NEET 感謝される
セリナ救出から一夜明けた。
今日も変わらず気持ちのいい朝だ。
セリナは昨日の一件で疲れているのか
スヤスヤ寝息を立てて未だ夢の中にいた。
守りたい。この寝顔!!
朝からバカなことを考えてると
部屋の扉をノックする音が。
誰か来たのかな?
頭を掻きながら扉を開けると……
知らないおっさんが立っていた。
身なりの良さそうなおっさんは一礼すると
手紙を取り出した。
そして俺が手紙を受け取ると
おっさんは再度頭を下げてUターン。
俺は部屋に戻って椅子に腰掛けると
手紙を無造作に開封し内容を確認した。
…
……
手紙の内容を要約すると
町の領主が俺と話がしたいから屋敷まで来て下さい。
来てくれるまで毎日手紙を送ります。
いつまでも待ってます……
という気持ち悪い内容だった。
しかし、話したい事とは間違いなく昨日の一件だろう。
どっかの国の王をぶん殴った……
いや、もしかしたら殺してしまったかも知れない訳だし……。
下手すると罪人として追われる可能性もある。
いっそ無視して町を出るか?
……いや、セリナもいるから
下手に動いて手詰まりになるのは避けたい。
そう考えた俺は領主と会って話をする事を決めた。
そんな思案を巡らせてるとセリナが目を覚ます。
「おはよ」と声を掛けると
まだ眠いのか甘い声で返事が返ってきた。
「準備ができたら食堂に来てね」と声を掛けると
一足先に食堂へと向かった。
すると、すっかり顔なじみになったウェイターは
声を掛けるまでもなく朝食の支度を始めた。
朝食を待つ間、俺は領主訪問をセリナに伝えるか考えた。
……セリナを面倒事には関わらせたくないし
領主の話の内容も分からない。
セリナに話すのは、領主と話してからでも遅くないか。
俺の考えがまとまったタイミングでセリナが到着すると
席に着いたタイミングで料理が運ばれてきた。
相変わらず美味しい料理を口に運びながら
俺はセリナに今日の予定を確認した。
「セリナ。今日は目からウロコ亭に行くよね?俺はちょっと行きたいところがあるから……悪いけど1人で行けるかな?」
昨日あんな事があったばかりだ。
不安なら一緒に行こうと考えていると
セリナは笑顔で言った。
「はい!分かりました。用事が終わったら迎えに来てくださいね!」
セリナはそう言って笑顔を見せてくれた。
……うん。平気なら良いんだけど。
俺たちは食事を済ませると
宿を出たところで別れた。
……大丈夫かな?
やっぱり目からウロコ亭までは送っていくか?
そんな俺の過剰な心配をよそに
セリナはどんどん歩みを進めていった。
……俺も行くか。
ナビに領主の家を確認すると案内がスタートしたので
声に従い歩き始めた。
……
ふぅ。着いたか。
ナビの案内で歩くこと小一時間
俺は領領主の屋敷に到着した。
さっそく守衛に話しかけ事情を話して待つこと数分……
許可が出たようで、守衛に邸内へと案内された。
広々とした屋敷を進むと2階最奥の部屋で
その男は待っていた。
……ん?よく見ると……
今朝、手紙を持ってきたおっさんじゃないか?
領主は驚く俺の反応が面白かったのか
口元がヒクついていた。
なんだよ……笑い者にするなら帰るぞ?
俺が意志を顔に出すと、領主は咳払いをして言った。
「いやいや失礼しました。どうぞお掛け下さい」
釈然としないが俺は勧められるまま
ソファーに腰を下ろすと、領主も向かい合わせに座った。
そしてムスッとする俺に挨拶をはじめた。
「突然の呼び出しに応じてくれて感謝する。。我はセイン・モンドイッチ。この町の領主だ。貴殿のお名前を聞いてもいいか?」
その問いかけに俺は返事をした。
「トーヤです」
自己紹介なんてどうでもいい俺は
要点だけサクっと話してお暇したかった。
そんな俺の意志を汲み取ったのか
領主はさっそく口を開いた。
「まずはお礼を言いたい。町に来たならず者を排除したのはトーヤ殿聞いたのでな」
そう言って頭を下げる領主に言った。
「あれは私の妻に手を出したから、その罪を贖ってもらっただけです。礼には及びません」
俺はそう返すと用事はこれだけなら帰りたかった。
しかし……そんな事を考えてる俺に領主がいった。
「それはどちらで……ですか?」
そう言って鋭い視線を向ける領主に言った。
「それはどういう意味ですか?」
昨日の一件だという事はわかったけど
何が言いたいのか分からない。
俺が警戒している事に気付いた領主は
笑顔を見せると話を始めた。
「いや失礼……分かりにくい表現だったな。はっきり言うと、トーヤ殿の奥方に手を出した暴漢をどこで排除したのだ?」
領主は俺に問いかけたが……どこって。
どっかの城?という事は分かっているけど
国名も場所も分からない。
なんと答えるべきか迷ってる俺に領主が言った。
「安心してくれ。我はトーヤ殿を責めたい訳ではない!むしろ……良くやってくれた!」
そう言って領主は笑ったが、俺には話が見えなかった。
なので詳しい説明を求めると、領主は饒舌に話してくれた。
「ご存知かと思うが、我が領地は獣人が数多く生活しておる。厳密に言うとこの国は魔族領に近い立場にあるのだ」
「そして先日問題を起こした暴漢は神族領側の立場にあり、我が領地でも度々問題を起こしていたのだ。今回トーヤ殿があちらの城までまで向かわれ…表現は悪いですが暴れてくれたお陰で悪さをしていた連中がこぞって逃げ出したのだよ!」
そう言って満足そうな様子の領主は、さらに話を続けた。
「悪政を行なっていた国王も虫の息で、内政が崩壊寸前との話も聞いている……国民は喜んでいるだろうな!」
領主の話を聞いて驚いた。
俺は、ただ嫁を助けに行っただけなのに……
随分と大きな話になってるみたいだ。
領主の話を聞いて、町に迷惑をかけた訳ではないと知った俺は
胸を撫でおろすと言った。
「話は分かりました。偶然とはいえ町の平和に貢献出来たなら良かったです」
俺は席を立つと領主に一礼して屋敷を後にした。
領主はまだ何か言いたげだったけど
セリナが心配だったので
急ぎ足で目からウロコ亭に向かった。




