NEET 真実を知る
黒タキシードの話が少し気になっていたけど、俺は部屋でセリナの話を聞いていた。
楽しそうに話すセリナを眺めてるだけで和む……
そんな幸せな時間を満喫していた時、それは不意に訪れた。
凄まじいプレッシャーが俺を襲った。
すぐに立ち上がると周囲を警戒するが、目立つ異変はなかった。
突然の行動にセリナは驚いているが……今は説明する余裕が無かった。俺はどうするか考えたが、最優先はセリナの安全確保だ。
その手段を必死に考えていると何者が部屋をノックした。俺はセリナを座るように促すと、プレッシャーに耐えながらドアへと向かった。
近付くほどに体が重くなるのを感じたので、まず間違いなくドアの向こうに重圧の原因がいると理解した。
ドアにたどり着いた俺は……何があってもセリナだけは守る。そう決意しドアを開けた。
するとそれまで感じていたプレッシャーが完全に消え去り、視線の先には黒タキシードの男がいた。
まさかこいつが?
……いや違う。
タキシードからも只ならぬ力を感じるが先程のものとは比べるまでもなく小さい。
じゃあ誰が?
俺は重圧の主を探していると、突然声が掛かった。
「お前……なかなか凄いのじゃ!!あたしの威圧に耐えおった!」
そう言って俺を褒める声がする方に視線を向けると、可愛らしい女の子が立っていた。
まさかこの子が?
いやいや……流石にまさかね?
なんて考えていたら、黒タキシードが口を開いた。
「夜分に失礼致します。貴殿よりの伝言を主人にお伝え致しました所、お言葉通り参上させて頂きました。こちらが我が主人でございます」
そう言って深々と頭を下げる黒タキシードは、嘘をついている様子はなかった。
……マジか。
本当に来ちゃったのか。
そして今の言葉が真実なら、どう見てもJCくらいの女の子が黒タキシードの主……なのか?
とにかく約束は約束だ。俺は2人を部屋の中へと案内した。
そして椅子を勧めると少女は素直に座り、黒タキシードは少女の後ろに控えた。
セリナは突然の来客にも関わらず「あら!可愛らしい女の子のお客様ですね」と言って、あまり気にしていない様子だ。
そんな中で、少女は俺に笑顔を向けると聞いた。
「そうじゃ!お前は何という名じゃ?」
「トーヤ・ヴァレンタインです。あなたの名前もお聞きしていいですか?」
そう尋ねると少女は名前を教えてくれた。
「ヴァレンタインか…長いな!あたしは「シア」じゃ。正確には……長いから忘れたのじゃ!まぁ近しい者はシアとか蛇姫とか呼んでるのじゃ!」
そう言って笑みを浮かべるシアに俺は言った。
「シアさん…ですね?よろしくお願いします」
「ヴァレンタインよ。呼び捨てで構わんし敬語も使うな!お前は「仲間」なんじゃからな!」
……仲間?意味が分からなかったのでさっそく聞いてみた。
「なら遠慮なく。シア……仲間っていったけど、それはどういう意味だ?」
そう尋ねると、シアは少し考えて言った。
「その説明はな……長いから忘れたのじゃ!代わりにそこの奴に聞けば良いじゃろ。長い話じゃ!ヴァレンタインも忘れぬようにしっかり聞くのじゃぞ!あたしはその間……おいお前!あたしと遊ぶのじゃ!」
シアはそう言ってセリナを指差した。
急に指名されたセリナは……嬉しそうに微笑んでいた。
するとシアはセリナとベッドに移動すると、突如出現した何かで遊び出した。
俺はシアの代わりに席に着いた黒タキシードと向かい合うと、黒タキシードが話を始めた。
「改めてご挨拶を。我が主人シア・スネイクハート様に御目通り頂き、感謝致します。私は「ヨルム」と申します。ヴァレンタイン様。以後お見知り置き願います」
そう言って丁寧に挨拶をするヨルムに言った。
「ご丁寧にどうも。それでヨルム…色々と聞きたいんだが……」
俺がそう言うと、ヨルムは笑みを浮かべて言った。
「勿論です。まずは私が話します。疑問がありましたらその都度お答え致します」
その提案に俺が同意すると、ヨルムは話を始めた。
「まずは魔王についてです。」
早速来たか!俺は話に集中した。
「魔王とは……世界の破壊者。魔を統べる王など色々言われておりますが全て嘘です。確かに暴れ回り世界を破壊する魔王もいました。しかしそれは魔王を自称する者が行なった事です」
「真なる魔王は「眷族を守護する王」です。比類なき力を魔神から賜り、その力を行使して眷族を守る。これが本来の魔王の意味でございます。」
「かつて自称魔王を倒した勇者というのは真なる魔王のなのです」
意外すぎる話に驚いた俺は思わず声が出てしまった。
「そうなの?」
俺が漏らした言葉に頷くとヨルムは話を続けた。
「自称とはいえ魔王を名乗り好き放題暴れ回ると、真の魔王達は大迷惑なのです。そういった愚か者が現れると魔王達は円卓会議を開きます。そこで選ばれた魔王が討伐に向かうのです」
「つまり真なる魔王って…悪いこととかしてないのか?例えば天界と戦争したりとか?」
「天界と魔界はそもそも争った事などありません。あれこそ物語の話です」
「前提として…天神と魔神は姉妹です。かつて創造神は天界、人界、魔界を創造し自身も三分割してそれぞれ統治を始めました。天界には天神。魔界には魔神を。そして人界には人神という存在がかつて存在していました。」
「天神、魔神は限られた者に力を与えて統治を始めました。しかし人神だけは全ての存在に分け隔てなく力を与えました。結果…力の弱まった人神は人に力を奪われ消滅し、力に振り回された者は魔王や神を自称して暴れ回りました。それを見かねた真なる魔王や天使が人界に介入し現在に至ります。」
話を聞いているうちに、ふと領主に聞いた話を思い出した俺は聞いてみた。
「では、魔族領と神族領の仲が悪い理由は?」
「はい。魔神様に聞いた話ですが天神と魔神様が最後に面会された際にどうも言い合いになったそうで…その事が眷属にも影響を与えているようです」
仲が悪い理由がまさかの姉妹ゲンカ?しかしヨルムも断言はしていないので、確定という訳ではないみたいだ。
「な、なるほど……概ね理解した。それで2人はその話をしに来てくれたのか?」
ヨルムは俺の言葉に首を横に振ると席を立ち言った。
「ここから先は私から申し上げる事が出来かねます」
ヨルムはそう言ってシアに視線を送ると、セリナと遊んでいたシアが視線に気付いて戻ってきた。
「話は終わったか?長かったじゃろ?ちゃんと覚えたか?あたしは覚えてないぞ!!」
そう言って笑うシアに俺は苦笑いしながら言った。
「忘れたらまた話してもらうよ。それよりシアも話す事があるんじゃないか?」
俺がそう聞くとシアは本題を思い出したようだ。
「おっと…そうじゃった!忘れてた!!会いにきた理由じゃったな!」
そう言って一呼吸すると、シアはにっこり笑って言った。
「ヴァレンタイン、お前を殺す為じゃ!」




