NEET 恩返しする
馬車に揺られ
周囲から好奇の目を向けられながらの移動が
終わりを告げると、購入予定の物件前まで到着した。
馬車を降りた俺はゼーレンについていくと
物件の鍵を開けてくれたのでさっそく中へと入る。
4階建の物件は、一階が丸々飲食スペースだ。
日当たりも良かったけど
キッチンに若干古い印象を受けた。
ゼーレンさんに確認すると
500万G程で最新のキッチンに
リフォーム出来るとのことだったので問題なさそうだ。
そう判断した俺は2階へと向かった。
2階部分からは
完全に宿のような感じの造りになっていた。
俺はゼーレンに間取りの変更ができるかを確認する。
簡単なリフォームで良ければ
1階あたり400万Gで可能みたいだ。
2、3、4階合わせて1200万Gか。
合わせて1700万G……まぁ、問題なし。
あとは屋根裏を確認したけど、特に問題はなさそうだ。
引き渡しの際の各種サービスも併せて確認すると
外壁塗装やハウスクリーニングは
無料でやってくれるみたいだ。
あとは……物件と土地の値段だ。
さっそく見積もりを確認すると
やはりというか相応の値段を提示された。
・建物 3500万G
・土地 6500万G
※リフォーム 1700万G
計 1億1700万G
さてどうしたものか。
悩む俺にゼーレンが優しく話しかける。
「お客様。いきなり大きい買い物をしては身を滅ぼしかねません。先ずは最初の一歩。小さいですが自信を持ってお勧めできる物件は多数抱えておりますのでそちらも検討してみませんか?」
その言葉に俺はハッとした。
そうか……その手もあったか!!
俺は思いついた案をゼーレンに相談すると
話を聞いたゼーレンは顔をしかめながら言った。
「確かに可能ではございますが…かえって費用が掛かりますよ?」
そう言って提案に難色を示したけど
俺はめげずに言った。
「大丈夫です!一度戻って話を進めましょう!」
その言葉を聞いたゼーレンさんは「これが若さ…か。」という顔で俺を見てきた。
そんなこんなで俺達は物件を後にすると……
帰りも馬車に乗り込んだのであった。
……
その頃セリナとエルダの
ガールトークは、まだまだ続けていた。
「でもセリナがホント羨ましい…あんなに優しい旦那様を捕まえるなんて」
そう言ってエルダは羨望の眼差しを向けると
セリナは笑顔で言った。
「ありがとうございます!でも旦那様は優しいだけじゃなくてとっても強……あ!また馬車が!!やっぱり凄いですね!」
馬車に気付いたセリナは
話を途中で止めると窓の外に目を向けた。
「ホントだ!私もあんな馬車に乗った王子様に迎えにきて欲しい…」
エルダも馬車を眺めるとそう呟いた。
するとセリナがエルダに言った。
「エルダさんもきっとすぐry」
そうしてガールズトークは
百花繚乱状態が継続していった。
俺はやどかりのから不動産へ戻ると
すぐにゼーレンさんと案を練っていた。
幸い購入予定の土地の地権者はすぐに分かったので
別の職員さんが買取交渉に行ってくれた。
建物についてはゼーレンさんの紹介で
「きこりのこりき工務店」に決定したが
こちらは土地購入が完了したら
改めて相談する段取りとなった。
後はその他諸々の手続き代行として
やどかりのから不動産に支払う金額だが
……1000万Gを提示された。
俺はさっそくアイテムボックスの中にある……
慰謝料として頂いた分から2000万G分の袋を出して
床に置いた。
中を確認したゼーレンさんは
多すぎますと言って返してきたが
「最高の仕事をお願いします」と口添えすると
苦笑いしながら受け取ってくれた。
と……そんな感じで話を進めていると
汗だくの男が店に飛び込んで来た。
「あなたですか?あの土地を買いたいって方は?」
息も切れ切れの地主に俺が「そうです!」と答えると
男は是非お願いしたい!と興奮しながら寄ってきた。
さっそくゼーレンさんが地主を席へ案内すると
具体的な金額の話になった。
最終的に3000万Gで話がまとまったのだが
地主の口から2点問題があると相談された。
・建物はガタが来ているためほぼ価値がない
・現在賃借中で退去させるなら違約金が発生
まぁ…それは何の問題でもなかった。
俺は正式に契約すると無事に土地を手に入れる事が出来た。
地主との交渉がスムーズに終わったお陰で、話は進んだ。
先ずは退去している間に
エルダと店長が住む物件の賃貸借契約だけど
これはすぐ近くにいい部屋が空いてるとのことで
全てゼーレンさんにお任せした。
そして目からウロコ亭の建て替えを依頼する工務店には
明日の朝に内見の段取りをするよう頼んでもらった。
その他の細かい話は後日決めようという話になったので
俺は明日また顔を出す事を伝えると不動産屋を後にした。
そしてその足で目からウロコ亭へ向かった。
店に着いた俺が中に入ると
……あれ?誰もいない?
どっか行ってるのかな?と考えてたら
上から話し声が聞こえた。
階段を登ると、天井に板を貼り付けるおっさんと
脚立を支えるエルダ……
その様子を不安そうに見つめるセリナがいた。
俺はみんなに声を掛けると
話があるから1階に降りてくるよう促した。
みんな一様に?マークを頭に浮かべていたが
1階へと降りてくる。
降りてきたセリナとエルダは
2人で食事の準備を始めたので
俺と店長さんは先に2人で席に座った。
気まずい空気が漂う中で、まずは俺が口を開いた。
「先日はすみませんでした。私の妻の為に大切な娘さんに怪我を負わせてしまいました」
そう言って立ち上がると深く頭を下げる。
すると店長は俺に声を掛けた。
「そんなに気にしないで下さい!幸い2人とも無事だったんですから!」
そう言って席に座るよう勧めてくれたので
席につくと例の話の説明を始めた。
話を聞いた店長さんは
そんな事までして貰うわけには…と難色を示したので
俺は話を続けた。
「店長さんには大事な人…いますよね。その人に値段をつける事は出来ますか?」
店長さんは首を横に振った。
「セリナを守ろうとゲガしてまで頑張ってくれた。そのお礼として、受け取って貰いたいんです」
店長は「そうは言っても…」と、まだ難色を示した。
そんな店長さんにお金の出所は
暴漢から巻き上げたものだと伝える。
店長さん「マジですか?」
俺 「マジです!!」
その話で俺と店長の間に初めて笑いが起きた。
「そういう話ならありがたく受け入れましょう!」
そう言って笑顔を向ける店長に
俺は手を差し出すと言った。
「はい。ありがとうございます!」
そう言って俺と店長が硬い握手を交わしていると
料理を持ったセリナとエルダさんがやってきた。
何の話?
と聞くエルダに店長さんが一から話を説明すると
話を聞き終えたエルダは店長さんに飛びついて
しばらく泣いていた。




