セリナ 生きる為に。
…あぁ……喉が渇いた…………
胸に突き刺された剣は、私の脈に合わせて血飛沫をあげていた。
もう十分頑張ったから……迎えに来てくれない?
……無理か。
ずっとこの手を血に染め続けた私は、きっと貴方のいる場所には行けない。
ならせめて……私の想いだけでも
最期まで言えなかった……たった一言で済む返事を
……私の生前の記憶はここで途切れた。
… …
燃え上がる家と村のあちこちで上がる悲鳴。
そんな中で、私はお父さんに手を引かれながら村を離れると茂みの中で一晩息を殺して過ごした。
気がつくと眠りについていた私は、木々の隙間からの日差しに目を覚ました。
私は未だに眠るお父さんをさすって起こそうとしたけど……いつまで経っても目を覚まさない。
よく見ると……お父さんの服には血がべったりと付いていて、体から流れた血は地面や生えた草にも広がっていた。
私はどんなにさすっても動かないお父さんの傍で泣いていると、そこに兵隊さんがやってきた。
兵隊さんはお父さんを見て言った。
「立派なお父さんだ。君を命がけで守ってくれたんだね」
そう言って泣いてる私の頭を撫でると「お父さんを眠らせてあげよう」と声をかけてくれた。
兵隊さんは穴を掘るとそこにお父さんを埋めた。
そして埋めた場所に手を合わせていたので、私も真似して手を合わせると……私を見た兵隊さんは涙を流した。
しばらくすると兵隊さんは私に聞いてきた。
「君には道が2つある。1つは俺と一緒に来る道。2つ目はここに残る道。どうしたい?」
どうすればいいのか分からず悩む私に、兵隊さんは手を差し出すと言った。
「迷うならとりあえず一緒に来ないか?嫌になったらここに帰ってくるといいんだ!」
そう言って笑う兵隊さんが一瞬だけどお父さんに見えた私は、兵隊さんの手を掴むと嬉しそうに聞いてきた。
「俺の名前は……いや、おじさんでいい。君は?」
名前を聞くおじさんに私は答えた。
「私はネージュ。ゾラン村のネージュだよ!」
名前を聞いたおじさんはまた私の頭を撫でると言った。
「ネージュか……いい名前だ。さぁ行こうか!」
私はお父さんが埋まっている場所にもう一回手を合わせると、おじさんと手を繋いで歩いた。
しばらく歩いた私とおじさんは村に着くと、あちこちで剣を持った子ども達が大人を相手にして戦っていた。
その光景を見た私が怯えていると、その様子に気付いたおじさんは言った。
「ネージュ。ここで君は戦い方を覚えるんだ」
戦い方?
不思議そうに聞き返す私におじさんは笑顔を見せると言った。
「ネージュ。君はお父さんから命を守ってもらった。だから君は眠ってるお父さんの分まで一生懸命に生きなければいけないんだ……」
「俺はこんな生き方しかネージュに……ここにいる子どもたちに教えてやる事は出来ない。だからネージュが自分で生き方を選べるまで、俺が教えられる唯一の事……戦い方を教える」
難しい話はよく分からないけど、おじさんは私に大切な事を教えてくれるって事は分かった。
私は「おねがいします」と言うと次の日から戦い方の勉強が始まった。
最初の日……私は木の剣を、手が上がらなくなるまで振り続けるように言われた。言われた通り振り続けたけど、手の皮が剥けて痛かった。
次の日も、その次の日もおじさんに言われた通り剣を振り続けた。
すごく大変だったけど、おじさんが褒めてくれるのが嬉しくて毎日頑張った。
ある日、おじさんが私の手を見ると言った。
「よし!頑張ったな!明日からはみんなに混じって実践練習だ!」
おじさんに褒められた私は舞い上がった。明日が楽しみだ!
次の日からは地獄だった。
同じくらいの年の男の子と木の剣で叩き合った。
……毎日毎日叩かれる事が痛くて……怖くて仕方なかった私が泣いていると、おじさんが言った。
「ネージュ……ここが分かれ道だ。耐えられないならここを出て村に帰ればいい。だがネージュ……君は叩かれて嫌な気持ちになっただろう?あれを君のお父さんは耐えた。もっと痛かっただろうし、今のネージュ以上に苦しかっただろう……なのに耐えた。なぜか分かるか?」
私は首を横に振るとおじさんは優しく教えてくれた。
「ネージュを守るためだ。お父さんはネージュの為ならどんな痛みにも、苦しみにも耐えられたんだ。だから君は生きている」
私はおじさんの話を聞いて涙を流した。
そうだ……お父さんは私の命を今に繋いでくれた。なら私はおじさんの言うように生きなきゃいけない。
生きて命を繋げる為に。
生きて命を守れるように。
その日から私はひたすら実践練習に励んだ。
それまでコテンパンに叩かれていた私は、1ヶ月後には何があっても負けないようになった。
そんな私の成長をおじさんは凄く喜んでくれたけど……今の私はおじさんに喜んでもらう為ではなく、私を守ってくれたお父さん……何より私自身の為に努力していた。
次の日から私は大人を相手に実践練習を始めた。
最初は手も足も出なかったけど、頑張って練習を続けたら半年後には勝てるようになった。
おじさんは私を抱っこすると「ネージュ、お前は天才だ!」と言って喜んでくれた。
……
それから5年の月日が流れた。
私は村で1番強くなっていた。それこそおじさん……ダリムさんを相手にしても圧倒出来る位に。
毎日挑んでくる村の仲間を傷付けない程度に稽古をつける日々が私の今の日常になっていた。
そんな日々の中で「その日」は突然訪れた。
……この村にも遂に徴兵が掛かり、私を含む20名が兵役につく事になった。
村との別れに際しておじさんは私達に言った。
「お前達はこれから戦いに出向く。多くの者は戦場でその命を散らす事になるだろう。だがそれは恥ではない。最期の一瞬まで守るべき者の為に命を燃やせ!」
その言葉にに歓声が上がるが、ダリムさんの話はまだ続きがあった。
「だかな……俺はお前達の父代わりとして最期にこの言葉を贈る。「泥を啜ってでも生きろ!お前達が「真に守るべき者」を見つけるまで……戦う意味を見つけるまでは、何があっても生き抜く事を誓え!」
ダリムさんはそう言って剣を抜くと、私達も剣を抜いてダリムさんと同じように目を閉じた。
そうして第2の故郷に別れを告げた私達は一路、戦地へと向かい歩みを進めた。
お読みいただきありがとうございます!
セリナ編、スタートです(^^)
この話、多分長くなります。
最後までお付き合い頂けると嬉しいです!




