花粉
サイザード星から珍しい植物が地球へ持ち込まれた。
結晶ガラスでコーティングされた観賞用の植物は、持ち込まれたときにすでに蕾をつけていて、どんな花が咲くのか注目の的だった。
「淡いピンクですね。小ぶりの蕾が無数についてます。地球の花に例えたら梅とか桜みたいな感じに咲くかもしれません」
テレビの女性リポーターが報告した。
みんなが見守る中、蕾は次々と開花していった。
結晶ガラスの中で夢のように美しい花が開いていた。
「宇宙開発事業団から、民間のテレビ局へ移動しましょう!」
誰かがそう言って、みんなが賛成した。
エアカーに結晶ガラスの花を大量に載せて走行していたら、逆走車と衝突してしまった。
「みんな、怪我はないか?」
「大丈夫です。ですが…」
結晶ガラスが割れていた。サイザード星の空気が漏れて、花の甘ったるい香りがエアカー内に充満した。
「気分が…」
みんなエアカーの外へ出た。
「うっくしょん!」
「はくしょん!」
折しも、ロード沿いに杉林があって、花粉を撒き散らしていた。
「黄色い悪魔め!」
誰かが悪態をついた。
「地球の植物とサイザード星の植物には親和性はあるんでしょうか?」
「どうして?」
「サイザード星の花に杉花粉が受粉したら…」
「そんなまさか」
懸念だと笑い飛ばされた。
しかし、数日後。
新しい結晶ガラスの中へ移したサイザード星の花が実をつけ始めた。
熟した果実はとても魅力的で、人々は「あの実は食べられるんだろうか」と口々に言った。
「実験用のマウスに食べさせてみましょう」
数匹のマウスが用意されたが、じつにうまそうに実を食べて、けろっとしていた。
「私が食べてみます」
有志が名乗り出た。
「おおっこれは!」
「どうですか、美味しい?」
「うまい。味はイチジクみたいで甘い。それよりも…」
「それよりも?」
「長年悩まされてきた杉花粉症が治ったぞ!」
「ええっ!」
その後、サイザード星の花の実に杉花粉を受粉させると杉花粉症の特効薬になることが判明して、それらは重宝されることになった。