NEET 魔王になる
「いらっしゃい。それと助けてくれてありがとう。」
部屋に姿を見せたシアに俺が礼を言うと、シアは大笑いしながら言った。
「わっはっはっは!ヴァレンタイン……礼には及ばぬのじゃ!仲間を助けるのは当然じゃからな!それに、もう少し暴走状態が続いておったら……あたしはお前にトドメの一撃を叩き込むつもりじゃったしな!!」
俺はシアの言葉に戦慄するも、助けてもらったのは間違いない……重ねて礼を言った。
「とにかく助かったよ!ありがとな」
そう伝えると、シアは笑みを浮かべて言った。
「礼を言えるのはいい事じゃが、その言葉……あたしだけじゃなく「あいつ等」にも言ってやると良いのじゃ!!」
あいつ等?
シアのその言葉に俺は記憶をたぐり寄せると、うっすらと思い出した。
「確かあの時……他にも誰かいたような?」
俺がそう呟くとシアは頷きながら言った。
「そうじゃ。あの時あたしも危うくお前に負けそうになったのじゃ!じゃが仲間達が援護に来てくれたのじゃ。お前も魔王4人相手に手も足も出なくてな!!ボッコボコにしてやったのじゃ!」
そう言ってシアは笑った。
……あの人達も魔王だったのか。
殆ど記憶にないけど、確かに俺は為す手段なく敗北したような気がする。
どんな人達だったかな?
俺が記憶を振り絞っているとシアが思い出したように言った。
「あ!そうじゃった!ヴァレンタイン!お前…明日は時間あるか?」
そう聞くシアに俺は答えた。
「明日?うん大丈夫だけど……」
特に予定なんてないからそう答えたら、シアは笑顔を見せると言った。
「そうか!明日ヴァレンタインの魔王就任祝いをする事にしたのじゃ!!他の魔王達も全員参加するからな!!楽しみにしてるのじゃぞ?」
え…何を言ってるの?
俺はシアに聞こうとしたけど「じゃあな!また明日!」と言い残して姿を消した。
魔王就任の祝い?
よく分からないけど仕方ない……まずはセリナに報告か。
そう思ってたら風呂を終えたセリナがタイミングよく戻ってきたので、俺はシアから聞いた話を説明した。
 
すると話を聞いたセリナは「分かりました!気をつけて行ってらっしゃいませ」と言ってくれた。
セリナへの話も終わったので、俺も風呂を済ませると明日に備えて早めに休んだ。
翌朝……
俺達を起こしたのはシアの元気な声だった。
「ヴァレンタイン!迎えに来たのじゃ!」
その声に驚いたセリナと俺は体を起こすと、俺たちを見てシアが言った。
「なんじゃ?お前達まだ寝ておったのか?……ヴァレンタイン!早く準備するのじゃ!!」
そう言って急かすシアの言葉に、俺は慌てて着替えを始めた。
そんな中、セリナは目をゴシゴシしながら睡魔と戦っていた。
俺はすぐに着替えを済ますとセリナに「行ってきます」と言ったら、セリナは「行ってらっしゃい」と返すと俺とシアの転移を見届け……枕にダイブした。
転生先は……とても立派な城だった
俺は思わず「凄いな!」と口から零すと、それを聞いたシアは胸を張って言った。
「そうじゃろ!これがあたしの居城じゃ!かれこれ300年?いや、4000年……忘れた!が、そのくらい前に作ってもらったのじゃ!」
え……ちょっと待て?数千年前って……
いったい何歳なんだ?
俺は聞こうと思ったけど、その前にシアが口を開いた。
「さぁヴァレンタイン!中に入るのじゃ!みんな「ギルバートオオトカゲ」みたいに首を長くして待ってるぞ!!」
……なんだよ「ギルバートオオトカゲ」って!?
よく分からなかったけど、早足で歩くシアに置いていかれないように俺も歩みを進めた。
城内には多くのメイドが清掃などの仕事に従事していた。そのお陰か隅々までピカピカに輝いていた。
メイドは俺達が通ると手を止め深々と頭を下げた。
実はシアって凄い魔王なのか?
そんな事を思っていると、城内最奥の扉の前でシアは足を止めて言った。
「この部屋で皆がヴァレンタインを待ってるのじゃが……緊張しとらぬか?」
その言葉に俺は一呼吸した。
そして「うん…大丈夫!」と答える前にシアは扉を開けて中へと入っていった。
俺も慌ててシアに続くと、そこには4人の魔王と呼ばれる存在が椅子に腰掛けていた。するとシアは皆に大きな声で言った。
「ヴァレンタインを連れてきたのじゃ!」
シアの言葉に魔王の1人が反応した。
「おい蛇姫!こんな朝早くから呼び出しといて第一声がそれか?そんな事よりやることやってさっさと帰らせろ!」
魔王の1人がシアに噛み付いたけど、シアは気にせず話を続けた。
「お前は本当に短気じゃの。まぁ良い……では早速じゃが……この……あれ?お前の名前なんじゃったっけ?」
そう聞くシアの耳元で「トーヤだよ」と呟くと改めて言った。
「トーヤ・ヴァレンタインを魔王と認め我等の同胞として認めるものは挙手するのじゃ!」
それを聞いた魔王達は全員揃って手を挙げた。シアは全員の挙手を確認すると満足そうに言った。
「うむ!満場一致じゃな!では、トーヤ・ヴァレンタインを魔王と認め我等の同胞と認める!」
そうシアが宣言すると俺の魔王就任が決まった。するとシアに文句を言っていた魔王が近付いてきた。
「よぉ新米魔王!俺はジーク・タイガーハート。済まないが今日は予定が山積みなんだ。今度ゆっくり話そう」
そう言って俺の肩を叩くジークに会釈をすると言った。
「ジークさん。俺の為にわざわざありがとうございました。よろしくお願いします」
俺がそう言うと「敬語も継承も無しだ。俺達は仲間であり兄弟なんだからな!」と言って笑顔を見せると転移した。
 




