林檎幸福論
初めての投稿です。
呼び止められて振り返るとそこには、ちいさな女の子が林檎をぎゅうと握りしめながら立っていた。おねぇさぁん。細い細い声が、助けを呼んでいた。おねぇさぁん、助けて。途方に暮れた眼差しがとても哀しかった。
ついにこの日が来たか、とわたしは曖昧に笑って、その女の子に手を差し出す。
おいで。
*
緩やかに送る日々はわたしたちを緩やかに殺しているのでは、とたどたどしく拙い単語で話す女の子の手を引いて、わたしはわたしの住居である一人暮らしのワンルームマンションに歩き出す。
緩やかに太陽が沈んでいく。もう真冬だ。女の子といえば夏物の薄い水色のワンピースを一枚来ているだけだ。やぁね、虐待?なんて言葉がちらほらと鼓膜に刺さる。
「わたしたちはいつか死ぬ訳だから、ゆっくり生きていくのはゆっくり死ぬ訳でしょう?あとねわたし、退屈は人を殺すって聞いた。だから、わたし、今も緩やかに、死んでる」
「そう。でもわたしはいま退屈じゃないから緩やかに生きてる」
「退屈じゃないの?それは、いいことね」
「このマンションがわたしのお家」
くるりとした焦げ茶のひとみで、女の子はわたしの住処のマンションを見上げる。ずいぶんと長々と見上げるものだ。ちょん、と軽く手を引っ張ったら、素直に歩き出した。薄い水色のワンピースが木枯らしにばたばたと煽られた。
わたしの住処のマンションは階数がやたらと多くて、十五階まである。しかしエレベーターがない。だから、こんな、平々凡々な社会人五年目のわたしが、十五階の部屋を借りれる。十五階まで登るのは億劫。
わたしにとってはただ億劫な階段は、女の子にとってはひどく大きな壁となる。途中からひどくゆっくりとした足取りになった女の子を、わたしは背負って十五階まで登りきった。
かちゃん、と手のひらの中で鍵が回った。わたしは鍵を持ち歩かない日々を送ったことがない。小学校一年生の頃から鍵っ子で、鍵を首からぷらんとぶら下げてランドセルを背負っていた。
「どうぞ、入って」
「ううん、わたし、他人さまのお家にお邪魔する訳にはいかないと思う」
「ああ、そうか……」
血みたいに真っ赤な夕日が落ちていく。都会のスモッグは星空を見事に殺したけれど、まだ太陽までは手を出せていない。がたんごとん、と電車の音と甲高い女子高生の笑い声。煮物の匂いと、女の子の首に巻いてあげた、わたしの赤いマフラー。
はぁっ、と女の子の口元で息が白く視覚化される。
「……その、『ヒトサマ』っていうのは、他人って意味よね」
ちょん、と女の子の手を引っ張る。
「じゃあ、わたしあなたのヒトサマじゃないわ。おいで。あったかい飲み物をあげる」
「でもね、」
「これは運命だから大丈夫」
くるりとした焦げ茶が、穴を開けようとしてるのかと疑わしくなるほどわたしをじぃっと見上げている。色素の薄い薄茶の髪は、夕日の赤がマンションの白い壁に散乱しているこの空間で、燃え立つような色になっていた。
「うん、めい」
ことん、と女の子の首が落ちそうなくらい横に落ちる。首を傾げたかった、のだと思う。女の子の顔や腕は木枯らしに吹きっさらしで赤くなっている。
「うんめいなら、しょうがないわ」
ママがよくそう言ってる。
その言葉を聞いたわたしはくらんとめまいを覚えて、しかし何事も無かったかのような顔を取り繕う。
*
しがないOL五年生の一人暮らしにある嗜好品に分類される食料品は、どうしてもお菓子類に偏ってしまっている。飲み物はといえばミルクティー、コーヒー、ダイエットにいいと先輩からもらったゆず茶。このゆず茶の味が嫌いで、かれこれ三週間ほど持て余している。
「ミルクティーとコーヒー、あとゆず茶もあるんだけど、どれがいい?」
テレビの前のソファにちょこんと座った女の子に声をかける。くるりと振り返った彼女は、こちらにぱたぱたと歩いてくる。
「うんと……ゆず茶、でいい」
「ゆず茶?ミルクティーじゃなくていいの?ミルクティー好きでしょう」
「うん、そうだけど……でも、このゆず茶、お姉さんがあまり好きじゃないんじゃないの?」
「え、あ、うん。どうして?」
「パッケージにシワと折り目がついてるし、ずっと奥にあったから……だから、お姉さんが好きじゃないから、ずっと置いてあるんだと思って。わたしが飲んでみる」
「まぁ、それでいいならそれでいいけど」
そういうと女の子はぱたぱたとソファに戻る。そうだ、たまに嫌味に感じるくらい察しのいい子だったんだ。
はいどうぞ、と差し出したマグカップを、さも国宝級の焼き物を手にしているのだというような顔つきで取り上げて、女の子はずるずるとゆず茶を飲む。
