99 基本に帰れ
初手の操作は三枚。残り、12回。
それでも。
「先攻はオレだ。プラグして『ギルドのベテラン』を召喚する」
尭史の顔はかえって、自信に満ちていた。
(それじゃあローナ、そしてアンネ。頼むぜ!)
カードが場に出るとほぼ同時、スオウの眼が光ったのをジェローナは見た。
「僕のターン。プラグのみでドローゴーですん」
「白々しいじゃんか、焔村。さっきまでのが素じゃないのか?」
「さて、なんのことでしょん。スオウにならともかく、あなたにまで腹を割って話す気はありませんよん、鮎川サン」
「その言葉は随分、本心ぽいんじゃないか! ドロー、プラグだ!」
調子よく言い放ったときにはもう、『ギルドのベテラン』の正体は判らない。
(あー……これもう判んねえな。別のカード出したのは確かなんだけどな)
なんの能力もないコモンカード、『我慢男爵』。
ジェローナ共々、そうとしか見えなくなっていた。
(判らなくなることが判った上での一手だったんでしょう? 自分の判断を信じましょう)
「ああ。『死ノ杜の走狗、トコヤミ』を召喚。手札を一枚選んで捨てろ」
「今度はメガハンデスで来るつもりですかん」焔村の手札が五枚になる。
「さあ、どうかな。『男爵』で本体殴ったら終わりだ」
「プラグのみでエンドです」
(じゃあ、やるぜ、ローナ。手筈通りに)
(ええ。やりましょう)
ジェローナの眼がまた、光る。
「『源三位の狩衣』……確かに嫌な能力だよ、焔村。スオウもな。けど能力は能力だ」
三枚のFmを傾けて、尭史は一枚のカードをテーブルに運ぶ。
「デッキと一緒。相性もあれば弱点もある。その答えは伊豆浜さんと同じだったんだ」
そしてゆっくりと、手を離した。
『悪魔の応酬』(黒)(2)
エポック
このカードが場に出た時、各対戦相手は手札を二枚選んで捨てる。
「否定はしませんよん。この手のデッキは、手札を削られると脆い」
言いながら焔村は、ゆっくりと手札のカードを引き抜く。
「だからこそ全力で止めますん」
そしてくるりと裏返す。
『足軽の陥穽』(青)(1)
スプレー
点数で見たコストが奇数である顕現を一つ対象とする。それを打ち消す。
打ち消しに成功した場合、あなたは系譜カウンターを一つ得る。
「どうもできないでしょん。『悪魔の応酬』は無効だ」
「まさか。できるじゃねえか」
「……何を」
「このカードの効果を発動する」
とっ、と指で叩いたそれは――『我慢男爵』。
「それはバニラですよん、鮎川サン。よく見てください」
「顔が引きつってるぜ、焔村。もう一度言う。このカードの効果を、発動する!」
『我慢男爵』にしか見えないそれを、自ら墓地に置く。
焔村が小さく舌打ちしたかと思うと、それはたちまち姿を変えた。
『ギルドのベテラン』(青)
プログレ――ドワーフ / 職人
他の種族: 機械が場に出るたび、このカードはターン終了時まで BP+1000 / HR+1 される。
このカードを生け贄に捧げる: 対戦相手の顕現一つを対象とする。そのコントローラーが(X)を支払わないかぎり、それを打ち消す。Xは、このカードのHRに等しい。
BP1000 / HR1 / RV (種族: 機械)
「どうして……判ったんです、のん。『狩衣』は成功したはずだ」
スオウも口をあんぐりしている。
「ああ、オレもローナも、『ギルドのベテラン』には全く見えてなかったよ。だからカード名じゃなくて、このカードとしか呼べない。それでも効果の発動をハッキリ宣言すれば、審判とルールの事情からもみ消しはできないと読んだんだ」
「バニラにしか見えないカードの能力を、タイミングよく発動できるわけがないでしょう!」
「素とキャラがごっちゃになってるぜ、焔村」
尭史はニヤニヤする。
「まあそこは、秘密だ」
(本当に、上手く行ったわね)
ジェローナのふとした思いに、アンネシーラが反応する。
(ええ! 全部、事前の読み通りになったみたいですね! すごいです!)
(あなたのおかげでもあるわ、アンネ。事前に言った手順を記憶して、逐次伝えてくれた。あなたがいなければ仕えなかった方法だもの)
(1ターン目に『ギルドのベテラン』を使うと、高確率で『狩衣』を合わせてくる。その後、焔村さんがなにかをけんげん? してきたら、1ターン目に出したカードを指さして『このカードの効果を発動する』と言ってもらう――ええ、いい子ですから全部覚えましたとも!)
(所々抜けてるけど、そうね。助かったわ)
(判らなかったらタケシに聞きました!)
「さあ、処理を続けることだ、焔村」
砕けそうなほどに歯を食いしばりながら、焔村は手札を捨てる。残りは二枚。
「あとは『トコヤミ』で殴ってターンを終える」
「ドロー、プラグのみでどうぞ」
そう言ったにはもう、焔村の顔はポーカーフェイスに戻っていたが。
手元のスオウはまだ、頬を膨らませていた。
「そうだ、スオウ。思いついたよ」
尭史がそう口にすると、スオウはむーっと睨む。
「お前には悪いけど、この勝負はオレたちが勝たせてもらう。だからオレたちの能力も、源氏を打ち倒すべく名付けることに決めた」
「あなたまだそんなこと考えてたの? さえないオタク死ぬ?」
「じゃあ問題だ」
ジェローナの言葉はガン無視だった。
「源氏を倒すのは誰だ?」
「へいけ。。。でしょ」
「いや。違うね」
ちっちっち、と指を振る。うわキモい、とジェローナがこぼす。
三者三様の白けた目線を受けながら、尭史はやたら楽しそうに言った。
「モンゴルだ!」




