91 山
いつの間にか始まっていた三位決定戦は、すでに二本目に入っているらしい。
一本目は終始北田気が優勢で、ほとんどワンサイドゲームと言っていい有様だったという。
「逆嶋はこれまでの爆運のツケが全部回ってきたかのようだった」とは、尭史を連れ立つスタッフの言である。
「ていうか逆嶋さん見つかったんですね。どこで見つかったんですか?」
「ちょっと離れた駐車場、という話を聞きました。あやうく車に乗り込まれるところだったとかなんとか」
「うわっ大阪から運転してきたんですかねあの人。よくやるなあ」
そうやって話す尭史を見ていると、ジェローナは安心できた。
(すっかり余裕ができたみたいね)
ボディバッグに紙袋がひとつ。身軽な出で立ちもまた、象徴のようだった。
「おっ」
「あ、あゆかわ、くん」
そのとき。
裏方用の通路、カラーコーンと警戒色の棒に遮られた先に、尭史は月居を見つけた。
先行するスタッフに何を言うでもなく、そのまま近づく。
「い、いよいよ決勝だねぇ! 頑張って!」
「そうだな。ありがとう」
尭史はぶっきらぼうに紙袋を差し出す。月居は受け取る。
「え、なに? あなんだ変装したときのけ。あとでいいのに」
「いや返さなきゃなと思ってさ。もう大丈夫だから」
月居はきょとんとする。尭史はあえて、ニヤリと笑う。
「もう大丈夫だ。悪いな、今日はなにかおごるって言ってたのにできなくて」
「それはいいよお。なんならあとで……」
「鮎川さーん! 急いでくださーい!」
「やべ。じゃあな、月居」
「? 頑張んだよー?」
スタッフの呼び声に従って、尭史は駆ける。
ジェローナはその背中越しに、月居がぽつりと呟いたのを聞いた。
――大丈夫って、それだけ?
それから間もなく。
進んだ先、大扉の前。
インカムをつけたスタッフが一言。
「準備はいいですか?」
「いつでもいいです」
尭史が答えて二秒後。豪快に扉が開かれる。
薄暗くなった会場に足を踏み入れると、動きに合わせてスポットライトが当てられる。
いまだ賛否入り混じった声が聞こえる。くたばれ、死んじまえとも言われる。溢れるような拍手と、やっちまえ、といった声もある。
その中で、尭史はゆっくり、しかしまっすぐに、テーブルへと歩を進めていった。
「いよいよ決勝です。鮎川選手、今の気持ちはいかがですか?」
テーブルの前。実況がマイクを向ける。
「驚きがあります。でもそれ以上に、今からの勝負が楽しみで仕方ありません」
こうした話の中でもまだ、どこかから野次が飛んでくる。実況はまるきり無視して、尭史に向き続けていた。
「では意気込みをどうぞ!」
「全力でいきます。自分が持つものをすべて出し切りたいです。もちろん、ルールに触れるようなことは、除いて」
「いい勝負に期待しています! 対するは福岡からのダークホースッ! キャリアも経験値も踏み倒し、ここまで昇りつめたルーキーーッ! 焔村ッ! 光秀だアァーーッ!」
尭史とは反対側の扉に、またスポットライトが当たる。さきほどまでと同じ、飄々とした振る舞いの焔村が、そこに現れた。
(ところでローナ)
勝負で頭がいっぱいだというように、尭史は問う。
(中村の様子はどうだ?)
(準決勝のことなんか聞けそうにないって。アンネの見立てだけど)
ジェローナは苦笑いしている。
(北田気さんが当たり散らして公共物破壊しそうになるのを、必死に抑え込んでるみたい。本当に暴れまわってるのね)
(ああ、ならいつも通りか。間に合うかな。そもそも使える情報握ってるかも未知数だけど)
「――ではお二人の奮起に期待します! 着席くださいッ!」
そうする間に、焔村への聞き込みも終わったようだった。
二人のファイナリストは慣れた手つきで、ゲーム前の準備を行う。握手をする。ダイスを振る。先攻は尭史。
(それで、手札は?)ジェローナが問う。
(『獰猛な中隊長』と『若葉風を運ぶもの』、あと『敬虔な奨励者』の三枚を頼む)
(わかった)
尭史はその間に、ちらちらと焔村の目線をうかがう。
(ローナを見ている様子はない。位置的に、スオウにも無理だろう。ってことは、逆嶋さんの言葉は本当なのかな。あの人が準決で初めて気づいて、かつ焔村にも言ってない)
意識して自分の手札を見ながら、尭史は考える。
(これは一つの優位性と見てよさそうだ。使い道があるかは、判らないけど)
卓上のジェローナに手を伸ばす。
(とにかくやりきろう。ローナ)
(ええ。勝ちましょう)
そして、すっと目を閉じる。
「サエナイ因子を――」
そして、目を開く。
すでにそこは創世導師の座のただ中にあった。
「――斬り変えてあげるわ!」
「。。。」
眼前には、崩して坐るスオウ。
「じゃ、やりましょうか鮎川サン。最初に言っておきますねん」
そして落ち着いた風の焔村。
「あなたたちになら、僕たちの能力にはすぐ気づかれると思うますのん」
「へえ?」
「そして気づいた上でも、あなた方に勝ち目はありませんよん。どうぞ自分の選択を、後悔なさってくださいねん」
次回、スオウの能力の答え合わせです。




