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運命の日

「俺を……殺すため?」


突然の話で意味が分からないが間違いなくそう聞こえた。


「そうじゃ!驚いたか!?」

そう言って笑顔を見せるシアは、とても嘘をついてる雰囲気じゃなかった。この状況でせめてもの救いはセリナは対象じゃないという事だ。


あまりに重すぎる話で沈黙が続く部屋にヨルムの咳払いが響いた。


「シア様、発言をお許し頂けますか?」

ヨルムはシアに許可を求めると、シアは相変わらずの笑顔で言った。


「ん?いいぞ!許す!!」

その言葉にヨルムはシアに深々と頭を下げると俺にも頭を下げて言った。


「申し訳ございません。主人の発言への補足を致します。ヴァレンタイン様……貴殿を殺すというのは「貴殿が覚醒の際に暴走したら」殺す、という意味だと存じます」

ヨルムの補足を聞いても意味が分からなかった。

しばらく唖然としてしまったが、気を取り直すと俺は聞いた。


「覚醒?暴走?どういう意味だ?」

俺の疑問に答えたのはシアだった。


「お前に魔王の因子が発現したじゃろ?それな……もうすぐ顕現するのじゃ!その時……なんと表現すればよいかの?まぁ「ぐるぐるー」するのじゃ!!あたしも経験したがぐるぐるーじゃ!」

シアの言葉はよく分からない表現だったけど、1つ気になることがあった俺は聞いてみた。


「なんで俺の因子の事を知ってるんだ?」

そう聞くとシアはそれが当然だと言わんばかりに答えた。


「そりゃあたしは魔王じゃからな!!魔王には魔王が感知出来るのじゃ。人界で新しい反応を感じたからあたしが代表してお前を呼んだのじゃ!あ……そういえばお前が断ったからあたしがこっちに来たのじゃったな!!」


「覚醒すると「ぐるぐるー」して、乗り越えれば無事に覚醒魔王じゃ!だがな…覚醒しきれないと暴走する。そうなったらもう戻れないのじゃ。その時はあたしらで殺して弔ってやるのじゃ!弔うってのは……忘れたがとにかくそういうことじゃ!」

そう言って笑うシアの言葉に俺は少しだけ安堵した。


理不尽に殺しに来たわけじゃないのか……ならこの話はむしろありがたい。

俺が覚醒に失敗したら、迷惑をかける前に処理してくれるという話を断る理由なんてなかった。


「シア、ヨルム……ありがとう。もしもの時は頼む」

その言葉にヨルムは頭を下げ……シアは胸を叩くと「任せるのじゃー!」と言って俺達に手を振った。そして一瞬光ったと思うと次の瞬間には部屋から消えていた。


そして部屋に静寂が戻ると、俺は振り返ってセリナを見た。

するとセリナは笑顔を見せて言った。


「旦那様!作戦会議です!」

そう言って張り切るセリナの様子に、先ほどまでの緊張が一気に抜けた俺は気の抜けた返事をしてしまった。


「へ?」

俺は思わずそう言うと、セリナは気にせず話を続けた。


「実は詳しい話をシアちゃんから聞いてます!」

何とセリナはシアから重大な情報を聞いていた。

何故近いうちに因子が発現するのか?と、その理由までセリナは細かく説明してくれた。


つまり……


・近日中に町をこの国の軍が襲撃する。

理由は領主の財宝…要するに俺が奪った宝物を狙っている。

つまり俺の情報を流した奴が町にいるということか。襲撃の情報は「他の魔王達から聞いたのじゃ!」だって。


・俺は1人で大軍を相手にする。

これは発現の条件らしい。理由は「知らぬのじゃ!」という訳でよく分からない。

が…恐らく魔王として町にいる眷属を守れるか?という事じゃないかと推測した。


「ありがとう。だいぶ状況が整理できた…あとは覚醒が上手くいくかだな。」

そう言ってセリナに笑顔を見せると、セリナも笑顔で答えてくれた。


「大丈夫ですよ。旦那様は大丈夫!」

そう言ってセリナは抱きついてきた。

すると……体から熱と、僅かに震えが伝わってきた。 俺も強く抱き返すと言った。


「そうだな。きっと大丈夫だ」


「はい」


俺達は笑顔で向き合うと、その日初めて唇を重ねた。



……


そしてあれから12日目の朝……その報せが届いた。

空から舞い降ちてきた大量のチラシ。その内容に町中が大騒ぎとなっていた。


「内乱計画罪により明後日より粛清を開始する。領主および領主の計画に加担した者を差し出せば他の住民についての処分は不問とする」


……領主の身が危ない。

俺はセリナを抱きかかえると領主の屋敷へと全力で走った。

領主の屋敷前には多数の群衆が集まっていて門番さんが必死に門を守っていた。


俺はセリナを降ろすと離れた場所に行くよう伝えた。そして離れた事を確認すると地面に向かって拳を叩きつける。


その一撃で地面は大きく抉れ、巻き起こった砂塵に群衆は悲鳴をあげた。


やがて周囲が静まり返ると俺は群衆に「この場から去れ」と言った。

ありがたい事に反抗する者は居なかった。


そしてすぐ門番に領主さんに会いたいと伝えると中から領主が出てきた。


「おお!トーヤ殿!!来てくれたのか!」


「領主さん。無事で何よりです。」

互いの無事を確認すると俺達は現状を細かく確認しあった。

領主によると、国王は欲に駆られた男で各地に密偵を配置して情報を集めているらしい。

その網に引っかかったのが俺と領主さんという訳だ。


「それでトーヤ殿…我らはどうする?」


「心配は無用です。俺が行きます。これはどうやら俺が1人で向かい合うべき…そう「試練」ですから」


「トーヤ殿!?国軍は恐らく万を超える。戦ったところで負けは目に見えておる!!ならば…ならばせめて我も共に……グフッ!?」

俺は領主さんの鳩尾に、死なない程度の打撃を撃つと痛みに耐えかねた領主さんは意識を無くした。


それを確認すると気を失う領主さんを門番に託しセリナを呼んだ。


そして傍にきたセリナが俺の腕に手を回すと、2人でゆっくり町の出口を目指して歩いた。


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