「美味しい?」
「……確かにあまり、味は」
「でしょう?」
「でも色は好き。温かい色をしている」
ちゃぽん、とわたしの手の中のマグカップで、存在を主張するかのようにコーヒーが揺れた。あまり可愛らしいものが好みではないから、マグカップは質素に感じられるような白いものしかない。
茶色の角砂糖をふたつコーヒーの中に入れる。
「……ねえ、名前は?」
わたしの声に、くるりとした焦げ茶が反応する。少しの沈黙。おそらくこの、味も素っ気もない通勤用のスーツを着た、わたしに名前を教えてもいいのかを考えてるのだ。寒い中手を引いて、美味しくない温かい色の温かい飲み物を与えたわたしに、名前を教えてもいいのか。
教えてもくれる、けど。
「……かんなぎ、はろ」
「葉露ちゃん」
くるりとしたひとみがこちらをじぃと見る。そうか名乗られたら名乗らなきゃいけないんだ。母にそう教わった。
「わたしは……ええと、みらい」
「みらい……さん」
ことん、とまた落ちそうなくらい葉露ちゃんの首が横に傾げられる。いつか千切れそう。
「じゃあ、みらいさん。今日って、何月何日ですか?」
何年、というのは聞かれなかった。何年、というのも答えなかったのをわたしは数年に渡って後悔するのだ。それを解って、わたしはあえて今、現在、何年というのを言わなかった。
「今日は十二月三十一日。大晦日」
「……わたしの今日は八月十三日なんだけどなぁ」
独りごちて、まぁいいか、と葉露ちゃんは首を戻す。とりあえずわたしは化粧を落としたかった。タイツも脱ぎたいし。
「えーっと、ごめんね、わたしお風呂入ってくるから。ちょっと待ってて」
ワンルームマンションのちいさなクローゼットを開いた。一番奥に置いてあるダンボール箱を引きずり出して、ガムテープをバリバリと破いた。中には子ども物の服が入っている。
「は、ろ、ちゃん」
「はい」
「ちょっとこっち来て」
「はい」
ぱたぱたと爪が紫に変色してしまっているちいさな足がこちらに向かってくる。
「それ、は、なぁに?お洋服?」
「そう。たぶんサイズは合ってるはず……葉露ちゃんは八歳?」
「うん。今年で小学校三年生になりました」
歳を聞かれたら学年も答える、というルーチンワークに則った口の動きを葉露ちゃんはわたしに見せる。なりました、という敬語もひどく棒読みだ。
「そうか……ええと葉露ちゃんは今、夏休み?よね?お母さんとお父さんは?」
「お屋敷です」
ルーチンワーク。お母さんとお父さんは?お屋敷です。これもルーチンワーク。棒読み。ちょこんとした正座。ヒトサマのお家には入らない。ルーチンワーク。
「そっか……とりあえずこの服でいいかな。着替え……るんならお風呂入った方がいいか。うん、葉露ちゃんからお風呂入ってきて」
「いいえ、みらいさんからどうぞ。わたしは後でも構わないので」
「ううん、わたし今からご飯作るから、その間に入ってきて。こっち」
服を適当に見繕って、わたしは立ち上がる。ダンボール箱の奥には新品の下着類も入っている。十二月の始めに洗濯してるし、このまま着ても大丈夫だろう。
お風呂には入りません、帰ります、と言わない女の子の手を引いて、わたしはお風呂場に向かう。
*
しゃあぁ、とシャワーの音がし出したのを確認して、わたしはちいさなキッチンに向かう。わたしがここにいるのにこの家にもう一つ存在がある。初めての感覚だった。
ジャガイモの皮を剥いて、細く切って水に浸けた。とん、とん、玉ねぎを切る。蕎麦は買ってきたので、蕎麦の汁とかき揚げだけ作ってしまうつもりだった。いつもの癖で玉ねぎの半分をサランラップに包んで冷蔵庫に仕舞って、ああ今日は二人分作らなきゃいけないと思いが至る。
子ども、一人分。玉ねぎの半分をさらに半分に切る。
昆布と水を鍋に入れてコンロの火を付ける。ぼんやりと眺めているうちに沸騰しだす。昆布を取り出して火を止めて、お得パックの鰹節を一掴み投げ入れる。
意外だね、マメだねー、と鰹節と昆布を買うわたしを見て同僚が目を見張りながら言ったことがある。別に、祖父母の家で育ったから、お出汁を顆粒状のそれに頼る文化がないだけだ。
それに今はもう、祖母に習ったお出汁の取り方もだいぶ端折るようになってしまっている。本当は一晩かけなきゃいけないのに、一時間程度で取るようになっている。
揚げ物用のお鍋にサラダ油を注いで、かき揚げを揚げ出す。ふぅ、とため息ひとつ。チカチカと点滅する蛍光灯のせいで頭痛がした。
ゆ、る、や、か、さ、をもって殺される。
人が緩やかに殺されていて、そこに退屈を投入されたらそれはとても致命傷なのだ。それはそれでしあわせなのかもしれない、けど。
