顔にあたしは小さい頃の話を思い出した。



「シンシア!そんなに掻いちゃ駄目よ!」

お姉ちゃんは私を叱ったけど、あたしは体に張り付く鱗に爪を立てると毟り続けた。


「でも……あたしにこんなのがついてるから捨てられたんじゃ!」

そう言ってあたしは血が出ても鱗を掻きむしった。


捨てられた理由なんて心当たりがなかったあたしは、他の仲間にはない鱗のせいだと思い込んでいた。


……鱗が無くなれば迎えに来てくれるかもしれない。そう考えたあたしはひたすら掻き毟り続けた。


するとお姉ちゃんはそんなあたしの頬を叩くと泣きながら叱ってくれた。


「シンシア!よく聞きなさい!あなたが捨てられた理由は分からないけど……あなたが自分を傷付ける理由にはならないの!」


「それにシンシアの鱗……私は好きよ?陽の光に輝いて……綺麗な白銀じゃない?それを血で汚しちゃ駄目!」

そう言ってあたしを抱きしめてくれた。


それは温かくて……優しかった。


懐かしい思い出に浸りながらその日も煉瓦を並べていると、その話があたしの耳に入った。


「それで?いつ手術するんだ?」


「ようやく娘も耐えられる身体になったからな。一週間を予定してるよ…これでようやくあの獣人にも役に立って貰える日が来た」

その話に振り返ると、身なりのいい魔族の男達が笑いながら会話していた。

すると視線に気付いた魔族の男は目の色を変えるとあたしに言った。


「何を見ている!卑しい獣人は頭をカラにして手だけ動かせばいいんだ!」

そう怒鳴るとどこかに向かって歩き始めた。


そんな言葉は言われ慣れているあたしは気にせず仕事を続けると、わずかな給金を貰っていつもの路地裏に帰ってきた。


そこにはお姉ちゃんがいたのであたしは飛びついた。

お姉ちゃんはあたしを久しぶりに撫でると、懐かしむように路地裏を眺めていた。


「どうしたのじゃ?」

あたしが聞くとお姉ちゃんは静かに口を開いた。


「シンシア。私、家の都合で少しだけ遠い所に引っ越す事になったの。だからもうここには来られない」


「嫌じゃ!」

あたしはお姉ちゃんにそう叫んだけど、お姉ちゃんは優しく言った。


「シンシア?例え遠く離れたとしても私はあなた達の傍にいるわ!約束よ……」

そう言ってあたしの涙を拭ってくれた。


寂しかったけど仕方がない。

あたしはお姉ちゃんに「バイバイ」するとお姉ちゃんは路地裏を去って行った。



あたしは信じていた……またいつかきっと会えると。

……なのにこの世界はどこまでもあたしに冷たかった。


ここまで読んでくれた少数精鋭の読者様!

ありがとうございます!


今回はシアの話でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