第3話 戦神
「さて、神テクノ。先程の嫉妬神の発言によると、あなたは情報を司る神であると伺っていますが、もしよろしければあなたの権能について教えていただいてもよろしいですか?」
「はい。といいましても、その名が示す通り、私の権能はあらゆる情報を任意に手に入れ知ることが出来るものです。」
「それはまあ、なんとも漠然で便利な権能ですね。具体的にはどの範囲までの情報を指すのですか?」
「人間界と我々がいるこの世界の情報ですね。ただ、情報というのはあくまで両世界に存在するあらゆるものが残した記録を指すものであって、ある特定の人物が考えていることや心に秘めていることまでは知ることが出来ません。」
「ほうほう、ほうほうほう!」
途端にミカエルの目が輝きだした。
「ということは、知ろうと思えばあのBBA神が行ったであろうあんなことやこんなことの情報も知ることが出来ると!」
「ゼッッッッッタイにやりませんからね!!なんで生まれて早々死ななきゃならないんですか!」
この天使は本当に命知らずである。というか、過去に二人の間に何か大きな因縁でもあったのだろうか。それともこれくらいがこの世界住む者たちの普通なのだろうか。そうだとしたらテクノは軽く絶望するだろう。
「おや、そうこうしているうちに最初の目的地に着きましたね。」
ミカエルにそう言われ、テクノは周りを見渡してみると
「あの遠くに見える建物は、コロッセオ・・・ですか?」
「まあ似たようなものですね。」
「あそこには誰がいるのでしょうか?」
「私の親友です。」
そう言ったミカエルの眼は爛々と輝いていた。三対の翼がものすごくバサバサしていてる。大変うれしそうである。
それを見たテクノはものすごく嫌な予感がした。こう、自分とは決して相容れない世界に足を踏み入れてしまったような気がした。
「まあ、ここから歩けば少々時間がかかるので、その間に情報の擦り合わせということで、少しこの世界の仕組みについて話しておきましょうか。」
テクノは未知についての情報を得られるかもしれないことに大いに胸を躍らせて、とりあえずこの胸のわだかまりを忘れることにした。
そう、彼は賢い神なのである。何事もあきらめって大事だよね。
「まずこの世界の構造についてなのですが、厳密に言うと神界は天国の一部です。」
「天国、ということは」
「ええ、ご想像の通り、ここには人間や動物といったあらゆる生物の魂が存在します。ただし、神界以外の世界でですけどね。」
(うん、今調べた情報によると、大体は人間たちの記した伝承通りだな。)
「ですが、そのまま放置しておくとこの世界は魂で飽和してしまうので、神の手によりそれらは循環させられます。つまり、天国ではある一定期間を経ると魂に刻まれた記憶と自我を消し輪廻転生させられます。絶え間なくね。まあ、一部例外もありますが。」
そう言うと、ミカエルは誰かを哀れむような目をした。そう、例えばブラックな企業に縛られた社畜を哀れむような目を。
「ちなみにこの例外というのは、魂に記憶と自我、特に自我が強く刻み込まれた存在のことを指します。こういった存在はたいてい人間界で英雄や偉人と呼ばれている人たちですね。」
(なるほど)
「そして、天国があれば地獄もあります。神界は地獄にも存在していて、天国と地獄をまたがって存在しています。そして、これらすべての世界をまとめて、我々は冥界と呼んでいます。ちなみに、天国と地獄の狭間には冥界・冥府の入り口があり、そこではある神の手によって魂が天国と地獄に振り分けられています。そう、絶え間なく。」
そして、ミカエルはまた別の誰かを哀れむような目をするのであった。そう、例えば働き過ぎで軽くうつ状態になり、この世の理不尽を恨みながらやけ酒をしている誰かを哀れむような、そんな目を。
「ゴホンッ、えーまた、地獄に送られた魂は、罪の重さによって神々に与えられる罰が終わり次第、順次輪廻転生させられます。っと、ちょうど目的地に着きましたね。それでは中に入りましょうか。」
ミカエルはそう言って中に入っていき、テクノもそれに続いた。
ざっとテクノが見た感じでは中世ヨーロッパ時代に建てられたコロッセオの建物の内装なのだが、細部に目を凝らすと、実に秀逸にレンガが積み上げられ、まるで一つの芸術品のように思えた。この建物を見れば、なるほど現代においてかの建物が世界遺産として指定され多くの人々から愛されているのも納得である。そして、この建物がコロッセオに似たものなのだとしたら、中で行われていることは大体予想がつく。
「歓声が聞こえてきましたね。」
「ええ、今日も彼は戦いを楽しんでいるようですねぇ。はぁ、早く私も・・・」
「ミ、ミカエルさん??」
なぜかよくわからないがテクノの背中に悪寒が走った。そして悪寒が走ると同時に徐々に足が重くなってきた。いやこれ、本当に見学するだけだよね?
「さあ、着きましたよ!!」
(なんかテンション高くないっすか?ミカエルさん。)
もうテクノはミカエルの本性について薄々感付いていた。うへぇ……
「よう、昨日ぶりだな相棒。待ってたぜ。」
ふと声のした方に目を向けると、そこには筋骨隆々の体に青銅の鎧を着込み、巨大な二本の槍を両手に持つ、男でも見惚れてしまう美男子がこちらを見下ろしていた。
「ええ、こんにちは。神アレス。」