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キキョウ 心に芽生えた小さな気持ち

「何を笑ってるのよ!」


顔を真っ赤にして怒る女にわっちは笑いながら答えた。


「何をって……腰が引けた剣で、しかもプルプル震えながらわっちに向かってくるのが可笑しかったから!」

わっちはそう答えると、家の中から出てきた小僧が水を持って現れた。

そして水が入ったコップを渡すと、わっちは一気に飲み干して言った。


「ありがとう。小僧のお陰で一息つけたよ」

そう言って小僧の頭を撫でると、様子を見ていた女が言った。


「気が済んだなら早くどっかに行って!これ以上私達に関わらないで!」

女はそう言って小僧の手を取った時、わっちのお腹から空腹を知らせる音が鳴った。


「……何が食べ物をくれない?」

恥ずかしそうに呟くわっちを見た女は「ぷっ」と吹き出すと、家の中へと招き入れてくれた。


わっちが中に入ると小僧が手を引いて椅子まで案内してくれたので、一緒に座って待った。


すると女が鍋を持ってくると、器に粥を掬って差し出してきた。

それを受け取ったわっちはさっそく食べてみると……あっさりとした味付けだけど美味しかった。


粥をぺろりと平らげたわっちがもう一杯貰おうとすると、女がテーブルに乾いた小さなパン?を出すと言った。


「これも食べていいわよ……えっと、名前は何ていうの?私はヤヨイよ」

ヤヨイが出してくれたものを手に取りながら、わっちは答えた。


「わっちの名はキキョウよ。それよりこれは何?見た事がない食べ物なんだけど……」

そう聞くわっちにヤヨイは笑顔を見せると言った。


「これは私の故郷の食べ物で「ビスケット」って言うの。少しだけ砂糖を使ってるから、ほんのり甘くて美味しいわよ!」

ヤヨイはそう言ってビスケットをつまむと美味しそうに食べていたので、わっちも食べてみた。


「……美味しい」

不意に漏らしたわっちの呟きを聞いたヤヨイは、笑みを浮かべると言った。


「でしょ?」

ヤヨイの笑顔を見たわっちは、何故だか体の芯がポカポカと温まっていくのを感じていた。



……この気持ちはなんだろう?


初めての感覚に戸惑いながらも、わっちはヤヨイが作ったビスケットをパクパク食べ続けた。


すると出窓から見える景色はすっかり暗くなっていたので、わっちはヤヨイの家を後にしようと立ち上がると言った。


「ヤヨイ……すっかり世話になってしまったわね。わっちはそろそろ帰るよ」

そう言って2人に背を向けると、ヤヨイがわっちの手を掴んで言った。


「もう遅いから、今日はウチに泊まっていけばいいよ。それに……キキョウには聞きたい事があるから」

ヤヨイはそう言ってわっちの手を引っ張ると、小僧と一緒に寝室へと向かった。


寝室につくとヤヨイと小僧は布団を敷き始めたので、わっちは壁に寄りかかると言った。


「わっちの布団は敷かないでいいよ。横になって寝るのは性に合わないから」

そう断ると、ヤヨイはわっちの隣に座って話を始めた。


「なら私も眠くなるまでは隣にいるわ。聞きたい事もあるし……」

そう言ってわっちを見るヤヨイに聞いた。


「そういえば言ってたわね。聞きたい事って何?」

わっちがそう聞くと、ヤヨイは表情を暗くすると言った。


「……何でキキョウは人間を殺すの?」

その問いにわっちは即答した。


「わっちは強い者と命を賭けて戦いたいだけよ。それだけがわっちに「生」を実感させてくれるから。それに……元々戦いを始めたのはヤヨイ達「人族」でしょ?」

わっちがそう言うとヤヨイは「どう言う事?」と首を傾げたので、戦いの経緯を説明した。


「……と言う訳で、魔族は人界に侵攻を始めて今に至るのよ」

その話を聞いたヤヨイは溜息をつくとわっちに言った。


「……「魔界」って本当に実在していたのね。それだけでも驚いたけど……」


「私達の世界からキキョウ達の世界に仕掛けていたなら、私達が殺されるのは仕方ないよね……」

そう言って無理やり笑みを浮かべるヤヨイに、わっちの心は締めつけられた。


「……ヤヨイと小僧には水と粥、そして「ビスケット」の恩がある。だから2人はわっちが守ってあげる」

思わず出た言葉を聞いたヤヨイは、わっちの肩に体重を預けると聞いてきた。


「本当に私達を守ってくれるの?キキョウが?」

少し震えるヤヨイに気付いたわっちは、手を握ると約束した。


「2人だけは必ずわっちが守るって約束する。だから……またビスケットを食べさせて?」

そう言ってヤヨイに慣れない笑顔を向けると、ヤヨイは安心したように言った。


「ビスケットで良いなら幾らでも作ってあげるわ。それとキキョウの笑顔……すごく変よ?」

ヤヨイの言葉に笑顔を崩したわっちは、可愛い笑顔を浮かべると他愛のない話を続た。

そして夜が深まった頃、気がつくとヤヨイはスヤスヤ寝息を立て始めた。


わっちはヤヨイの体から伝わってくる温かさに、何故か心地よさを感じていた。



自分が抱く小さな感情の正体が分からないまま、わっちも目を閉じると眠りについた。


いつも読んでくれて

ありがとうございます!



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