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91/106

91 山

 いつの間にか始まっていた三位決定戦は、すでに二本目に入っているらしい。

 一本目は終始北田気が優勢で、ほとんどワンサイドゲームと言っていい有様ありさまだったという。

「逆嶋はこれまでの爆運のツケが全部回ってきたかのようだった」とは、尭史を連れ立つスタッフの言である。


「ていうか逆嶋さん見つかったんですね。どこで見つかったんですか?」

「ちょっと離れた駐車場、という話を聞きました。あやうく車に乗り込まれるところだったとかなんとか」

「うわっ大阪から運転してきたんですかねあの人。よくやるなあ」


 そうやって話す尭史を見ていると、ジェローナは安心できた。

(すっかり余裕ができたみたいね)

 ボディバッグに紙袋がひとつ。身軽な出で立ちもまた、象徴のようだった。



「おっ」

「あ、あゆかわ、くん」

 そのとき。

 裏方用の通路、カラーコーンと警戒色の棒に(さえぎ)られた先に、尭史は月居を見つけた。

 先行するスタッフに何を言うでもなく、そのまま近づく。


「い、いよいよ決勝だねぇ! 頑張って!」

「そうだな。ありがとう」

 尭史はぶっきらぼうに紙袋を差し出す。月居は受け取る。


「え、なに? あなんだ変装したときのけ。あとでいいのに」

「いや返さなきゃなと思ってさ。もう大丈夫だから」


 月居はきょとんとする。尭史はあえて、ニヤリと笑う。

「もう大丈夫だ。悪いな、今日はなにかおごるって言ってたのにできなくて」

「それはいいよお。なんならあとで……」


「鮎川さーん! 急いでくださーい!」

「やべ。じゃあな、月居」

「? 頑張んだよー?」


 スタッフの呼び声に従って、尭史は駆ける。

 ジェローナはその背中越しに、月居がぽつりと(つぶや)いたのを聞いた。

 ――大丈夫って、それだけ?




 それから間もなく。

 進んだ先、大扉の前。

 インカムをつけたスタッフが一言。


「準備はいいですか?」

「いつでもいいです」


 尭史が答えて二秒後。豪快(ごうかい)に扉が開かれる。

 薄暗くなった会場に足を踏み入れると、動きに合わせてスポットライトが当てられる。


 いまだ賛否入り混じった声が聞こえる。くたばれ、死んじまえとも言われる。(あふ)れるような拍手と、やっちまえ、といった声もある。

 その中で、尭史はゆっくり、しかしまっすぐに、テーブルへと歩を進めていった。


「いよいよ決勝です。鮎川選手、今の気持ちはいかがですか?」

 テーブルの前。実況がマイクを向ける。

「驚きがあります。でもそれ以上に、今からの勝負が楽しみで仕方ありません」


 こうした話の中でもまだ、どこかから野次が飛んでくる。実況はまるきり無視して、尭史に向き続けていた。

「では意気込みをどうぞ!」


「全力でいきます。自分が持つものをすべて出し切りたいです。もちろん、ルールに触れるようなことは、除いて」

「いい勝負に期待しています! 対するは福岡からのダークホースッ! キャリアも経験値も踏み倒し、ここまで昇りつめたルーキーーッ! 焔村ッ! 光秀だアァーーッ!」


 尭史とは反対側の扉に、またスポットライトが当たる。さきほどまでと同じ、飄々(ひょうひょう)とした振る舞いの焔村が、そこに現れた。


(ところでローナ)

 勝負で頭がいっぱいだというように、尭史は問う。

(中村の様子はどうだ?)


(準決勝のことなんか聞けそうにないって。アンネの見立てだけど)

 ジェローナは苦笑いしている。

(北田気さんが当たり散らして公共物破壊しそうになるのを、必死に抑え込んでるみたい。本当に暴れまわってるのね)

(ああ、ならいつも通りか。間に合うかな。そもそも使える情報握ってるかも未知数だけど)



「――ではお二人の奮起に期待します! 着席くださいッ!」

 そうする間に、焔村への聞き込みも終わったようだった。

 二人のファイナリストは慣れた手つきで、ゲーム前の準備を行う。握手をする。ダイスを振る。先攻は尭史。


(それで、手札は?)ジェローナが問う。

『獰猛な中隊長』(43話参照)『若葉風を運ぶもの』(9話参照)、あと『敬虔な奨励者』の三枚を頼む)

(わかった)


 尭史はその間に、ちらちらと焔村の目線をうかがう。

(ローナを見ている様子はない。位置的に、スオウにも無理だろう。ってことは、逆嶋さんの言葉は本当なのかな。あの人が準決で初めて気づいて、かつ焔村にも言ってない)


 意識して自分の手札を見ながら、尭史は考える。

(これは一つの優位性(アド)と見てよさそうだ。使い道があるかは、判らないけど)


 卓上のジェローナに手を伸ばす。

(とにかくやりきろう。ローナ)

(ええ。勝ちましょう)

 そして、すっと目を閉じる。


サエナイ(My)因子を(sword)――」

 そして、目を開く。

 すでにそこは創世導師の座のただ中にあった。

「――斬り(will)変えて(tear)あげ(your)るわ!(helix!)



「。。。」

 眼前には、崩して坐るスオウ。


「じゃ、やりましょうか鮎川サン。最初に言っておきますねん」

 そして落ち着いた風の焔村。

「あなたたちになら、僕たちの能力にはすぐ気づかれると思うますのん」


「へえ?」

「そして気づいた上でも、あなた方に勝ち目はありませんよん。どうぞ自分の選択を、後悔なさってくださいねん」

次回、スオウの能力の答え合わせです。

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