早死したい、とずっと考えながら生きてきた。いつからだろう。確かには解らないけど、たぶん小学校の低学年の頃だと思う。それは退屈の反対である「衝撃」によって心に致命傷を負ったから、だと思う。
思う、思う、で終わる考察がぽこぽこと湧いてくる。なにも確証のない考察。考察とは呼べない考察。
かき揚げをお皿に乗せていたら、シャワーの音が止まった。思いの外長い時間の後に、脱衣所から出てくる葉露ちゃんの足音がした。もういいかな、とザルにキッチンペーパーを置いて、鍋の鰹節とお出汁を分けるためにそこに注いだ。
「お風呂から、上がった……いい匂いがする」
「今日は大晦日だからお蕎麦。お蕎麦嫌いじゃなかったよね?」
「うん」
ソファに座ってて、と言うと葉露ちゃんは素直にうなずいてソファにちょこんと座った。テレビを見てもいいよ、とは言わなかった。退屈さ、を葉露ちゃんに更に投入。
薄口醤油と濃口醤油を適当に入れた汁と、さっと茹でた蕎麦とかき揚げを二人分持って、沈黙を律儀に守るテレビの前の丸テーブルに置いた。食べよう、と言うと、葉露ちゃんはまた素直にうなずいてソファから降りて毛足の長いラグに正座をする。
「足は崩してもいいよ」
「食べたあとに崩す」
「別にそれでもいいけど」
姿勢はきちんとしていて、お箸を持つ仕草もちゃんとしているのに、葉露ちゃんはいただきます、とは言わなかった。
「葉露ちゃんは、いただきますって言わないの?」
「いただきます、は、言わなくてもいいってパパに言われたから」
「そう……」
「お箸と、正座はちゃんと出来ないと笑われるんだって。だから出来ないとご飯がもらえないの」
「……冷めるから食べよう」
ずるずると蕎麦をすする音がワンルームのわたしの住処に響いた。食べ終わったら、七時半頃だった。葉露ちゃんを拾ったのが五時半。この子と一緒に二時間、緩やかに殺されている。
「あれ、葉露ちゃん、林檎は?」
「……どこかに行っちゃった」
「あらら……」
「……いいの。大切なものじゃなかったし。あのね、わたし、家に帰る」
「うーん……」
視線を落としたら、葉露ちゃんの崩された足が見えた。お風呂に入ってやっと綺麗な桜色の爪に戻っていたのに、正座していたせいでまた少し青くなっている。紺色のワンピースは葉露ちゃんの顔色を青白く見せる。
「夜遅いし、泊まっていけば?」
うー、と葉露ちゃんは唸る。迷っている、のだと思う。緩やかな思考。退屈。憂鬱。緩やか。
「……泊まって、いく」
葉露ちゃんの返事に、わたしは緩やかに笑った。
*
ぴっちょん、とゆっくりと雫が洗面器の中の水の中に融合していった。それをタイル張りの風呂場の床に全部捨てて、わたしは狭い脱衣所に出る。
ワンピース型のパジャマを着て、ドライヤーで髪を乾かした。生まれつき色素の薄い、薄茶の髪がばたばたと暴れた。鏡からこちらをじっと見てくるのは焦げ茶のひとみだ。
ゆ、る、や、か、に殺される、感覚。
と、いうのを、わたしは確かに知っている。真綿の拘束よりぎちりと苦しく、鎖の拘束よりふうわりとしたものだった。引きちぎるにはあまりに硬くて、放っておくには存在が強すぎた。緩やかさ、というのは時に罪である。
ソファに横たわっている葉露ちゃんに毛布を何枚かかける。しばらくしてこの子が起きたら、ベッドまで連れていくつもりだった。起きなかったらこのまま。抱き上げられるか、と言われたらだいぶ不安だから。
ラグの上にぺたんと座って、わたしはテーブルに頬杖をつく。マグカップの中には夕方飲み終わることが出来なかったコーヒーがある。飲む訳にはいかない、と、思う。きっと頭痛がするほど苦いから。
テレビはやはり付けなかった。付けられなかった。眠たくてしょうがなかった。葉露ちゃんがすぅすぅとちいさな寝息を立ててるのに耳を傾けているとうとうととまぶたか落ちてくる。悪夢を見そうな息苦しさと緊張感があった。悪夢を、見るだろう。
炎天下のあの日を見るだろう。
*
わたしのママ、というのはなんだかよく解らないお呪いと儀式と、運命、という単語を固めたらだいたいそっくりが出来る。
わたしのパパ、というなはなにも固めなくてもいい。長い長い単身赴任と単身赴任の狭間に一瞬だけお家に来て大抵次の日にはいなくなるから。
というような内容の作文を、学校の授業で読み上げたことがある。一時間目と二時間目の授業で作文を書いて、三時間目の授業参観で発表しよう、という授業だった。しん、と空気が固まったあとに、ほら、寒凪さんちの奥さん、「そういう」宗教にハマっちゃってるから……というささやき声が聞こえた。
