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セリナ それは莎漠に降る雪 前編

その場所はまさに死地だった。


初めて立つその場所には死臭が立ち込め……見渡すとそこらに所狭しと死体が散らかっていた。


その光景に私は故郷の村を思い出した。この目で見た村を焼き尽くす炎と悲鳴の記憶を……。


幼かった私には、何が起きたか理解出来なかったが今は違う。あいつらが私達に何をしたのかを……そしてこれから何をするのかを認識していた。


……許さない。


敵は私が全て討滅してやる。

そして私はこの国を守るんだ……父が私を守ってくれたように。


すると戦場に敵軍が姿を現すと、私達より遥かに多い敵兵を見た仲間達の多くが死を覚悟した。だけど私の心は踊っていた。


そして私にとって初めての戦い……いや殺し合いは敵軍の突撃を皮切りに始まった。

私も敵に突っ込むと敵兵の斬撃を躱し切りつけると、斬られた兵士はその場に崩れ落ち絶命した。


それが初めて人を殺す経験だったけど、私は止まらなかった。


向かいくる敵をその後も斬り屠り続けると、いつの間にか敵兵は全て死に絶えていた。

私達の初陣は圧倒的な勝ち戦で幕を閉じるが、村の仲間からは戦死者が2人出ていた。


それからも私達は指示された通りに戦場で剣を振り続けると、3年ほど経った頃……生き残った仲間は8人になっていた。

ある日、仲間の1人が私の元に駆けつけると言った。


「ネージュ!次の戦場はあの「死神」と共闘するらしいぞ!」

そう言って興奮気味に話す仲間に、私は聞き返した。


「死神って……あの死神?」

噂で聞いたことがあった。


死神は戦場において国に必勝をもたらすが、その戦場で生き残れる者は敵味方なくいない。

ただ1人生きて帰還する「死神」と呼ばれる男以外は……。


それ故に「死神」と呼ばれ畏れられていた。


だけど私には関係なかった。

何があっても私は生き残るという強い意志があったし、所詮は戦場の噂話だ。

気にする必要なんてない。


私は仲間の話を聞き流すと戦場に想いを馳せていた。



そんな私に待っていた戦場は……最悪だった。

単純に見積もっても3倍以上の兵力差があり、誰が見ても負け戦だった。


私達は覚悟した……この戦いが最期になると。

その場にいた私達に絶望感が漂う中で……その人は声高らかに言った。


「みんな聞いてくれ!国は俺たちに死ねって命令を下しやがった!」

その言葉は間違いなく真実で……私達は死を確信した。でも……例えここで命を落とす事になっても、私達が守る命が繋いでくれるなら後悔はない。

私がそう考えていると声が再び響いた。


「俺はお前達を見捨てたりしないし無駄に死なすつもりもない。だが……俺は最後の1人になっても戦い抜いて絶対に生き残ってやる!」

その言葉は何故か私の心に響いた。

どんな人が話してるんだろう?気になった私は顔を上げて声の主を見た。


すると私の目に飛び込んできたのは、これまで見たことのない綺麗な黒髪の男だった。

その姿に私が目を奪われていると、男はさらに話を続けた。


「だからやばくなったら逃げろ!俺が最後まで生き残ったら……逃げたやつも含めて戦死したって報告してやる。そしたら生き残った俺が手柄を独り占めだ!」

男の言葉に笑いが起きると、男も笑みを浮かべて話を続けた。


「だから逃げ出してでも生きる道を選んでくれ。俺なら1人でも大丈夫だから気にするな!何故なら俺は「死神」だからな!」

彼の言葉を聞いた私は驚いた。


噂に聞く死神とは違って、周りに気を遣うどころか戦場から逃げる事を自ら推奨していた。


彼は一体何を考えてるの?

私の疑問は翌日の戦場で……「死神」の戦いを見て解消した。


明け方から始まった戦いは余りの兵力差に押されていき、状況は明らかに敗戦へと傾いていた。


そんな戦いの最中……彼は味方に叫んだ。


「全員逃げろ!もう充分だ!あとは俺に任せて後退しろ!」

その言葉に味方は一様に敗走するが、私はその場に残ると彼に言った。


「隊長殿……共にヴァルハラに行こう!」

私は気付いていた……彼は死神などではないと。

生き残る者がいないのではない。彼の言葉に甘えて逃げる味方が多すぎるだけだ。


すると彼は私に笑顔を向けると言った。


「お前いい女だな! 生き残ったら酒を酌み交わそう!」

そう言って笑みを向ける彼に、私は苛立ちながら言った。


「何を呑気に言ってるの?この戦いで私達は……」

すると彼は私の言葉を遮るように言った。


「俺達はこんなとこじゃ死なない……」

そう言って周囲の敵を一掃した彼は、動きを止めると意識を集中させた。


私は迫りくる多くの敵兵に冷や汗を流していると、場に残る数少ない味方の1人が声を掛けてきた。


「おい、あんたも死にたくないならティオの前には決して立つな!」

そう言って生き残った味方を集めると、残った仲間達で防衛戦を展開した。

するとその様子に気付いた敵兵の1人が叫んだ。


「あの黒髪の男……「莎漠」のティオ・レイルに間違いないぞ!」

その言葉を聞いた敵兵はより一層士気を高めた。


それでも彼……ティオは未だ動かず構えていた。


いったい何をする気なの?

