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かみどろ! -異界転写の女騎士-  作者: 賀来大士
二日目: 準決勝B
84/106

84 道理を超えた力

 尭史はまた(ほほ)をたたいた。

 隣に座る解説者が驚いたように一瞥(いちべつ)をくれたあと、カメラが回っているのに気づいて頭をかいた。

(しょげてもいらんねえな、ローナ。もう北田気のゲームが始まっちまう)


「あ……うん。そうね」

 その様子はまるで、本当にゲームのことを忘れていたかのようだった。論理的になにか思考していたというより、どうしようもないことに打ちひしがれていた――そんな風に、尭史の眼に映った。

 それほどまでにセディアルを気に入っていたのかと思うと、どこか悪いことをしたような気さえした。


「それであの二人は、どんな戦い方をするの?」

 ぱっと振り向いたジェローナの顔は、しかし、もう吹っ切ったような色をしていた。

 いくら尭史が鈍くても、それが空元気のようなものだということくらい見当がついた。しかし気にかけている場合ではなかった。


(北田気が黒緑のミッドレンジで、焔村が……、あー。そろそろ実況あたりが軽く触れてくれるんじゃないかと思うけど)

「ふうん?」

 二人はマイクの声に耳を傾ける。実況者は生放送の視聴者プレゼントについて話している。だがほどなくして画面が移り変わると、そちらに話題を移した。



「……さあ。準決勝B、王者・北田気対挑戦者・焔村の準備も済みそうですね。解説の桂木さん、二人はどういったデッキを使うのでしょうか?」


「はい。北田気選手は黒緑のミッドレンジです。速度的にはゴースト・アグロに一歩以上劣りますが、墓地を利用することで防御力と継戦力、突破力とを兼ね備えています」


「黒緑というと去年のはじめに流行し、その後衰退していたように思えます。それがここに来て活躍しているのは、どういうことでしょうか?」


「去年の春ごろに衰退したのは、墓地を取り除ける手軽なカードが増えたことが原因です。しかし今季の流行デッキは墓地の依存度が低いため、(ともな)って環境的に墓地対策カードの採用率も下がりました。その結果、黒緑が動きやすくなった――というところでしょう。一応、30弾で『漆黒の扉』を獲得したというのもありますが、やはりメタ的な通りの良さが大きいと思います」


「キングの読みがズバリ的中したということでしょうか」


「そうとしか言いようがありませんね。それこそ去年の実績がありますから、地力は保証済み。納得のデッキチョイスです」


「感服すべき王道といったところですね。対する焔村選手はどうですか?」


「フォアフロント『悲壮破りの軍師、スオウ』によるエクストラウィンを狙った、メガ・パーミッションです。とにかく妨害。白青クロックパーミよりも妨害に重きを置いていると言っていいでしょう。妨害に妨害を重ねた末に、特殊勝利条件をかっ(さら)うのが主目的となります」


「なるほど。ただこちらは黒緑とは違って、いっさい実績がないように思えますが」


「はい。地方やオンラインの小型リーグならいざ知らず、このような大型大会での実績は皆無でした。それこそ先日、焔村選手が優勝した福岡選考会が初めてではないでしょうか」


「それと同型のデッキを持ち出すあたり、焔村選手の自信がうかがえますね」


「日本一を決める大舞台で、このチョイス。豪胆というほかありませんね。王道に対する覇道、いっそのこと邪道、非道とでも表現したほうが適切かもわかりません」


「黒緑と違って、強さの保証が皆無ですからね」


「そういうことです。あのデッキでどうして、ゴースト・アグロや白青パーミに勝てるのか。不思議で仕方ありません。正直私としても、福岡選考会の優勝はマッチ運が良かっただけでは、と思っていました。しかしこうして決勝卓に到達している以上、考えを改める必要がありそうです」


「SNoWは奥が深いですね! では、試合はどのように展開しそうでしょうか」


「一本目は北田気選手の有利に運ぶと思います。本来白青クロックパーミ対策に積まれていた、打ち消し無効の『放射性崩壊』などが、焔村選手には辛いでしょう。墓地対策カードをサイドインした二本目から、焔村選手がどう巻き返すかが勝負の肝となりますね。逆に言えば、北田気選手は一本目を絶対に落とせません」


「いい試合に期待したいですね! まもなくゲームが始まりそうです!」



 観客の拍手に包まれる中、北田気と焔村はそれぞれのFFに手をかける。

 ママ(Whoooo's)(got)(a)った(brain)(of)(my)あれ(mom)

 地獄(There)(is)(no)とて(hell)住ま(like)(the)ば都(Earth)

 そう言ったはずの二人の声など、すっかりかき消された。

 準決勝Aで現れたような異空間は、そこにはない。生きたFF同士の戦いが引き起こすのか、と尭史はひとり考えた。



(そうだ。ひとつだけ、付け足しておくと)

 北田気の先攻。プラグのち『アチェリ』を召喚。

 そんな様子を見ながら、尭史はジェローナに語りかけた。


(『悲壮破りの軍師、スオウ』に関しては、()()()使()()()()()()()()。もちろん、お前と出会ってから(第八話参照)、やめたんだけど)

「えっ……!?」


 一回裏、ドローゴー。二回表、『アチェリ』攻撃後『卑小な山操(やまわろ)』召喚、CIPで手札から追加プラグ。

 ジェローナは尭史に驚いて振り向く。その間もゲームは進む。


(まあ、いろんな考察の末、ってやつだ。ただおれが作ったデッキと焔村のそれは、だいぶ違ってる。そこにあの、生きたスオウの秘密があるんだろうけど)


 二回裏、『破滅の扇動者』。

 テンポよく進むゲームの様子を、尭史はわき目も振らずに見届けていた。

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