その当時仲の良かった友だちがわたしを心配そうに見てきた。わたしはたぶん、ことん、と首が千切れそうな動作で首を傾げた。だって、本当のことだものね。しょうがないよ。
名簿順で発表ね、と言ったことを後悔してるであろう先生が可哀想だった。この空気はどうすればいいの、と言いたげな顔。寒い凪と書いてカンナギ、と読むわたしの出席番号は十一番目。
山田、とかだったらたぶんわたしまで順番が回らないで授業が終わったのに、ね。
ごめんなさい。
そんな授業の約一ヶ月後、わたしは「お屋敷」という場所に連れてこられていた。山奥の大きなログハウスをお屋敷、と呼ぶのは違和感があったけど、母がお屋敷と呼ぶので、それに従っていた。
一応父も来ていたのだけど、二日後には仕事だから、と言っていなくなってしまった。少しだけほっとした顔をしたのを、わたしはじっと見詰めていた。一緒に帰ろう、と言わないで、仕事だからママと一緒にいろよ、と振り返りもせずに言った父を、じっと見詰めていた。
おそらく父にとってこの場所は父の常識にはない異端の場所だったのだろう。その中で崇め奉られているカミサマも、それを崇めている母も、異端。その状況を、しょうがないね、で諦めているわたしも異端。
「パパぁー……」
一応、小声で呼んだ。なんだ、とここで聞き返されたら、わたしはお家に帰るもしくは祖父母の家に行きたい旨を伝えるつもりだった。しかし父はちょうどかかってきた電話の対応に忙しそうで、気付くことはなかった。
ゆ、る、や、か、な侵食。
八月の中旬、お昼の十二時頃。太陽がギラギラと照っていた。タクシーがなかなか来なくてイライラする父の影がゆらゆらと揺れていた。夫である父の見送りにも来ない母のことをわたしは思い出していた。
十二時頃、というのは母の信仰するカミサマにお祈りを捧げる時間である。だから母は来なかった。
「おっ、やっと来たか」
ぶるるるる、と苦しそうな音を立てながらタクシーがやって来た。大荷物を抱えた父が手を振る。
「ねぇパパ、」
「じゃあ葉露はちゃんといい子にしてるんだぞ」
「……うん」
自分の影をじっと見つめた。父がタクシーに乗り込む音がした。首筋がじりじりと太陽に焼かれた。ぶるるるる、とタクシーが走り去る。あまりに暑かったのでわたしは木陰にてくてくと歩いた。
なんだかとても死んでしまいたかった。
死にたい、という言葉の軽々しさをとても嫌っていたのだけど、わたしは確かにとてもとても死にたかった。あーあ、とため息をついて木の根本に座り込んだ。
母がわざわざわたしを迎えに来るはずもないのに、わたしは母を待った。
母が「そういう」宗教にハマってしまったのは、実のところわたしのせいであった。色素の薄い薄茶の髪と焦げ茶のひとみ。青白く見えるほどわたしの肌は白い。初対面の人に外国人に間違われるほどに。
親戚の人はお人形さんみたいで可愛いねと言った口で親戚の誰にも似てないと影で言い、父は母の不義を疑った。色素の薄さを抜けば父の顔立ちにそっくりよ、と言ってくれたのは父の祖父母だった、けど、父は彼の両親の言葉を信じられなかった。
母の不義は、実現不可能であった。母はひどく引っ込み思案で、ほとんど外に出ない人だった。引っ込み思案という言葉はまだオブラートに包んだ方と言ってもいいほど。たぶん、心療内科を受診したら対人恐怖症という診断が出た可能性が高い。
わたしが生まれる前は、たぶんそんなにひどくなかったのだと思う。わたしを連れて歩く度に、外国人かしら、ハーフかしら、と声をかけられるせいで酷くなったのだと、思う。
そんな母が浮気なんて出来ようはずがあるだろうか。
いつの間にか父は単身赴任で忙しくなって、母は捨てられたと夜中までずっと泣いていたのをドアの隙間からじっと見詰めていたのをよく覚えている。廊下の黒々とした闇とフローリングの冷たさ。闇と一緒にわたしを切ろうとしているのかとよく思った、ドアの隙間から漏れる光。テーブルに突っ伏してすすり泣く母。
そんな生活の中で母は優しい人々と出会った。その人々が母からお金を騙し取らなければ、どんなに良かっただろうとわたしは思う。
「な、か、な、い、で、」
ゆっくりと目をつむる。じりじりと地面が焼けていた。なかないで、泣かないで。母に言いたかった言葉。わたしもう泣いてしまいたいからあなたが泣き止んでよ、笑ってよ。諦めたくなかったよ。
な、あ、ん、て、ね。
しばらく目をつむっていたら、いつの間にか寝てしまったのだと思う。ぶるるるる、という音に目を開くと、今さっき父を乗せていったタクシーが走ってきたところだった。
「……あれぇ?」
