NEET 墓参りを計画する
部屋に戻った俺は椅子に座ると、読みかけの小説を手に取った。
そして続きまでパラパラめくってお目当てのページを開いた時、部屋に転移の光が煌めいた。
そこにセリナとエルダの姿が現れたので「おかえり。あれ?ノワールは?」と声を掛けるとセリナが寂しそうに答えた。
「ノワールさんは仕事が山積みになってるので暫く帰れないそうです……」
寂しそうにするセリナとは逆にエルダはとても興奮した様子で俺に言った。
「空中庭園凄かったよ!何なのあそこ?雲の上に浮かんでた!また行きたいなぁ。」
そう言ってうっとりするエルダ……やっぱ可愛いな。
「とにかくおかえり!2人ともお腹すいてない?」
俺がそう聞くとエルダが「何か作るよ!」と言ってくれたけど部屋にキッチンはない。
俺達はキッチンも食材もある目からウロコ亭に向かった。
店に着くとセリナはエルダと素早く食材を確認して料理を作り始めた。
俺はそんな2人の様子を眺めているとエルダが「なに見てるのさっ!?」と照れながら言ってきた。
「自慢の奥さん達が料理してる姿だよ」と答えると2人とも顔を赤くした。
少し待つと料理が完成したので、俺達は雑談しながら食事を進めているとそこにお義父さんがやってきた。
お義父さんは俺達に気付くと席へと近付き、 椅子に座ると口を開いた。
「トーヤ……ちょっと相談があるんだ」
普段と違って真面目な雰囲気のお義父さん……なんだろう?悩みでもあるのかな?
「はい。俺でよければ聞きますよ」
そう答えるとお義父さんは相談を始めた。
「亡くなった妻の話なんだけど……みんなで墓参りに行ってくれないか?」
悩むまでもない……俺は即答した。
「勿論ですよ。すぐにでも向かいます!」
俺の話にセリナも頷くが、エルダは……暗い顔で俯いていた。
……母親の墓参りが嫌なのか?
そんな事を考えているとお義父さんが話を続けた。
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ!でもいくつか問題があってね。まず場所がかなり遠いんだ」
「それに……獣人には根強い差別が残ってる場所でね。私と妻の故郷でもあるんだけど獣人の妻をあんな環境に置いておきたくなかった。だから僕と妻は国を出てこの町に来たんだ」
俺は黙って話を聞いていると、気落ちしているエルダの手をセリナが優しく握っていた。
その様子に安心しているとお義父さんは話を続けた。
「でも妻は故郷で眠ることを望んでいたから……僕はエルダを連れて故郷に戻るとそこに墓を建てたんだ」
話を聞き終えた俺はエルダの意志を確認した。
「話は分かりました。それで……エルダはどうしたい?」
そう問いかけるとエルダは思いを口にした。
「行きたい……けど怖い。昔、お義父さんと行ったとき石を投げつけられたの。「獣人はあっち行け」って言いながら。でもお母さんに結婚したよって伝えたい気持ちもあるし……」
そう言って悩むエルダに笑顔を見せると言った。
「分かった。じゃあ行こうか!今度は俺達3人で!」
そう言うとエルダは嬉しそうに何度も頷いた。
お義父さんは俺達に礼を言うと、地図を開いて場所の説明をしてくれた。
その場所は本当に遠かった。徒歩で行くと軽く1ヶ月は掛かるだろう。
何か移動手段はないか?
そう考えていたらナビがナイスな助言をしてくれた。
「マスター。城で奪った転移水晶の使用を推奨します。すいしょうだけに……」
ナビ……お前どうした?
そんなギャグを言うキャラじゃなかったよな?……でも助かった!
俺はナビに感謝するとみんなに言った。
「よし……お義父さんも含めた4人で行こう!」
笑顔のセリナと唖然とするエルダ……お義父さんは提案に驚いていたけど申し訳なさそうに言った。
「トーヤ。誘ってくれる気持ちは嬉しいけど、僕には店があるから町を離れられないよ……」
そう言って肩を落とすお義父さんに提案した。
「でも数日なら問題ないですよね?実は……」
そう言ってみんなにアイデアを説明すると、聞き終えたセリナとエルダ、お義父さんは笑顔を見せた。
話が決まったので早速準備に取り掛かると、暫くして準備を終えたエルダが耳を隠すためのフードを被っていた。
俺はそんなエルダの耳元で呟いた。
「俺はエルダの耳……好きだよ?」
そう呟いたらエルダは「知ってるわよバカ!」と言って俺の背中を叩いた。
さて。じゃあ行きますか。
俺はお義父さんに水晶を渡して使用方法を説明すると、受け取ったお義父さんはさっそく故郷を思い浮かべた。
すると転移が始まった。
……
無事に転移を終えた俺達は周囲を確認すると、巨大な城壁が目についた。
お義父さんは懐かしむように眺めると入り口への案内を始めた。それに従い少し歩くと大きな門がありそこを通過すると……
町とは比較にならない規模の街並みが目に飛び込んできた。その光景に呆気にとられているとお義父さんが口を開いた。
「ようこそ!僕らの故郷「商業都市・タリスビルム」へ!」
そう言って進み始めるお義父さんを追いながら俺達は街を見て回った。
そんな俺達に「悪意の視線」を向ける存在がいる事に気付かなかった俺は……
……あとで死ぬほど後悔することになった。
ブクマが17いや18に!
ありがとうございます!




