NEET 大虐殺の夜
奴隷市が行われていた広場。
そこには多くの獣人が手枷を引かれ移動させられていて、その様子を兵士たちが監視していた。
俺は静かに立ち入ると場にいる全て兵士を指定して魔威を発動した。その場には奴隷だけが残されたので、俺は一人一人拘束を解いていった。
全員を解放し終えると歓喜する獣人達に聞いた。
「みんなに聞きたいことがあるんだ。この街には他に奴隷はいるのかな?」
その言葉にみんなが一様に顔を見合わせた。もしかして知らないのかな?
そう思っていると獣人の1人が声をあげた。
「あの……多分街中にいます。」
そうなのか……なら街ごとやるしかないな。
俺は獣人達に1つお願いをした。
「この街にいる獣人を助けたいんだ。そこでみんなにお願いがある。俺が街で暴れるからその隙に他の獣人達を助けてほしいんだ!」
俺の話を聞いた獣人達は歓声を上げた。どうやら受け入れてもらえたかな?
俺はさっそく彼等に段取りを説明した。
まずは俺が街で兵士を一掃するから、獣人達は少し待ってから街で仲間を探して救出する。それが終わったらここに集合!
というシンプルな作戦だったので、説明を終えた俺は早速街へと向かった。
見かけた兵士は善良な人かもしれないし悪い人かもしれない。
だがそんなことは俺に関係なかった。
エルダを傷付け、獣人を奴隷にする街なんて滅んでしまえばいい。
俺は意識を集中させると兵士を対象に魔威を常時発動させた。すると魔威の効果範囲にいた兵士は、苦しむ間も無く絶命していった。
そして俺は周囲を確認しながら歩くと、次第にあちこちで悲鳴が上がり始めた。
「あなた?あなたどうしたの!?」
「お父さん!?嫌ぁぁぁ!目を開けてよ!」
家で休んでいる兵士も多くいるのだろう……俺は湧き上がる悲鳴を聞きながら歩き続けた。
その後……明け方までこの広い街を何時間もかけて歩いた俺は広場に戻ると歓声に包まれた。
そんな中で俺はみんなに聞いた。
「獣人はこれで全員集まったかな?」
俺の問いかけに獣人達は歓声で答えてくれたので今後の話をした。
「これからみんなで俺の住む街に転移するんだけど、そこでは特に強制はないから安心して下さい。出て行きたい人や行きたい場所がある人は、そうして貰って構いません。」
その言葉を聞いた獣人達は再び歓声を上げた。
とりあえず転移を済ませるか……俺は転移を始めるとその場が激しく発光……次に目を開けると無事に転移が完了していた。
そこは領主の屋敷前で、獣人達は互いの無事を喜び合っている。
すると声に気付いた領主が屋敷から飛び出して来たので、捕まえてざっくり事情を説明した。
すると「よく分からぬが我に任せろ!」と無駄に頼もしい領主に丸投げした俺は、さっそく目からウロコ亭へと向かった。
店に入るとセリナとエルダが朝食の準備を進めていて、俺に気付いたセリナは「お帰りなさい」と駆け寄ってきた。
「ただいま」と答える俺にセリナは満足そうに頷くとカウンターへと戻っていった。
俺は席に座って少し待つとセリナとエルダが料理を持ってきたので、3人で会話しながら食事を進めているとノワールが転移してきた。
そして無言で俺たちに近付くと、テーブルに置かれていたサンドイッチをパクリと食べて一言。
「美味しい」
その言葉にエルダが「まだまだあるから!」と椅子を勧めたけどノワールは首を横に振り言った。
「ごめん……今は時間がないの。トーヤ、一緒に来て」
真剣な顔のノワールに手を引かれ立ち上がると転移が始まった。
転移先は空中庭園だった。
すると、そこには真剣な顔で椅子に座るシア・ベル・メイ・ゼルの姿があった。
近付くと俺に気付いたシアが立ち上がって言った。
「ヴァレンタイン!派手にやらかしたのぉ!びっくりじゃ!」
やらかす?
俺が?
混乱する俺にベルが座るよう促した。
すると、いつのまにか着席していたノワールが紅茶を入れてくれたので、俺は受け取って座るとゼルが口を開いた。
「トーヤ。お前が暴れた国……死者が10万人を超えてる。流石に理由を聞きたい」
若干怒りの表情を浮かべるゼルに俺は一から事情を説明した。
嫁の義母の墓参りに行った事。
そこで嫁が奴隷として競りにかけられた事。
獣人が奴隷として扱われていた事。
その報復として兵士と奴隷商を殺した事。
一通りの説明を終えるとゼルが俺に謝罪してきた。
「すまない。考えなしに殺して回ったとは思ってなかったが……まさかそんな話だとは考えもしなかった」
俺はゼルに「気にしてないよ」と声を掛けるとメイが言った。
「確かにトーヤの話が事実ならむしろ大義名分は我等にあるわよね?私は賛成よ!」
賛成?
なんの話?
俺が考えてるとベルが口を開いた。
「確かに。今の話…到底許せない。獣人を虐げただけでなくトーヤの身内に手を出すなんて……もちろん僕も賛成するよ!」
「俺も賛成だ。トーヤの身内に手を出した……これは俺達に手を出した事と同義だ!」
ゼルも賛成らしい。
ねぇ、そろそろ誰か教えてくれない?
なんの話?
仲間に入れて欲しいんだけど?
話についていけない俺が悩んでいると、普段はうるさいシアが静かに言った。
「ヴァレンタイン……今の話は真実か?」
俺は驚愕した……シアがまともに喋ってたからだ。
しかもいつもの雰囲気じゃない……間違いなく魔王の雰囲気だ。
俺は頷くとシアが話を続けた。
「あたしは奴隷が嫌いな事は皆も知っておるな。我が眷属たる獣人を奴隷としただけでも死に値するが……」
途中で話を止めるシアに目をやると……小さな拳を握り締めた結果、自身の爪が刺さり血を流していた。
俺は心配になって声をかけようとした瞬間……シアの怒りが爆発した。
「我が同胞ヴァレンタインの身内を奴隷として売り払おうとしただと!?そんな話が許せるか!」
するとシアは立ち上がると空に手をかざした。
何かする気だ!
それを止めようとメイとゼルが動くが、凄まじい力を込めるシアに近付けなかった。
やがて力が極限に溜まるとシアが声高らかに宣言した。
「愚か者に我が一撃で開戦の狼煙を上げてくれるのじゃ!」
シアはそう言って空に向かい力を放った。
すると無数の流星が地上へと降り注ぎ、地表に衝突すると各地で激しい爆発を起こした。
シアは振り返り俺達全員に向かって冷笑すると言った。
「皆殺しじゃ!」