ことん、と首を傾げると同時にタクシーがわたしの目の前に止まった。どうしたのだろう。反動をつけて立ち上がって、タクシーの元に歩いていった。タクシーの運転手さんだけが乗っているのを見てなにかに落胆して、その後真剣な顔をしながら運転席の窓を開けたタクシーの運転手さんをじっと見つめた。
「お嬢ちゃん!」
「はい、なんですか?」
「お嬢ちゃんもここの近くの……ええと、『お屋敷』?とやらにいるのかい?」
「わたしじゃなくて、ママがいるの」
「ああ……」
タクシーの運転手さんはなにか納得したような顔をした。後から知ったのだけど、母が信仰していたあの集団は、子供のいる家庭を狙っていて、子供から洗脳することによって組織にとって便利なモノにしていた……とか。
「お嬢ちゃん、このタクシーに乗せてあげる。こんなところじゃなくて……お嬢ちゃんのおじいちゃんおばあちゃんは?どこに住んでるんだい?」
「ええと……」
とても優しい人だ、と思った。
涙が出そうなほど優しい人だと思った。
「あのね、葉露はねぇー……」
「遠慮はしなくていいから。さあ、乗って」
ばこん、とタクシーの後部座席のドアが開いた。こっちにおいで、と言われた。こっちは優しい世界だよ、おいで。ちいさなあなたくらいなら乗せていけるから。
ばん、と後部座席のドアを閉じた。
わたしは炎天下の中に、やはり立っていた。
「あのね、葉露はね、ママとずっと一緒なの」
「お嬢ちゃん、」
「ママが笑顔でわたしに言ってくれた唯一のやさしい言葉なの。守ってあげなきゃ、可哀想でしょう」
ばいばい、と手を振ったら、タクシーの運転手さんはとっても哀しそうな顔をした。
「それなら、しょうがないか……そうだ、これをあげる」
「……りんご」
「今日乗せた人がくれたんだ。せめてこれだけでももらっておくれ」
「……ありがとう……」
ことん、と手のひらのなかに林檎が落とされた。ずしりとするひんやりとした林檎を撫でた。優しさの結晶、だと、思った。
「ありがとう。またね」
ばいばい、とまた手を振った。ぶるるるる、とタクシーが走り去った。あーあ、後悔、とタクシーの排気音に混ぜて言って、わたしはまた木陰に向かった。そこで林檎を食べようと思ったのだ。
ふわん、と水色のワンピースが暑い風に揺れた。上の服とズボンかスカート、と服を着ることが難しくてなかなか出来なかったわたしを疎んで、母と父はわたしにワンピースしか与えてくれなかった。
さっきの木陰に座ったわたしは目を瞑った。夏の長い昼は、そろそろ夕方になるころだった。
ひゅう、と冷たい風に驚いてわたしは目を開いた。
冷たい、風、冬、の、川原。
驚いて立ち上がって、さぁさぁと流れる川を見て、大慌て林檎をぎゅうと握りしめながらずるずると後ずさった。わたしは、きょろきょろと辺りを見渡した。山は、暑さは、太陽は、ママは、ねぇ、どこなの!
ひゅうひゅうと吹く木枯らしに負けて、わたしはその場にぺたんと座り込んだ。林檎だけを抱きしめて、ぜっ、ぜっ、と次第に過呼吸の気配を帯びてくる呼吸を数えた。目を瞑って、ゆっくり立ち上がって、わたしはその道をとぼとぼと歩いた。
ふい、とその後ろ姿に目線がたどり着いたのは、たぶん、母の言葉を借りると、運命。
「……おねぇさぁん……」
この人は、振り向いてくれる、かしら。
「お姉さん、助け、て」
素っ気ない紺色のスーツを着た女性は、わたしを見て少し曖昧な笑い方をして、それを見たわたしはなにかを納得した。おそらくその笑い方が自分にそっくりななにかを諦めた笑い方だったから、わたしは何故かとても素直に、ああこの人未来の自分だわ、と思ったのだ。
そしてその人は、わたしに手を差し出した。
「おいで」
わたしはそのとき初めて、誰かと手を繋いだ。
*
ゆらゆらと揺さぶられて、わたしは目を開いた。
「ん、……どうしたの、葉露ちゃん。ごめんね、寝ちゃってたね」
「あのねわたし、帰ろうと思ったの」
「あー……」
「わたし、わたし、ママのところに行かなきゃ」
葉露ちゃん、つまり過去からやってきた過去の自分をわたしはじっと見詰めた。あーあ、なんて痛々しい覚悟の顔をしてるんだろう。そんな、顔をしないで、哀しくなるから。
「葉露ちゃんはママのところに帰るの?なんで?あの人なんにも葉露ちゃんにしてくれないじゃない」
「うー……ん、でも、ね、ママはたまにやさしいよ。わたしにママと葉露はずっと一緒って言ってくれたよ。ママも、たまには誰かにやさしくしないとつらいのよ。その時のためにわたしがいないと」
「葉露ちゃんはつらくないの?」
「だってこれが当たり前なんだもの」
しょうがないでしょう?
