第壱幕・異端児の第八部隊
「...名前は?」
「は、隼風です。」
「音更高等学校・総合科、志願兵。
刀の階級は濃霧。訂正、あるか?」
「い、いえ、ないです」
「そうか。なら、お前は第八部隊だ。この施設の第八会議室へ行け」
「は、はい。有り難うございます」
八月十五日。
詰襟を着た少年━━隼風は十六歳の高等学校生だ。
先日、三ヵ月前から志願していた国軍にようやく入ることが出来た。軍と言っても霊を追い払う程度の守護兵の様なものだが。
「えーと...第八会議室は...三階の端か...」
隼風は少し早歩きで歩き始めた。
先程、“音更高等学校・総合科の所属”と係員が言っていたが、この場での総合科は“半学生”“半軍人”を意味した。
勉強をしながら、銃の扱いなども習う。それが総合科だ。
ところで、その隼風は気になったことがある。それは係員が言っていた一言だ。
“あの異端児のとこに配属とは運がねぇな”
「...さっき言っていたのは一体...」
隼風はそれが気になり、少し不安になってきていた。
異端児。
何が他の人と“異なる”のか。
隼風はそんなことを考えながら階段を上っていた。
余談だが、この施設は洋館の様な作りになっており、エレベーターなんて付いていなかった。
何度も繰り返し頭の中で“異端児”という言葉が繰り返された。
「あ、あった」
第八会議室の前へ着くと、隼風はノックをし、「失礼します」と中へ入った。
中は随分あっさりした部屋だった。
大きなテーブルがあり、それを囲うように椅子が置いてあった。既に六人程座っていた。
「お前で最後だ」
テーブルの1番奥に座っている青年が言った。
「そこの椅子に座れ」
随分命令口調だな、と隼風は思いながら言われた席についた。
「...全員が揃ったところで、第八部隊について少し話そう」
青年は席を立った。
「私の名前は朽無だ。第八部隊の部隊長を務める。年齢は十九歳だ。覚えていていてくれ」
三白眼が特徴的な朽無は、先程言われていた“異端児”には程遠い様にも見え、限りなく近い様にも見える、何とも言えない人物だった。
朽無は手元にある、プリントに目を落とした。
「數瀬は何処にいる?」
顔も上げずに朽無は言った。
「あ、私です」
返事をした少年は童顔で、色白な人物だった。
「數瀬 祈夜音。
飛び級制度で三年前に高等科学校を卒業。年齢、十七。合っているか?」
「はい。合っています」
「座れ。次、眞糸は何処だ?」
「俺です」
次に返事をした少年は、眼鏡をかけた何処にでもいそうな人物だった。
「眞糸 犹賀。
現役大学校生。専攻は情報。年齢、十九。合っているか?」
情報━━俗に言うスパイの機関のことだ。
隼風は少し意外だな、と心の中で呟いた。
「合っています」
「座れ。次、亥月は何処だ?」
「ぼ、僕です。」
今度は気弱そうな、おどおどした少年だ。
「亥月 槙。
現役高等科学校生。学科は...ん?お前、本当に高等科学校生か?」
朽無は目を細めながら、亥月に聞いた。
「そ、そうですけど...それがどうかしましたか?」
「高等科学校生は三人と聞いている。
それに、これから呼ぶ三人はちゃんと制服を着ているが、お前は着ていないだろう?
それを踏まえて、もう一度聞く。
お前は本当に高等科学校生か?」
亥月は朽無から目をそらした。そして...
「いやぁ...そこまで情報があったとは...。
予想外だったなぁ...」
先程までのおどおどした、気弱そうな少年は何処へやら。
今、亥月と呼ばれている少年は別人の様になっていた。ヘラヘラした、何となく他人を必要としなさそうな人物、そう捉えられた。
「亥月 槙。
ここに来る前は、とある暗殺機関にいましたよ。年は十七。これが本当のプロフィールです。差し替えてみたんですけど...一発でバレましたねぇ…」
亥月が言った。
「その様な、他人を騙すようなことが得意みたいだな。まぁ。いいだろう。次━━」
先程、各メンバーのプロフィールの確認が終了した。
そして、これからのことの説明などが行われ、解散となった。
結局、何故、朽無が“異端児”と呼ばれているのかは隼風には分からなかった。
だが、わかったことが幾つかあった。先程あった、交流時間で会話してわかったことだ。
一つは、この場には少々変わった人物が多いこと。
「暗殺機関にいた」と言う、亥月もそうだが、最初に呼ばれた數瀬は実は女だった。その様な人物に、溢れていたのだ、第八部隊には。
そして、皆が、銃などの武器を使いこなすことが出来るということだった。
隼風は既に不安を通り越し、怯えていた。
自分がこの様なところにいて、いいのかと。
そんな不安を覚えつつ、隼風は帰路へついた。
【続く】