NEET 世界を知る
「何か食べに行こうか?」
恥ずかしそうに俺を見るセリナに聞いた。
話し込んでいてすっかり時間を忘れていたけど
もう昼が近かった。
するとセリナは首を横に振ると言った。
「すみません。お昼はエルダさんとご一緒する約束がありますので……」
そう言って立ち上がるセリナに俺は声を掛けた。
「そうだったんだ。気をつけてね?」
そう言うとセリナは俺と領主さんにぺこりと頭を下げて
宿を出てエルダとの待ち合わせ場所に向かった。
俺も小腹がすいてきたので領主に提案した。
「俺たちも何処かで食べますか?」
そう聞くと領主は食事なら
この場で済まそうと提案してきた。
「良ければ先程の話を進めたい。食事はここで済まそう」
俺も領主に同意して食事を頼むと
ウェイターさんが山盛りのサンドイッチを持ってきてくれた。
さっそく俺と領主はサンドを口に運ぶと話を再開する。
まず最初の話題は
「総額いくら必要か?」というものだった。
領主さんの見積もりでは250億Gだったので
それ位ならぶんどった慰謝料で賄えると判断した。
俺は問題ないことを伝えると
領主さんは安心したようで眉間のシワが緩んだ。
次に話題に上がったのは俺が殴った豚の国の話だ。
どうやらあの豚は国宝級の秘薬を大量に使用する事で
なんとか一命を取り留めたらしい。
……しかし、宝物庫の財宝消失による
国庫の急激な圧迫によって
慌てた王やその側近達は国税を大幅に引き上げた。
その結果、圧政に耐えかねた民衆が
各地で王侯貴族に反旗を翻すと
見事革命を成し遂げたそうだ。
……ここ数日の間に大転落したなぁ。
まさに因果応報!セリナを傷つけた報いだ。
そんな事を思っていると領主が話を続ける。
「まぁ何が言いたいかというとだな。トーヤ殿や奥方に復讐や仕返しをしようにも関係者は全員処刑が決まっておるから2人は安全という話だ。そもそも元となった事件を知る者があの国から消えるのだから……そんな心配も杞憂というものだな!」
そう言って笑う領主に俺は言った。
「備えあれば憂いなし…とも言いますし」
俺がそう言うと領主はクスリと笑った。
最後の話題は「魔族」と「神族」についてだ。
この話題は世界の情勢に疎い俺が頼んだ。
領主は知っている範囲で
という前置きをして話しを始めた。
エルダを始めとする獣人族や
領主さんやこの町に住んでる人達が該当する
亜人族は魔族側の存在らしい。
そして魔の血が入っていない人族。
人と天使の間に生まれた存在である支天族。
支天族の血が僅かに継承された者たちを支人族と呼び
神族側の存在らしい。
そもそも世界は3分割されており
下層に「魔界」
中央層が人界
上層に「神界」があると言われているそうだ。
その話に疑問を抱いた俺は領主に尋ねる。
「言われているそうだってどういう意味ですか?」
すると領主は知識をフル活用して答えてくれた。
「神族側には神や天使が。魔族側には悪魔や魔王が存在しているって話なんだがな……誰も見たことがないんだ。ただ、亜人や支人は確かに存在している」
「つまりだな……我等が存在するなら魔王も神も存在するんだろうと推定はできる。……が、実際にいると断言も出来ないという訳だ」
領主の話に納得した俺は
もう一つ疑問に思った事を聞いた。
「ちなみに聞くんですが、魔族と神族で争ってたりはしないのですか?」
俺の疑問に領主は答えてくれた。
「大昔に神魔大戦という争いがあったらしい。その名残かは分からぬが、どうも神族の血を引く者とは馬が合わぬ。互いに嫌悪感を抱いておるのだろう。ただ……だから戦争だ!とまでは今の所は無いな。互いに関わらずと言った所だ」
その話を聞いて考え込む俺に領主が聞いてきた。
「どうしたのだ?何か分からぬのか?」
「いや……少し前に魔王復活か?みたいなのが話題になりましたよね?封印の洞窟に調査団を〜の話です」
俺がそう話すと
領主は笑いながら解説してくれた。
「あの話か!あれは不安商法だ。確かに世界各国で封印の洞窟近辺に異常な力の顕現を確認した。それは事実だか……」
「魔王が顕現したと騒いで新聞のネタにしたり保存食を買わせたり……それで儲けたい奴等が騒ぐんだ。今回は魔王顕現を謳っていたから封印の洞窟が注目された。それがもし神の顕現を謳っていたなら、世界樹の森の調査が必要だと騒いでいただろうな」
その話を聞いてなるほど!と感心していると領主が言った。
「トーヤ殿はそのような悪事に手を出さぬよな?」
そう言って疑惑の視線を向ける領主に言った。
「出しませんよ!」
俺がそう答えると、領主は立ち上がった。
「なら良いのだ!……おっと!長く話し込んでしまって長居するのも悪い。そろそろ失礼する。」
領主さんはそう言い残すと足早に出て行った。
すると入れ違う形でセリナが食堂に入ってきた。
どうやら帰ってきたセリナに気付いて
気を利かせてくれたみたいだ。
俺は傍まできたセリナに声を掛けた。
「おかえり!楽しかった?」
声をかけるがセリナは無言で近付いてきた。
……何かあったのか心配していると
セリナはそのまま無言で隣に座り肩を寄せてきた。
「楽しかった……です。けど旦那様が傍に居なかったからちょっとだけ寂しかったです」
そう言って甘えるセリナの頭を撫でると提案した。
「構ってあげれなくてごめんね?この埋め合わせは、美味しいディナーなんていかがでしょうか?」
そう聞くと、セリナは笑顔で答えてくれた。
「いいですね!旦那様、早速参りましょう!」
そう言って俺の手を取ると、ご機嫌のセリナと一緒に食堂を後にした。
そして宿を出た俺とセリナは
「美味しいディナー」を求めて歩き始めた。
 