何度も自分が口にしたこの言葉を改めて聞くと、なんとも心が痛くなるだろうととても不思議に思う。口にする本人は対してなにも思っていないのに、聞いてる側としては、ただただ哀しくなる言葉だ。
いや、たぶん、言ってる本人がなにも思ってないから哀しいのだけど。
「そしたら、しょうがないねぇ。準備しよう」
しょうがないので葉露ちゃんの言葉を借りて諦めて、わたしは立ち上がる。カーテンを開けると初日の出が昇るところだった。眩しかったので目をそらして、わたしは、過去の自分が出会った未来の自分がわたしになにを準備してくれたかを思い出す。
いや、そんな手順をしなくても、今日この日の記憶は何回も何回もトレースして、なにを準備してあげるのか、どんな言葉をかけてあげるのか、決めている。
またクローゼットの奥のダンボールから、大きなリュックサックを取り出して、わたしは冷蔵庫の方へ向かう。大晦日の頃には、過去の自分が来たときのために取っておいた子供用の服を洗って準備をする。過去の自分を返すときのために食料と飲み物を買っておく。
いまは何年ですか、とわたしが聞かなかったせいで過去の自分がいつ来るのか解らなくて、ただ解っているのは大晦日にわたしはみらいさんに出会った、ということだけだったので。
「あの、あの、みらいさん」
「なぁに葉露ちゃん」
葉露ちゃんに返事をしながら、冷凍庫から凍らせたスポーツドリンクを取り出す。二リットルの、大きいやつ。
「なんでそんな、飲み物とか食べ物を準備しているの」
「ああ、そうか」
ごとん、と床に置かれたペットボトルが重たい音を立てた。床にぺたりと座ったわたしは、同じく床にぺたりと座っている葉露ちゃんの頭を撫でた。
「葉露ちゃん、昔に戻るんでしょう?」
「うん……」
「あっちは、大変だから。準備しないといけないの」
ことん、と首を傾げた葉露ちゃんは、そのままこくりとうなずいた。そう、この先自分がどんな風になるのかはこの目の前にいる未来の自分が知ってる訳だから、従うのが一番正しい。そんなことを思ったのを、思い出す。
大きなリュックサックがぱんぱんになった。
太陽はすっかり昇りきっていた。疲れちゃったなぁなんて思いながら、立ち上がる。またクローゼットのダンボールまで向かって、そこで葉露ちゃんに手招きをした。
「おいでよ、葉露ちゃん」
「はい」
「ここに座っててね」
「はい」
ことんとまた首を傾げる葉露ちゃんを床に座らせる。ああ、ソファの方が良かったかなぁ。今更か。洗面所に向かってコームとハサミとタオル、霧吹きを持ってくる。
「……なにするの、みらいさん」
「みらいさんって呼ばれるの、意外と違和感あるよねぇ。髪の毛切ろうよ、葉露ちゃん」
かみのけ、とオウム返しをする葉露ちゃんは、ちょっとだけうつむいて、すぐに顔を上げた。
「みらいさんが切ってくれるの?」
「うん」
「なら、いいよ」
きちんと正座をした葉露ちゃんに足を崩すように言って、葉露ちゃんの後ろにわたしは座る。薄い肩にタオルを広げて、床はフローリングだから後で掃除すればいいこととして、わたしは葉露ちゃんの薄茶の髪の毛に霧吹きで水を吹きかける。
ちゃきちゃきとハサミを動かす。その度にミルクティみたいな色の髪の毛がぱたぱたと床に落ちた。
「……ねぇ、みらいさん。あ、みらいさんって呼ばない方がいいの?」
「うーん、まぁいいよ、ここまで来たら。なぁに、葉露ちゃん」
「その、自分の名前に『ちゃん』って付けて呼ぶの、違和感なぁい?」
「あるよぅ。大丈夫、いつかあなたも呼ばなきゃいけないんだから」
