キキョウ 怒りの果ての虚無
次の目的地への出発の日。
わっちとヤヨイは久しぶりにリュックを背負うと、仮宿を出て歩き始めた。
2人で手を繋いで歩く道中で他愛もない話をしていると、わっち達に向けられる視線に気付いた。
わっちは足を止めて辺りを見回したけど、視線の主の姿は見当たらなかった。
すると、そんなわっちの様子を見たヤヨイは首を傾げると聞いてきた。
「キキョウ?どうしたの?」
不思議そうに聞くヤヨイにわっちはどう説明すればいいか考えていると、急に空が眩しく光った。
そして光が治ると……そこには多くの魔族が姿を現した。
魔族達はわっちとヤヨイを取り囲むように降りてくると、ディンが前に出てきた。
「キキョウ様……魔王の貴女が何故「人族」と仲良く行動しているんですか?」
ディンはそう言って大袈裟に頭を抱えると話を始めた。
「もしやキキョウ様が人族への侵攻を止めるようになったのはその娘に籠絡されたからでしょうか?」
「貴女ともあろう方が我々魔族の大事な戦いに私情を挟んでいたなんて……実に嘆かわしい……」
そう言ってよく分からない話を続けるディンにわっちは言った。
「ディン……どこで、誰と、何をしようとわっちの勝手でしょ?最初に言ったはずよ」
わっちがそう答えると、ディンは笑みを浮かべて言った。
「貴女が天族を狙って行動するという言葉に賛同した同胞が命がけで戦っている間……戦いもせず遊び呆けていた貴女は「裏切者」と言わざるを得ません」
「キキョウ様、いや貴様にはその償いをして貰おう……その「命」を以って!」
ディンがそう言って手を上げると場にいる魔族達は距離をとってそれぞれ魔力を貯め始めた。
わっちはヤヨイを抱きしめると……背中から左右5対の羽を展開して魔族から覆い隠した。
転移が「人族」に耐えられるか分からなかったわっちは……せめてヤヨイだけは守りたかった。
その様子を見たディンは再び笑みを浮かべると、手を振り下ろして攻撃の指示を出した。
そして魔族達からの猛烈な魔法攻撃が始まった。
無数の氷柱や鎌鼬、炎弾がわっちの体や羽に直撃すると、激しい痛みに顔を歪めた。
それでもヤヨイを守りたいという想いが、わっちを襲う激しい痛みから耐えさせてくれた。
それから数時間に及ぶ攻撃は、魔族達の魔力が枯渇していくと次第に収束していった。
わっちは背中や羽根がボロボロになるほどの傷を負ったけど、魔族達の攻撃に耐えきる事が出来た。
わっちは抱きしめる力を緩めると、涙を流すヤヨイの顔に手を当てて言った。
「ヤヨイはわっちが守るって約束したでしょ?もう大丈夫だから安心してね」
そう声を掛けると、わっちの羽を見たヤヨイは必死に笑顔を作って答えた。
「ありがとう……」
そう言ってわっちに視線を向けたヤヨイは迫り来る「光る何か」に気がつくと、わっちを突き飛ばした。
そして尻餅をつくわっちに何かを呟いて笑顔を見せると……「黒槍」がヤヨイの胸を貫いた。
力なく崩れ落ちるヤヨイを抱きとめると、黒槍の影響で身体が次第に黒い砂となっていった。
すると「ヤヨイだった砂」は風に攫われ消えて無くなると、呆然とするわっちにディンが苛立ちながら言った。
「忌々しい人族め……厄介な裏切者にトドメを刺す邪魔をしやがって……」
その言葉が耳に入ると、わっちはディンに問いかけた。
「……自分が何をしたか分かっているの?」
わっちがそう聞くと、ディンは返事の代わりに下衆な笑みを浮かべた。
……ヤヨイはわっちの光だった。
戦うしか能がないわっちに「戦う以外の道」を示して、そして「温かい気持ち」を教えてくれた。
……思い返せば、初めて出会った時もそうだった。
ヤヨイは弱いのに、小僧を守る為に震えながら剣を向けて立ち向かった……そして最期はわっちを突き飛ばして「命がけで」守ってくれた。
本当はわっちが守るはずだったのに……いつの間にかヤヨイに守られていた。
「……傍に居られるだけで……ヤヨイの笑顔が見れるだけでわっちの心の渇きは満たされていたのに……お前は……お前達はそれを奪った……」
わっちは怒りに震えながら、場にいる全員の顔と匂いを記憶して言った。
「……どれだけ時が経とうがお前達の事は絶対に忘れない。必ず皆殺しにしてあげるから、それまで「生」を謳歌するといいわ」
そう言ってわっちは誰も知らない魔界の「巣」に転移すると、騒然とする場にディンの言葉が響いた。
「落ち着け!あの状態なら放って置いても死ぬだろう。死に損ないの戯言なんて気にせず、我々には人界侵攻を進めようではないか!」
そう言って皆を纏めると、ディンの指揮によって魔族は人界侵攻を再開したのだった。
……
それから長い年月が経った。
巣に戻ったわっちは、ディンやあの場にいた魔族達への憎しみを糧として激痛に耐えていた。
身体を癒す為に数年……数十年の時間をかけると、次は奴等を根絶やしにする為の魔力を貯め始めた。
長い年月を掛けて極限まで魔力を貯め終えたわっちは、あの場で記憶した匂いを辿って探し始めた。
驚いた事に奴等は魔界に帰還していたので、一ヶ所ずつ拠点に赴いては仕掛けを施していった。
すると半年後には、あの場にいた魔族達の本拠地の全てに仕掛けの準備が終わった。
わっちは羽を広げると空へと舞い上がると、目を閉じて未だ胸に宿る激しい憎しみと……懺悔を言葉にした。
「ようやくこの日が来たわ……約束通り「皆殺し」にしてあげる。ヤヨイ……待たせてごめんね……わっちが今、仇を討つからね!」
そう言って目を開けたわっち、は地表に向かって指を「パチン」と鳴らした。
仕掛けにはわっちの魔力が込められていて、指を鳴らす事を鍵に凄まじい爆発を起こした。
同時に各地で起こった爆発が空振を発生させて、わっちの耳に不快感をもたらした。
わっちはその様子を遥か上空から眺めていると、懐かしい顔がわっちの前に姿を見せると言った。
「凄まじい力を感じて飛び出してきましたが……キキョウ様でしたか。お亡くなりになったと聞いていましたが……やはり謀略だったのですね」
そう声を掛けてきたのは、ルーゼンという「吸血鬼」の一族の男だった。
「……死んだ?わっちが?」
わっちがそう聞き返すと、ルーゼンはわっちが姿を消してからの話をしてくれた。
・あれから2000年以上が経った。
・人族、神族との争いは終わった。
・神と呼ばる存在が統治を始めた。
その話を聞き終えると、わっちの前にルーゼンが呼んだ「魔神」が突然姿を現すと言った。
「はじめまして。あなたが「魔界の王」キキョウね。ずっと話がしたかったの。私は「魔神」ノワールよ」
ノワールは目を閉じたままそう言うと、わっちは首を傾げながら聞いた。
「話って何?わっちに処罰でも下そうって言うなら、首でも跳ねればいいよ」
そう言って、から笑いするわっちにノワールが言った。
「 いいえ……貴女には私の力になって欲しいの」
ノワールはわっちにそう言うと笑みを浮かべた。
続きが消えました……
残虐シーンを修正しました。
運営様……
これなら如何でしょうか?




