92 致命的な一押し
「洒落たこと言ってくれるね。オタクの血が騒いじゃうな」
「虚仮威しのつもりは、ありませんよん。本当のことだ」
「なら遊ばせてもらうよ。こちとら難しいゲームほど燃えるタチなんだ」
「過度の没頭は身を亡ぼすものですよん」
「身を切って初めて判ることもあったんだよ。ドロー前に『獰猛な中隊長』の効果を発動。そして『敬虔な奨励者』を召喚だ」
『敬虔な奨励者』(緑)
プログレ――人間
あなたのプログレが単身で攻撃する場合、それをターン終了時までHR+1 する。
このカードを生け贄に捧げる: あなたが次に召喚するプログレのコストを(1)軽減する。
BP500 / HR0 / RV(種族: 人間)
「速攻の算段が丸見えですねん」そばでスオウがあくびをする。
「長期戦はおまえの独擅場だろ。そりゃ直球勝負になるさ」
「ドロー、プラグしてどうぞ」すっと手をそえる。
「スカしてる気か、焔村? 『ラオービンの腰巾着』を召喚、両隣のトークンを強化して一体ずつ殴る!」
「フフン。鮎川サン、やっぱりキャラが変わったんじゃないですのん?」
ライフカウンターを五つ摘まみながら、焔村はなお調子を崩さない。
「べつに変わっちゃいない。オレは元々、こうだ」
尭史はターンを渡す。
「そうですのん? やっぱり狐にでも憑かれてたんですか、ねん」
(――ッ!)
瞬間。
スオウの眼が赤く閃いたのを、ジェローナは見逃さなかった。
(尭史。いま、スオウが使ったわ!)
(ったく油断も隙もないな。いつだ? ターンドローに合わせてか)
(タイミングとしては、そうね。本当に同じ能力だったってこと?)
「さてな」尭史は二人に答えた。
「それじゃあ僕は、このカードを使いますねん。通りますか?」
勘ぐる尭史とジェローナは、しかし。
実際に出たカードを前に、すっかり拍子抜けした。
『脱走した僧兵』(青)(1)
プログレ――人間 / モンク
無縫(あらゆるカードの効果の対象に選ばれない。戦闘や、全体に及ぶ効果の影響は受ける)
あなたのターン開始時、系譜カウンターを一つ得る。
BP1500 / HR0 / RV (なし)
(これは……私でも正気を疑うわね。相当な手札事故なのかしら)
(そうだな。もし同じ能力だったのなら、この局面でこのカードを選ぶはずがない。こっちの四体を全体強化すれば、BP1500の壁なんて、ないも同然だ)
(じゃあやっぱり別の能力?)
(でも現状、なんの変化もないよな? だと、後で使いたいカードをあらかじめ引っ張ったのかもしれない。例えば、次のターンに盤面をクリアするつもりで、3000点の全体火力。オレが焔村ならそうするし)
であれば、と。
決まれば尭史の動きは速い。82回目のドロー操作。
「メインフェイズ。『敬虔な奨励者』の起動効果を発動だ。そして『獣脚の蹂躙、バークハード』を召喚する」
『獣脚の蹂躙、バークハード』(緑)(緑)(2)
プログレ(ネームド)――恐竜
このカードの召喚は無効にされない。
このカードはスプレーの対象にならない。
(緑)(1): このカードは超再生する。(このターン、次にこのカードがクローズしたとき、すべてのダメージを取り除き、アンステディ状態で表向きにする。)
BP4000 / HR4 / RV(種族: 恐竜)
「BP4000だから全体3000点の火力は効かない。スプレー無効付き、『スオウ』のダメージ軽減にも引っかからない打点もある。この一押しは、辛いだろ」
「まあ、そうですねん」
答えこそするが、焔村の顔色は少しも変わらない。
「つれないな、焔村。もう少し――」
(待って尭史。いまアンネから連絡が来たわ)
(うぉ、おう。なんだ気勢が削がれるな)
尭史は盤面を見たままで答える。
(北田気さんが落ち着いたみたいで……えっなに? 中村さんが青ざめてる? 北田気さんがまた暴れたんじゃなくて?)
(なんだなんだ?)
(鮎川は何をやってるんだ……って、え? 尭史のこと?)
きょとんとして目を合わせる尭史とジェローナ。
そこに、指を弾く音が届く。
二人は視線を戻す。
「なんだ、焔村。なんの真似……」
わざとらしく伸びたままの、右手。
その下。
焔村の場の、たった一枚。
その存在に二人の息が止まった。
「……おい……待てよ。『脱走した僧兵』、どこに行った?」
にわかに尭史は立ち上がる。
「おまえさっき、『脱走した僧兵』を召喚しただろう!」
目の前の光景が信じられず、彼は叫んだ。
「なんでそれが、『破滅の扇動者』に入れ替わってるんだ――ッ!」
「なんのことでしょん。このカードはずっと、『破滅の扇動者』でしたよん」
「そんなわけがあるか! 全体4000火力なんか、見間違えるハズがない!」
「うつけ。。。まだ気づかないの」
とろんとした目を向けるスオウ。狼狽する尭史を眺め、さも愉快そうに歯を見せる。
「嘘、だろ。じゃあ、これが、お前の。お前らの、能力」
力なく、尭史は椅子に戻る。
「能力でカードのすり替える? そんなことしたら、審判に不正扱いされるわよね」
「ああ。たとえ犯行の現場が確認できなくてもアウトだ。第三者に不審がられない必要がある。なら一種の催眠、か――」
「お教えしますよ、お二人サン。もうここまで来れば、隠す意味もありませんしねん」
焔村は変わらず、淡々としている。
「スオウのオーナーは、指定したカードに対する、任意の相手の認知を歪ませることができる」
「……!」ジェローナが息を呑んだ。
「言い換えれば、指定したカードの種類を必ず誤解させる能力、ですねん。僕が能力を解除するまで、お二人サンは『破滅の扇動者を『脱走した僧兵』だと誤解していた。もうお判りでしょうけどねん」
ある意味では、と続ける。
「少年マンガなら割とありがちな能力とも言えるでしょん。バトルものなら、聴覚情報や、仲間との連携で撃破されるところですかねぇん。でもカードゲームは違う。これは認知がすべてだ。自分の武器、相手の脅威、それらを正しく見分けることができなければ! そもそもゲームとして成立しませんよんねん♡」
「そんなの、チートじゃねえか」
「ご冗談を。鮎川サンに言われるとは思いませんでしたよん」
わざとらしく笑う。
「ちなみにですねん、この能力。後北条は元を辿ると平家筋だってことで、それとの敵対を表すために、スオウが『源三位の狩衣』と名づけてるんです。いかがなものかと思うんですけどねん」
「マブい。。。おのれは好きだよ」
「まあとにかく、僕のターン。『破滅の扇動者』の効果で、場を一掃させてもらいますよん」
狩衣われとは摺らじ露深き野原の萩の花に任せて(新古今和歌集 巻第四 秋歌上329)