「そっかあ、そうだよね。やっぱりみらいさんは未来の自分なんだ。ねぇ、これは変なことよね」
「そうだよ変なことだよ。でもいいじゃないの、あなたのママだって変だし、その娘だって変に決まってる」
「そうだねえ。……ねえ、あのね、クラスの友達がいつもママに髪の毛切ってもらってたの。うらやましかったの、覚えてる?」
「覚えてるよ」
ちゃき、とハサミの音がする。
「よく、覚えてる」
「そうだよね」
葉露ちゃんの語尾が揺れた。むちゃくちゃに目元をこすり始めた葉露ちゃんの手を後ろから止める。
「やめた方がいいよ、赤くなるから」
「……う、ん」
「泣いちゃだめなんてことは言わないから。泣いてもいいよ。でもあまり頭動かしたら髪の毛変に切れちゃうから気を付けてね」
返事の代わりに嗚咽が返ってきた。わたしはこの時、未来の自分の前に座っているこの時、生まれて初めて人前で泣いた。未来の自分の前が人前と呼ぶのかは解らないけど。
肩甲骨まで伸びていた髪の毛を肩に付かない程度まで切りそろえたところでハサミを止めた。その頃には葉露ちゃんは泣き止んでいた。
「葉露ちゃん、着替えようか」
「……うん……」
「あはは目ぇ真っ赤。うさぎみたい」
ぷぅ、と膨れた葉露ちゃんを立たせて、クローゼットの奥のダンボールの一番奥から最後の服を取り出した。背面にボタンのついたワンピースだ。
「本当は上下わかれた服がいいんだけどねー。ワンピースじゃないと流石にちょっと後々面倒だよね」
「めんどう?」
「いや、ううん」
薄い生地の白い長袖のシャツを着せてから、ワンピースを着せた。長袖のシャツは大人になってから買ったものだ。背面のボタンを付けてあげていると葉露ちゃんがぽつんと言った。
「わたし、こんな風に誰かに手伝われないと着れない服、久しぶりよ」
「あー、そうか。……たくさん欲しい服あったのにね。後ろにチャックあるとママが手伝ってくれないと着れないものね」
「うん。そういうの、は、買ってくれないから」
わたしたくさん欲しい服があったのに。葉露ちゃんの言葉を聞きながらわたしは最後のボタンを留めた。欲しい服。後ろにチャックがあった可愛いワンピース。好きなキャラのTシャツ。動きやすそうなズボン。
たくさん欲しい服があったのに。
「大丈夫よぅ、自分で選べるときが来るから」
「だって、みらいさんもワンピース着てるから、ずっとワンピースしか着れないんじゃないの」
「ううん、ワンピースが楽なだけ。ほら、洗濯物少ないから。よし出来た。さ、葉露ちゃん、帰ろ」
わたしは葉露ちゃんの手を引いて、葉露ちゃんを哀しみの方へ連れていく。
*
葉露ちゃんを拾った川原まで、葉露ちゃんと一緒に歩いた。元日の今日は非常によく晴れていて、寒かった。わたしのジャンパーを着た葉露ちゃんは、髪の毛が短くなったせいで首がすぅすぅする、と呟いた。
「すぐに慣れるよ」
わたしはそんな事を軽々しく言って、おいで、と言葉を繋げた。リュックサックを葉露ちゃんに渡して、道端でわたしは葉露ちゃんの前に膝をつく。冷たくなった葉露ちゃんの手を握りしめると、葉露ちゃんはとても静かな顔でわたしを見下ろした。
「葉露ちゃん、あのね、もう少ししたら戻るんだけどね、あちらは土砂崩れが起きてるの」
「どしゃくずれ」
「そう。わたしが、葉露ちゃんがいた辺りはあまり酷くなかったようだけど、でもお屋敷はぐちゃぐちゃになってて、」
「ママは死んだの?」
きゅっ、とわたしは唇を噛み締めた。予想してたこと、解ってたことでしょう、この質問をするのは、紛れもない、自分でしょう!