私は疑問を抱きながらも周囲に言われるがまま防衛線を下げていく。

するとティオは一度こちらを振り向くと、私達との距離を確認した。

そして一瞬だったけど、振り返った彼は寂しそうな笑みを浮かべた。


「いったい何が始まるの?」

私はティオに困惑混じりの視線を向けていると、彼は敵兵に突っ込んでいった。


私はその様子を見た自身の目を疑った……。

迫り来る敵との距離を一瞬で詰めたティオは、剣を無造作に振り下ろすと多くの敵兵が吹き飛ばされた。

そして間髪入れずに別の敵兵に向けて突撃していった。


その様子を私はただ眺めていた。

うっすらと「虹色の光」を身に纏い、瞬く間に敵を討滅していく彼の動き……剣技に見惚れていると間も無く敵兵は敗走を開始した。


私達は戦場に残る数少ない敵兵を倒し終えると、私は彼に駆け寄ろうとした。

すると生き残った仲間の1人に制止されたので「何故だ!」言ってと詰め寄ると、仲間はティオを指差した。


私はティオを見ると……様子がおかしいことに気付いた。


ティオは敵兵が撤退してしばらく経つというのに、未だ戦闘態勢を取っていた。

すると仲間がティオに近付けない理由を話してくれた。


「ティオはな……一度あの状態に入ると近付いてくる者は敵味方関係なく攻撃してしまうんだ。だから今は待て。そのうち倒れるから近付くならその後だ」

仲間の言葉は本当だった。


待っていると身に纏っていた虹色の光は消え、彼はその場に崩れ落ちた。

それを確認した仲間達は彼に駆け寄ると、ティオは意識が朦朧とする中で聞いた。


「みんな生きてるか?」

仲間達は口々にティオに声を掛けると、安心した彼は笑いながら意識を手放した。


翌日

点呼で村の仲間が全滅した事を知った私は、おじさんの話を思い出していた。


そう……死ぬ事は恥ではない。

国の為に命を捧げた彼等はきっとヴァルハラに辿り着いたんだ。

そんな事を考えていると仲間の一人が私に声を掛けた。


「おいあんた!ティオが呼んでるよ」

彼が私を?

私はティオがいる場所を聞くとすぐに向かった。


彼がいると教えてもらったその場所は、戦場を見渡せる小高い丘だった。

私は彼に近付くと、気付いたティオが手招きしたので隣に座った。

すると彼が私に話を始めた。


「生き残れて良かったな!」

そう言って笑うティオに私は複雑な胸の内を吐露した。


「そうね。でも、村の仲間はみんな死んだわ……」

私の言葉を聞いた彼は、持っていた瓶を差し出して言った。


「まぁ飲め!あ……そういえば君の名前は?」

私は瓶を受け取ると「ネージュよ」と名乗って一口飲んだ。


「あ……美味しい」

思わず口に出た私の言葉にティオが言った。


「美味いか?なら良かった」

そう言って笑うと話を続けた。


「ネージュ……生き残るって重たいよな?俺達は死んでいった仲間の命も、手にかけた敵兵の血も背負わなきゃいけない」


「でも……それでも俺は生きたい。死にたくないんじゃない……生きていたいんだ」

その言葉に私は頷くと彼は言った。


「ネージュ……君の剣は美しい。でもそれだけだ。戦場で生き残る為には「強い剣」が必要だ……だから君が望むなら俺が強い剣を教えてあげるよ」

私はあの日と同じく「お願いします」と答えると彼は笑顔で頷いた。


その日から私と彼の訓練が始まった。


幸い敵が攻めてくる様子はなかったし、国からの出征命令も無かった私は彼と連日剣を交えた。


当初は手も足もでなかったけど、ティオのアドバイスを聞きながら訓練を続けた私は互角に渡り合えるまで腕を上げた。

そんな私にティオは息を切らしながら言った。


「まじか〜!ネージュには才能があると思ってだけどまさかここまで強くなるなんて……」

そう言って地面に模擬剣を放り投げたティオはその場で胡座をかいたので、私も横に座ると言った。


「ティオのお陰よ。教え方が分かりやすいから!」

私がそう言うとティオは頭を掻きながら言った。


「ま、そういう事にしときますかね?」

私はそう言ってヘソを曲げるティオの様子が可愛くて笑ってしまった。



そんな日々の中でその報せが届いた。


長くなったので分割します!


ここまで読んでくれた皆様に感謝を!

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