NEET 親バカに付き合う
翌日
ニコニコ笑顔のセリナと、どんより気分の俺は領主の屋敷に来ていた。
領主の案内で会議室に入ると、そこには既に先客が数人座っていた。
俺たちが入室すると立ち上がり深々と頭を下げたので、俺とセリナも返礼すると席へと向かった。
そして領主が座るタイミングで俺達も椅子に腰をおろすと、皆の着席を確認した領主は早速話を始めた。
「今日みんなに集まってもらった理由だが……その前にまず、此方の2人を紹介したい。トーヤ・ヴァレンタイン殿とその奥方……セリナ・ヴァレンタイン嬢だ。トーヤ殿には開拓事業の総責任者、セリナ嬢には副責任者として腕を奮って頂く。」
領主の紹介を受けた俺とセリナは立ち上がると、改めて頭を下げた。
領主が……満面の笑みで拍手すると、合わせて周りも拍手してくれた。
そして俺達が座ると領主が話を続けた。
「さて、トーヤ殿。セリナ嬢……彼等を紹介しよう。右から病院建設担当のレイン。学校建設担当のレベッカ。農耕地担当のレーガンだ。」
それぞれ名前を呼ばれたタイミングでこちらに会釈をしたので、それを確認した領主は話を進めた。
「今回は土地の準備が完了した病院建設と学校建設について話し合いたい。まずは病院建設について話そう。レイン!頼む。」
その言葉にレインは頷くと説明を始めた。
「まず病院建設についてですが……建物は錬成術によって建設予定です。錬成術協会に問い合わせたところ予算の範囲内での建設が可能でした。資材についてもあちらで必要な数量を準備してくれるとの事です。資料を作成しましたのでトーヤ殿にご確認頂き、許可が下りれば話が進む状況です」
素晴らしい……なんて有能なんだ。俺、何もしなくていいじゃん!
そんな事を考えていたらレインが話を続けた。
「問題は医師の確保です。現在4名との契約が済んでいますが目標の20名まではまだまだ不足している状況です。」
なるほど……医師不足か。何か方法を考えないとな!
俺は持参した紙に記入してると、話題が学校建設へとシフトした。
「学校建設は既に建造に着手しています。切り出した木材を使用していますので建設費は大幅に削減できる予定です。」
なんと!!
切り出した木材を有効活用するとは……この人もなかなか優秀じゃないか!
「ただ、病院と同じく教師が圧倒的に不足しているため人材確保が難航中です。また、この町には子供が少ないため生徒をどう増やすかも大きな課題になっています。」
なるほど……教員不足に生徒不足か。メモメモ!
……あ!
話を聞いた俺の頭に疑問とアイデアが浮かんだので、試しに聞いてみた。
「レベッカさん。まだ土地は余ってるかな?」
そう聞くとレベッカは丁寧に答えてくれた。
「はい。この後、体育館とグラウンドを建設予定ですが……まだ余裕はあります。」
そう答えるレベッカに、さっき思い浮かんだアイデアをさっそく提案してみた。
「なら、学生寮を追加で建設出来ないか?この町には子どもが少ない。つまり学生を確保するなら他国から勧誘するしかない。なら学生寮はあるに越した事はないかなって思うんだけど……どうかな?」
俺の提案を聞いたレベッカはハッとした表情を浮かべると、少し考えて答えた。
「確かにそうですね……分かりました。予算にも余裕がありますので学生寮の建設も計画に追加します」
レベッカはさっそく計画の練り直しを考え始めているようだ。
あとは農耕地か……と考えてると領主が話題に挙げた。
「農耕地については人手不足が問題だった……のだが人員の確保が完了した。詳細は……レーガン、頼む」
領主の言葉を受けてレーガンが話を始めた。
「農耕地については開墾はほぼ完了しています。不足していた人材については先日の騒動で職を辞した兵士達を雇用しましたので問題はないです。住居についても、開拓と同時進行で進めています」
お……この人もしっかりしている!俺がそんな事を思っているとレーガンは話を進めた。
「問題は何を作付けするかですが、こちらは試行錯誤を繰り返すしかないと考えています」
確かに……試さないと分からない事ってあるよね。
するとレーガンの話が終わると領主が話をまとめた。
「主だった問題は人材確保だな。この件は各自持ち帰り、両案があればまた集まろう。では、今日の会議はこれで終了とする。」
その言葉を受けて3人が離席すると、領主と俺達の会話が始まった。
「どうだ?トーヤ殿。あの者達は?」
領主の問いかけに、俺は正直に思った事を言った。
「優秀だと思います……それこそ俺なんて必要ないと思う程度には……」
俺がそう答えると、領主は満足そうな笑みを浮かべると言った。
「そうであろう?流石は我が子達だ!」
領主のその発言に俺とセリナは目を丸くすると、領主は俺達に話を続けた。
「驚く事はないだろう?妻とは死に別れたが、ああして立派な子ども達を産んでくれた。実はな、2人を責任者に据えたのはそなた等に見てもらいたかったのだ……我が自慢の宝達をな!」
そう言って目を細める領主を見て思った。俺達は親バカに付き合わされただけか?
まぁ……悪い気はしないけど。
すると領主は緩んだ表情を引き締めると言った。
「それはさておき……人材確保の件については本当に困っている。あてがあったら是非紹介してくれ!!」
領主は立ち上がると俺の肩を叩いた。
正直、知り合いが殆どいない俺は力になれそうもなかったけど……。
俺とセリナは立ち上がると領主に一礼して言った。
「分かりました。では俺達も失礼します」
そう言って俺達も屋敷を後にした。
その帰り道でセリナが「私もいつか子育てしてみたいです……でも、もう少しだけ2人の時間を楽しみたいですね!」なんて言うから、俺の顔は真っ赤に染まった。
そして部屋に戻ると俺は椅子に腰掛けて、読書を続けようと本を開いたら……
急に部屋の隅が光り出した。これってまさか転移の光か?そんな事を思いながら見ていたら俺の予想は的中した。
光が収まるとシアが現れ、俺を見つけると笑いながら言った。
「おぉ!ヴァレンタイン!!目を覚ましておったか?遊びに来てやったのじゃ!!」
……前触れなくシアが遊びに来たのだった。
 