「ママは死んだよ」
「……」
「葉露ちゃんはこっちに来る前にいた……パパのタクシーを待ってたところ、あそこに戻るの。それで、休んだところがあるでしょう?あの木からまっすぐ登ったらすぐにちいさな小屋があるから、その中に入って。三日経ったら、消防士さん達が助けにくる」
「……ママは助けにきてくれないのに?」
「葉露ちゃんは助けてくれるよ」
「わたしのことは、助けてくれるの……」
「そうだよ」
ばさばさとわたしの髪の毛が北風に暴れた。ミルクティみたいできれいな色だね、って言ってくれたのは、高校で出来た、親友と呼べる人。小学校の頃の友だちはもう疎遠だ。
でも、あの時、心配してくれたのは、嬉しかったんだ。
「いい、葉露ちゃん。パパはママが死んだらすぐに離婚の手続きをする。葉露ちゃんのことは引き取ってくれるけど、パパのおじいちゃん家に住むことになるよ。大丈夫、おじいちゃんとおばあちゃんはやさしいよ」
かなしまないで、という言葉をわたしはとても簡単に言える。
「強く生きるの。うつむいたっていいし、転んだっていいし、泣いたっていい。でも生きるの。必ず生きて。じゃないと次のあなたを助けるわたしがいなくなるから。あなたを殺さないで。必ずあなたを生かして」
「……なんで、みらいさんが、そんな痛いような、顔をしてるの。変なの」
「だってわたしは、しあわせ、だから」
笑おうと思ったら頬が無様に痙攣した。
「でもあなたをしあわせには出来ないの。ねえ、しあわせに、生きてね」
「当たり前でしょう。わたしもいつかわたしを助けないと。ご飯を作ってあげて、服を選んであげて、髪の毛を切ってあげて、わたしも、わたしをしあわせにするの」
葉露ちゃんの冷え冷えとした感情の薄い瞳が静かに閉じられた。ああ、目をつぶってしまった。
「わたしもしあわせになりたいわ」
冷たい手のひらを丁寧にわたしの手で包んだ。ああ、ああ、ああ、胸が痛い。
「葉露ちゃん、暑くても長袖は脱がないでね。山の虫は厄介だから。ペットボトルにたくさん飲み物入れたから、ちゃんと飲んで。食べ物も四日分入れたから、だから、ちゃんと、助かって、ね」
「もちろん。しあわせにならなくちゃ」
薄く笑う葉露ちゃんを見てられなくて、わたしは目を瞑る。しばらくしたら葉露ちゃんは目を開くだろう。わたしのミルクティ色の、色素の薄い髪の毛が風に煽られて葉露ちゃんの視界を奪って、
次の、
瞬間には、
夏の暑い山に、
戻っている。
*
葉露ちゃんのちいさな手のひらが自分の手のひらの中からなくなってからわたしは目を開いて、葉露ちゃんが今さっきまでいたところに落ちていたわたしのジャンパーを拾って家に帰った。
昨日から数字が変わった電子時計のカレンダーを横目に、わたしは美味しくない、温かい色の飲み物をマグカップの中に作り上げる。今日からわたしはまた三百六十五日を埋めていくのだった。
目的もなくなって、
長く長く待った待ち人もなくし、
あと、は、
ゆ、る、や、か、に、
生きていく。
柑橘の匂いを部屋の中に拡散させているマグカップをテーブルに置いて、わたしはソファの下を探る。赤い球体が出てきた。平仮名三文字がマジックペンで書いてある林檎だ。
「お、れ、い」
口に出して文字を読み上げる。机の上に転がっていたマジックペンで、ありがとう、ではなく、お礼、と書いた幼い自分を思い出す。
葉露ちゃんにはたくさん話していないことがあった。
林檎をじぃと見詰めていたら、くらん、とめまいがした。目をつむると目裏に赤色がちらついた。ソファにだらしなくもたれる。
「あ、の、ね、葉露ちゃん、」
この林檎は実はパパがタクシーの運転手さんに渡したものだとか、本当はパパがタクシーの運転手さんにわたしを祖父母の家に送るよう頼んでいたとか、
「ちゃあんと、あなた、愛されているんだから」
わたしが救助された時に見たあんなに頑なに向かった単身赴任先に行かずにずっとお屋敷の近くの街にいた父の、なみだ、とか、
タクシーの運転手さんの、なんであの時あんなに哀しそうな顔をしてたのに連れていけなかったんだろう、という、言葉、とか、
父と母、両方の祖父母のあたたかい手のひらと痛いくらいに抱きしめられた感覚、とか、
「あなた、知らなくちゃ、いけないんだから」
病院に搬送された母の最期の、あなたが助かって良かった、という、言葉、も。
「あなたが、知らないと、いけないんだから」
静かに目を開いた。笑顔を作ろうとして、また失敗した。ばたばたとなみだが溢れた。誰に対して、なんに対してのなみだなのだろう。ああ、ああ、ああ、胸が痛い。胸が痛い。林檎の赤が滲む。
生きていくことがゆるやかに死ぬことなら、
わたし達は死にゆく過程でしあわせを見付けているのだった。
あの子が、やさしさの結晶を、手放せないほどに、しあわせになりますように。
今はもうこの林檎を誰かにあげられないわ、とわたしは呟いて、林檎の皮を剥くためにキッチンに立ち上がった。
Fin.
はじめまして、天藍と申します。普段はE☆エブリスタというサイトの方で文字を書き散らしています。
まったくシステムがわからないのですが、極まれにこちらでも書き散らすのも楽しいんじゃないかな、なんて思ってます。とりあえず投稿がよくわからないのからどうにかしよう。
どうぞ、以後見知りおきを。