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運命の日 想い

町は相変わらず大騒動で混乱を極めていた。


「領主を探せ」と騒ぐ者もいれば「もう全て終わりだ」と嘆き涙を流す者や、泣きじゃくる子どもを抱きしめる母の姿もあった。


そんな様子を1つ、また1つと確認しながら俺達はゆっくりと歩みを進めた。


人々の絶望に包まれる町を歩きながら俺はセリナに話しかけた、

「セリナ。俺は君が好きだ。君がいなかったらこの町でもずっと1人で過ごしていた。もしかしたら違う町に行ってたかもしれない」


「でもこの町で色んな人と関わりを持てたキッカケは全部君が運んできてくれたんだ。」

セリナは俺の話を静かに聞いてくれていたので、そのまま話を続けた。


「俺はセリナ以外に興味を持てなかったんだ。だから名前を呼ぶことも無かったし名前で呼ばれることも無かった……それでいいと思ってたんだ。つい最近までは」


「俺が作っていた壁を君は壊してくれた。それだけじゃない……君は……ごめん。うまく言葉にできない」

言葉に詰まる俺にセリナは微笑むと話を始めた。


「いいえ旦那様。すごく嬉しいです。本当はずっと不安でした……私は旦那様に必要とされてるのかって。だけど旦那様は私を助けに来てくれました」


「それだけじゃありません。私に良くしてくれた人に親切にしてくれました。どんな時も私を大切にしてくれる……そんな旦那様のことが私は大好きです」


足を止めて互いの顔を見ると耳環が陽の光を受けて輝いた。俺はセリナの耳環に触れるとセリナも俺の耳環に触れた。


「俺達はずっと一緒だ。」

俺はセリナに笑みを浮かべると、セリナは嬉しそうに言った。


「はい。確かにそう誓い合いました。」

そうして見つめ合うとセリナは目を閉じた。俺は顔を寄せると「それ」を口に含んで薄紅色の唇に……


「待って!」

声の聞こえた方を見るとエルダが手を振りながら此方へ走ってきた。


「どうしたんだ?」

俺は「それ」を吐き捨てると、駆け寄ってきたエルダに問いかけた。するとエルダはチラシを取り出して言った。


「どうもこうも…このチラシ!領主はさて置いて加担した者ってあなたでしょ?」

普段は敬語なのによほど慌ててるのか……まぁ別に気にしてないけど。

俺はエルダの疑問に答えた。


「そうだよ。だから今から行ってくる」

そう答えると、エルダは血相を変えて俺達を止めた。


「馬鹿じゃない?行けば間違いなく殺されるよ?…セリナは…セリナはどうするの?2人とも絶対に行っちゃダメ!!……そうだ!うちに来なよ。皆あなたの顔までは知らないでしょ?騒ぎが収まるまでうちで匿うから!!」

エルダの言葉を聞いて思った。

……さすがセリナ。本当にいい友達を作ったな。彼女なら安心してセリナを任せる事が出来るか。

そう確信した俺はセリナに言った。


「セリナ……俺と来るなら目を閉じろ」

その言葉にセリナは一度エルダを向いて頭を下げると、俺の方を向いて目を閉じた。


……セリナ。絶対に戻るから待っていてくれ。


俺はセリナの鳩尾を突いた。


「な ……んで?」セリナは必死に抵抗するも意識を失い体勢を崩した。

俺はセリナを抱きとめると……その体をエルダへ託して言った。


「目を覚ましたら伝えてくれ。絶対に帰ってくるから待ってろって」

そう頼むと俺は1人で町の出口を目指して進み続けた。



……


町の出口にはあの時の守衛さんがいて、俺に気付くと声を張り上げて言った。


「おい!今は町の外には出せねぇんだ。ここも危ない!早く離れたほうがいい!!」

守衛の言葉を無視して俺は門前まで進むと、再び守衛が俺に言った。


「無理だ!その門は1人じゃ開けられない!!俺も開けるつもりはない!!分かったら早く離れろ!」

その言葉を聞いて思った。


……あんたいい人だな。

そんな危険な場所に1人でいるなんて。大丈夫だ。俺がセリナを……みんなを守るから。


俺は門の下を持つとゆっくり持ち上げると、通れる高さまで上がったので門をくぐり抜けた。

手を離したら「ズドン!」と勢いよく門が閉じて、その様子を見ていた守衛は……呆然と立ち竦んでいた。



門の外は……誰もいなかった。

どういう事だ?俺が理由を考えているとナビが言った。


「マスター。この付近は森に囲まれています。近くに平地があり国軍はそこに集まっていると思われます。案内を開始しますか?」

そう尋ねるナビに俺は覚悟を決めると言った。


「ナビ…頼む」

するとナビの案内がスタートしたので、俺は国軍が集結する平地へと向かった。



……


平地では数多の兵士が待機していた。

町での略奪を楽しみにしている兵士もいれば、同族の住む町を攻める事に躊躇する兵士の姿もあった。


ただ……兵士の大半は自分たちの勝利を確信していた。何故なら相手がちっぽけな獣人の町だったからだ。


……間も無く地獄に叩き落される事を知らずに。



最初にその存在に気付いたのは1人の兵士だった。黒い服を身に纏う男が此方に向かって歩いていた。


最初は旅人か?とも考えたがどうも様子がおかしい。次第に他の兵士達も存在を確認すると面白半分に弓を射る兵士も出始めた。


最初は追い払うためにわざと外して面白がる兵士達だったけど、それでも怯まず進み続ける存在にムキになった兵士が本気で狙いを定めて矢を射った。


しかし見えない何かに弾かれるようにその矢は軌道を逸らした。


次第に騒ぎ始めた兵士達は弓矢を雨のように射始めるのだが……やはり当たらない。


その頃には騒ぎが大きくなり、遂には将軍まで前線に駆けつけていた。


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