NEET 融資する
翌朝
目を覚ますと、セリナはすでに起きていた。
椅子に座って俺を眺めていたので
「おはよう」と声を掛けると、可愛い笑顔で
「おはようございます」と返ってきた。
俺は起き上がるとテキパキ着替えを済ませる。
そして「おまたせ。朝食に行こうか」と声を掛けると
セリナは俺のもとに駆け寄ってきた。
するとセリナは
どこかで見たような手紙を差し出すと言った。
「実は先程ドアがノックされたので開けたら身なりの良い男性が立っていました」
……なんか聞き覚えのある話だと思ったけど
俺はセリナに話を聞く事にした。
「…うん。それで?」
そう聞くとセリナは
表情を曇らせながら話を続けた。
「はい。その人…私に頭を下げるとこの手紙を床に置いて小走りで去って行きました」
その話を聞いて俺は全てを理解した。
領主は俺が出てくると思ってたら
予想に反して超絶美人のセリナが出てきた。
その姿を見て
手紙を手渡すことすら畏れ多いと考えた領主は
女神の手に触れないよう床に手紙を置いて帰った……
という事だな。
そんな事を考えているとセリナが俺に謝ってきた。
「勝手に受け取ってしまって…反省してます」
そう言って落ち込むセリナの様子に俺は思った。
クソ領主……
俺のセリナを落ち込ませやがったな!?
さてこの罪……いやこの怨みは地獄に流してくれようぞ!
……いかん!そんなことより
今はセリナへのフォローが最優先だ!
俺はセリナに笑顔を向けると言った。
「大丈夫だよ…怒ってない。そんな事より身なりの良い「変質者」には何もされてないか?」
そう聞くと、セリナは表情を明るくして言った。
「何ですか?身なりの良い変質者って?そんな変質者もいるんですか?」
そう言って笑うセリナに安心した。
「緊急最優先クエスト#セリナに笑顔を」
ミッションコンプリート!!
俺は笑顔の戻ったセリナを誘って
一緒に食堂へと向かった。
食堂に着くといつもの席……
は、先客がいたから別の席を……
ん?何か見覚えがあるような?
その先客は俺たちに気付くと振り返って一礼した。
なんだやっぱり領主か……って何でここに?
そういや……ついさっきセリナを落ち込ませた罪で
死刑に処す予定だったな?
己が罪に気付いて自ら命を差し出しにきたのか?
完全に理解した。
その潔さに免じてせめて苦しませずに……
「あ!あの方です!手紙を置いていかれたのは!」
セリナっ!なんて優しい子なんだ!?
君を落ち込ませた
ゴミクズの身なりを覚えているなんて……
俺達は仕方なく領主のいる席へ向かうと腰を下ろす。
すると俺が席に着くと領主は
「先日はありがとう」と声を掛けてきた。
「え、この変……いえこの方は旦那様のお知り合いなのですか?」
驚くセリナに俺は仕方なく答えた。
「あ、あぁ。一応な。」
そう答えて領主を睨みつけると
慌てた領主は弁解を始める。
「部屋に伺ったのはトーヤ殿に用事があったからで奥方…いや美しいトーヤ殿の奥方に何かしようとした訳ではないのだ!万が一にも手に触れぬよう、失礼とは思ったが床に手紙を置いて去ったのだよ」
……美しい?
……トーヤ殿の?
……奥方?
……なかなか良く分かってるじゃないか!
とりあえず死刑の執行は猶予してやろう。
俺の怒りが収まったのを感じたのか
領主さんはホッと一息ついた。
その様子にセリナは?マークを浮かべていると
運ばれてきた料理を見て領主が言った。
「先ずは食事にしよう。話はその後で!」
そう言って出てきた料理を食べ始めた。
俺達も美味しい料理をサクッと食べ終えると
セリナは無言で立ち上がった。
話の邪魔にならないよう場を去るつもりみたいだが
俺はセリナの手を握ると座るよう促した。
セリナは嬉しそうに再び席につくと
その様子を見ていた領主さんが口を開いた。
「トーヤ殿。奥方とは本当に仲睦まじいのだな」
領主の言葉に当たり前だ!と心の中でツッコミを入れながら、ふとセリナを見ると照れていた。
その様子を可愛いなと思いながら眺めていると
領主が話を切り出した。
「それで今日お伺いしたのはお願いしたいことがあるからなんだ。」
俺にそう言うと領主の雰囲気が変わった。
「聞きましょう」
俺の言葉に領主は一礼すると話を始めた。
「……融資を頼みたい!」
「は?」
予想外すぎて思わず声が出た。
いかん……領主さんは真面目に話しているんだ。
ちゃんと聞こう。
「失礼しました。理由を聞いても?」
この町は豊かな町だ。
住民はのびのび暮らしてるし
何か問題があるようには思えない……
俺は質問の答えを待っていると
考えをまとめた領主が話を始める。
「実はこの町には2つの弱点がある。1つは作物の自給率が著しく低い。それは周囲の土地の多くが森だからだ。森を切り開いて農耕地と居住地を開発する為の資金をお願いしたい。」
「なるほど。確かに理にかなっていますね。それで、もう1つの弱点とは?」
「この町を今以上に豊かにするには必要な施設がある。医療施設と教育期間だ。この町にはないので付近の「都市」に行くことになるが、その結果若い人材が他所にどんどん流れている。施設建設の為の資金を
お願いしたい。」
俺は領主の話を聞いて
少し考えを整理すると聞いた。
「なぜ俺個人に融資を依頼したのですか?」
まずは一個人に領主が融資を依頼する理由が知りたかった。
とは言っても
なんとなく心当たりがある俺は
領主がなんと答えるか聞いてみたかった。
すると領主が理由を話し始める。
「実は先の事件で、あの国の宝物庫から宝がすっかり消えていた……という噂を聞いたのだ。もしトーヤ殿が奪ったとしたら資金をお持ちだと考えた」
領主の答えは大正解だ。
これは一応確認したかったから聞いただけで
むしろ本題は今からの質問だ。
「では俺がこの町に…あるいは領主さんに融資すると思いますか?」
別に出したくないという訳じゃない。
ただ……この町が良くなっても悪くなっても
俺とセリナには何の関係もない。
嫌になったら出て行けば良いだけなんだから。
俺は答えを待っていると、領主は静かに語り始めた。
「我はこの町の民全てを愛している。万民が豊かに……とは言わぬが、我が領民が健やかに過ごせるようにしてやりたい。その為にはトーヤ殿の資金にすがるしか……もう手段がないのだ。」
そう言って頭を下げる領主の姿を見て思った。
この領主はバカだ。
ただ広いだけの……何もない屋敷に住み
机と椅子しかない執務室で仕事をする。
持ち合わせる財の全てを町のために使っていることが
今の話と屋敷を訪れた時の様子で理解できた。
俺はセリナに目を向けると優しく微笑んでいた。
……ナビ。
「マスター。何か御用でしょうか?ちなみに、宝物庫から奪っ…頂戴した慰謝料の残高は❇︎❇︎❇︎❇︎です」
……久々に喋ったと思ったら……有能は健在か!
俺は慰謝料の残金を確認すると領主に言った。
「話は分かりました!融資の件は任せてください。具体的な話をしましょう。」
そう答えると、領主は頭をあげて言った。
「トーヤ殿!……感謝する!」
そして俺と領主様は立ち上がると握手した。
するとその様子を見ていたセリナのお腹が鳴って
モジモジする様子を見た俺と領主は思わず笑ってしまった。
ブクマ8件目!
ポイントもありがざっす(^^)
 




