NEET 豚野郎を殴る
宿を出た私は
旦那様に美味しい料理を振る舞うために
青果市場を目指して歩いていた。
召喚されて一目見た時から
旦那様を好きになった。
結婚祝いも耳環もすごく嬉しかったのだけど……
私は貰ってばかりで何も返せていない。
旦那様に少しでも何かしてあげたかった私は
名案を思いついた。
旦那様は食事の時間が好きそうだった。
ここ数日の間に、食事の時は普段より
笑顔を見せることが多い事に気付いた私は閃く。
美味しい手料理を食べて貰って
私にもっと笑顔を向けて欲しい!
宿の人に頼んで
夕方以降は食堂のキッチンを使わせてもらえる
許可も頂いたし、後は食材を買い揃えるだけ!
……と思っていたのですが、大きな間違いでした。
私は迷う事なく無事に青果市場には着いたけど
どのお店で何を買えば良いか分からなかった。
……そうだ!
目からウロコ亭に行って情報収集しましょう!
そう決めた私はさっそく目からウロコ亭へと向かった。
少し迷いながらも店に着くと
空いてる席を探していたら声が掛かった。
「いらっしゃいませ!今日はお一人様?」
猫耳の店員さんが声を掛けてくれた。
「はい、1人です」と答えると
カウンターの席へと案内してくれた。
ランチを注文して少し待つと
2人分の料理が運ばれてきた。
なんで?と考えていると
猫耳の店員さんが隣に座った。
どうやら一緒に食べてくれるみたいだ。
猫耳の店員さんと楽しくおしゃべりしながら
食事を楽しんでいた私は、ダメ元で聞いてみた。
「店員さん…この料理のレシピを教えていただけませんか?」
私がそう聞くと店員さんは笑顔で言った。
「別に構いませんよ?何ならここで作りますか?材料費さえ頂ければ問題ないですよ?」
店員さんの予想外の返事に驚いた。
「良いのですか?」
そう聞いたら店員さんは
私に笑顔を浮かべて言った。
「旦那さんはウチの上客ですし…月嶺酒のお礼もありますから!」
お礼を言う間も無く店員さんに引っ張られると
キッチンで店員さんの指導を受けながら
一生懸命に作った。
そして、ようやく完成した頃には夕方になっていた。
「出来ました!」
私の料理を見て猫耳の店員さんは
「よく頑張りましたね!」と労ってくれた。
「さぁさぁ!早く旦那様を呼んできてください」
店員さんに促された私はペコリと一礼すると
店のドアを開けようとした。
その時……店に入ってきた2人組の男達に
すれ違いざまに腕を掴まれた。
「え?」
突然のことに驚き声が出ない私に
男たちは下品な笑みを浮かべて言った。
「お、良い女だな!ちょっと付き合え!朝方には返してやるから」
もう1人の仲間が言った。
「本当に良い女だ。この女…俺たちで楽しむより王に献上した方が良いんじゃねぇか?」
何を言ってるの……この人達?
完全に混乱し頭が真っ白になっている私に
男の1人が言った。
「この耳……まさかエルフか!魔法で逃げられちゃまずいから……っとコレコレ!」
そう言って腕輪をつけられた。
すると急に力が抜けた私は床に座り込んでしまった。
事態を見ていた猫耳の店員さんは
男達の暴挙を制止しようと立ち向かってくれた。
「あんた達!その娘を離しなさい!」
店員さんは髪を逆立て爪を出して必死に威嚇するも……
男の一撃で倒れ込んでしまった。
そんな中で男達の会話が始まった。
「ひとまず王城へ転移するか?金になったら渡せば良いし、ならなきゃ俺たちで楽しめば良い」
その提案にもう1人の男が答えた。
「そうだな!こんな辺鄙な町にわざわざ来たんだ。遊ぶには丁度いい!」
そう言うと男達と共に光に包まれた私は……
男たちと共にその場から姿を消した。
…
その頃、何も知らない俺は
お腹を空かせながら宿への帰路についていた。
セリナの手料理……楽しみすぎる!
