ツバキとキキョウ たどり着く
キキョウとツバキがベルシュタイン王国を目指して旅を続ける中、ベルの元にチャールズから手紙が届いた。
ベルはさっそく中身を確認すると、獣人保護の進捗状況が詳しく記載されていた。
その内容を読み進めると、最後に変なメッセージが残されていた。内容は……
「銀髪の獣人」が女の子を連れて、ベルシュタイン王国を目指して旅をしている。保護を進めたが断られた為、やむなく断念した。
というものだった。
「銀髪」の部分が気になったベルは少し考えていると、1人思い当たる人物を思い出した。
「まさか…いや、あり得ないね」
ベルはそう呟くと、チャールズへの返事を書き始めた。
その頃ツバキとキキョウは3週間に渡る長旅の果てに、ベルシュタイン王国の国境にある「セイレーンの街」の門前まで辿り着いていた。
お爺さんは守衛に事情を説明すると褒美を受け取り、2人に別れを告げると来た道を戻っていった。
2人はお爺さんが見えなくなるまで見送ると、さっそく街へと入った。
すると街の光景を見たツバキはびっくりした。
猫耳やうさ耳の仲間達が沢山いて、幸せそうに笑っていたからだ。
街もすごく綺麗で、ツバキが暮らしていた村とは大違いの景色が広がっていた。
目を輝かせて街の様子を見て歩くツバキに、キキョウは笑顔を浮かべると言った。
「ツバキさん。この街は通り過ぎるだけの予定でしたが、見て回りますか?」
その提案にツバキは俯くと言った。
「見て回りたいけど……お金がないから……」
そう言ってショボンとするツバキにキキョウは言った。
「お金ならありますよ。さっき守衛さんから当面の生活費を頂きましたから!それに子どもがお金の心配なんてするものではありません!」
「せっかくですし、色々と見てみましょう!」
キキョウは戸惑うツバキの手を取ると、さっそく街の散策を始めた。
すると屋台で買い漁ってはペロリと平らげるキキョウの姿を見て、ツバキも次第と楽しめるようになった。
そして散々食べ歩いた2人は目に留まった宿にチェックインすると、さっそく部屋に入ってベッドに飛び込んだ。
しばらく2人でゴロゴロ過ごすと、ふいにツバキが尋ねた。
「そういえば、お姉ちゃんはなんであの森で生活してたの?」
ツバキの問いかけにキキョウは体を起こすと答えた。
「あの場所なら誰からも指図されないからですよ。わっちは命令とか指示とか…そういう類のものが嫌いなんです」
ツバキはキキョウの言葉がよく理解できた。
いつも命令されて、嫌な事を押し付けられて…大した理由もなく怒鳴られて…。
「お姉ちゃんも大変だったんだね…」
そう言って俯くツバキの頭をキキョウは撫でながら言った。
「ツバキさんはこれから自由に生きれば良いんですよ」
キキョウはツバキを抱きしめると2人でベッドに寝転んだ。すると旅の疲れが溜まっていたのか、2人はそのままスヤスヤ眠りについた。
翌朝
目を覚ました2人は宿を後にすると目的地を目指して歩き始めた。そして街を抜けると再び街道を歩くツバキに、キキョウが声を掛けた。
「まだまだ旅は続きますけど大丈夫ですか?」
キキョウの問いかけにツバキは笑顔で言った。
「大丈夫!昨日もぐっすり眠れたから!」
ツバキの答えに微笑むと、キキョウは話を始めた。
「それなら良かったです。そういえばこの先にエルフの住む森があるんですが…エルフって知ってますか?」
ツバキが首を横に振って「知らない」と答えると、キキョウは話を続けた。
「尖った耳を持つ「魔族」の一族なのですが、馴れ合いを好まないので森で静かに暮らしています。その森には立ち入る事が禁止されているので、少し遠回りになりますが迂回しましょう」
キキョウの話に頷くと、ツバキは尋ねた。
「でも……魔族ってなに?」
ツバキの疑問にキキョウは分かりやすく答えた。
「魔族というのは、獣人の起源となった存在ですよ。傲慢で嫌味な連中なので、わっちは嫌いです!」
キキョウはプンスカしながら答えると、その様子を見たツバキは笑いながら言った。
「お姉ちゃん…子どもみたい!」
キキョウはツバキの言葉に笑い声をあげると、つられて笑うツバキと歩き続けた。
その後しばらく歩くと、ツバキは視線の先に森を見つけて言った。
「お姉ちゃん…あれがエルフさんが住んでる森?」
キキョウは頷くと答えた。
「そうですよ!あれがエルフたちが住む森です。懐かしい…全然変わっていませんね」
懐かしいと言うキキョウにツバキは「どういう意味かな?」と首を傾げながら歩くと、二叉に別れた道に着いた2人は森を迂回する道を進んでいった。
そして2人は他愛もない話をしながら歩いていると、こちらに向かって歩く男の姿が目に映った。
その男は2人に気付くと駆け寄ってくるとキキョウを見て驚いたように言った。
「まさかとは思っていましたが、やっぱりキキョウ様でしたか…お久しぶりです」
そう言って深く頭を下げる男にキキョウが言った。
「ベル……久し振りね」
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