第弐幕・迷路樹へ
だが、その様な怯えは杞憂に終わった。
一週間後に始まった他の部隊との“合同訓練”では銃の使用や、何処かに長けた人物が有利なものでは無かったのだ。
反逆霊の使用の仕方だった。
説明が遅れたが、反逆霊は国軍に入るものしか契約できない。高等科学校の入学時に総合科、若しくは兵学科(武器の使用などを中心とする学科)に入る者に契約の権利が与えられる。
契約後は一度、軍へあずけられる。
そして、軍の所属が確定した時に返却されるのだ。
「反逆霊は此処では使えない」
そう言ったのは、王舟という訓練を担当する人物だった。
「此処の外、即ち迷路樹が支配する地のみで使用が可能だ」
迷路樹とは第三次世界大戦終結後、生き残った人間が住む地域の外に突如として現れた樹木だ。
名の通り、森は迷路の様に入り組んでいる。
しかもただの樹木ではない。
成長が早く、一年で大木に成長してしまう樹木だった。
この迷路樹は霊が生きることが出来る“白水”が流れており、この木がなければ霊は消滅してしまうので、霊はこちらにはやってこないそうだ。
「お、王舟先生。では、反逆霊は何故消滅しないんですか?」
第三部隊に所属する少年が聞いた。
「簡単だ。我々の生命で生きているからだ」
その場にいた者が全員驚いた。中には驚きのあまり、声を出す者もいた。
「だが、寿命が減る訳ではない。共有しているのだ。だから、我々が死ねば霊も消滅する」
その様な説明の後は各部隊に別れ、部隊長から霊の使用の仕方を習う。
「契約した時に分かるだろうが、霊には“属性”が存在する」
朽無が言った。
「属性により、操れる力が変わる。例えば私は、火属性だから火を操ることが可能だ」
だが、と朽無が続ける。
「この霊の力はあくまでも、有利に戦える様にするための物だ。基本的にはお前らが学んだ戦闘術が主だ」
「戦闘術━━」
隼風がそう呟くと、「ああ」と朽無が返事をする。
「これから、外へ行く。二人ひと組になってくれ」
朽無の指示で、結局隼風は、話したことのない同級生、句蔭と組むことになった。
句蔭は短髪で浅黒い肌をした人物だ。
「あの...宜しく」
隼風の言葉に句蔭は「宜しく」と無愛想に答えた。
隼風達は、電気網が張り巡らさらた生活区の端に来ていた。
「ここから先、お前らが暮らす場所とはかけ離れた所だ!絶対に馬鹿な真似はするな!」
扉を前に、王舟は怒鳴った。
扉が開いた。
其処には、人間の手が一切入っていない原生林のような、迷路樹の森が広がっていた。
【続く】