ルンルン気分で歩いていると
何やら町が騒がしい事に気付いた。
……何かあったのか?
気になって人だかりの中心へと向かうと
そこには猫耳の店員さんが倒れていた。
俺は慌てて駆け寄ると
店員さんは目を見開いて涙を流した。
「ごめんなさい……奥さん……守れなかった……」
その言葉に辺りを見回すが……セリナが見当たらない。
……ある程度の状況は理解した。
俺は猫耳店員さんにお礼を言うと
周囲に協力を頼んだ。
すると医師を名乗る人が現れ
応急処置を始めた事を確認した
俺はその場を去ろうと背を向けた。
と、その時……店員さんが俺を呼び止めた。
どうしたんだ?
店員さんに再度近づくと
店員さんは目からウロコ亭を指差した。
急いで中を確認すると、
そこには1人分の料理が用意されていた。
…そっか。
ここで作ってくれてたんだな。
俺は一口ずつ味わって食べた。
不揃いに切られた具材を見て
……セリナの頑張りを感じた。
料理を食べ終えるのに
少し時間をかけてしまったけど
そのお陰で冷静になれた。
耳環の力ならすぐにセリナの元へと転移できる事を思い出した俺はそっと耳に触れる。
すると確かにセリナの存在を感じることができた。
そして俺は目を閉じて祈った。
どうかセリナのいる場所まで導いてくれ…と。
すると俺の体が発光し
次の瞬間には薄暗い部屋の中にいた。
ここは…?
周囲を見渡すとベッドに縛り付けられ
泣きじゃくるセリナと……襲いかかる豚がいた。
瞬間……俺は声を上げた!
「セリナに触るなぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺の声に気付いたセリナは
安堵の表情を浮かべると意識を手放した。
そんな中で豚が俺に向かって喚き散らし始めた。
「貴様!!誰の許可を得て余の寝室へ入っておる!?全く、衛兵は何をしておるのだ?さっさと立ち去らんか下賤の輩め!!」
慌てふためきながら喚く豚に俺は言った。
「お前こそ誰の許可を貰って俺の嫁を攫ったんだ?しかも縛り付けて……あんなに怯えさせやがって!」
俺は握りしめた拳に
さらに力を込めて豚を殴りつけると
勢いよく窓ガラスを突き破って俺の視界から消える。
俺はすぐにセリナに駆け寄ると
拘束していたロープと…
何かよく分からないが、はめられていた腕輪を引きちぎった。
そして涙に濡れた頬を触る。
瞼がゆっくりと開けられ
セリナの瞳に俺が映ると飛びついてきた。
未だ震えるセリナの頭を優しく撫でていると
部屋に大量の兵士がなだれ込んできた。
その中の兵士の1人が声をあげる。
「貴様!王はどこだ?」
あの豚は王様だったのか……。
俺は豚が消え去った窓を指差すと、
砕けた窓ガラスに気付いた兵士達は
慌てて外へ飛び出した。
まったく騒がしい奴らだな……
そんなことを考えながらセリナの髪を撫でていると
残った兵士達の中から声をかける奴がいた。
「なんだお前?その女の知り合いか?」
その声を聞いたセリナが急に固まった。
……そうか。
こいつがセリナを攫ったんだな?
俺の中に再び怒りがこみ上げてくるが……
もう一つ確認しなきゃならない事があった。
「セリナ……俺がいるから大丈夫だよ。それであの中に猫耳の店員さんを傷つけた奴はいる?」
セリナはビクつきながら兵士たちを確認すると小さく頷いた。
「ありがとうセリナ……無理させたね。ちょっとだけここで待ってて」
そう言って頭を撫でると俺は兵士達に向かい合った。
「お前と……お前だな?他と違う格好の奴。前に出てこい!」
お前達は……許さない。
初めてのシリアス回…
一瞬でほのぼの展開に戻る予定(確実)
 




