84 道理を超えた力
尭史はまた頬をたたいた。
隣に座る解説者が驚いたように一瞥をくれたあと、カメラが回っているのに気づいて頭をかいた。
(しょげてもいらんねえな、ローナ。もう北田気のゲームが始まっちまう)
「あ……うん。そうね」
その様子はまるで、本当にゲームのことを忘れていたかのようだった。論理的になにか思考していたというより、どうしようもないことに打ちひしがれていた――そんな風に、尭史の眼に映った。
それほどまでにセディアルを気に入っていたのかと思うと、どこか悪いことをしたような気さえした。
「それであの二人は、どんな戦い方をするの?」
ぱっと振り向いたジェローナの顔は、しかし、もう吹っ切ったような色をしていた。
いくら尭史が鈍くても、それが空元気のようなものだということくらい見当がついた。しかし気にかけている場合ではなかった。
(北田気が黒緑のミッドレンジで、焔村が……、あー。そろそろ実況あたりが軽く触れてくれるんじゃないかと思うけど)
「ふうん?」
二人はマイクの声に耳を傾ける。実況者は生放送の視聴者プレゼントについて話している。だがほどなくして画面が移り変わると、そちらに話題を移した。
「……さあ。準決勝B、王者・北田気対挑戦者・焔村の準備も済みそうですね。解説の桂木さん、二人はどういったデッキを使うのでしょうか?」
「はい。北田気選手は黒緑のミッドレンジです。速度的にはゴースト・アグロに一歩以上劣りますが、墓地を利用することで防御力と継戦力、突破力とを兼ね備えています」
「黒緑というと去年のはじめに流行し、その後衰退していたように思えます。それがここに来て活躍しているのは、どういうことでしょうか?」
「去年の春ごろに衰退したのは、墓地を取り除ける手軽なカードが増えたことが原因です。しかし今季の流行デッキは墓地の依存度が低いため、伴って環境的に墓地対策カードの採用率も下がりました。その結果、黒緑が動きやすくなった――というところでしょう。一応、30弾で『漆黒の扉』を獲得したというのもありますが、やはりメタ的な通りの良さが大きいと思います」
「キングの読みがズバリ的中したということでしょうか」
「そうとしか言いようがありませんね。それこそ去年の実績がありますから、地力は保証済み。納得のデッキチョイスです」
「感服すべき王道といったところですね。対する焔村選手はどうですか?」
「フォアフロント『悲壮破りの軍師、スオウ』によるエクストラウィンを狙った、メガ・パーミッションです。とにかく妨害。白青クロックパーミよりも妨害に重きを置いていると言っていいでしょう。妨害に妨害を重ねた末に、特殊勝利条件をかっ攫うのが主目的となります」
「なるほど。ただこちらは黒緑とは違って、いっさい実績がないように思えますが」
「はい。地方やオンラインの小型リーグならいざ知らず、このような大型大会での実績は皆無でした。それこそ先日、焔村選手が優勝した福岡選考会が初めてではないでしょうか」
「それと同型のデッキを持ち出すあたり、焔村選手の自信がうかがえますね」
「日本一を決める大舞台で、このチョイス。豪胆というほかありませんね。王道に対する覇道、いっそのこと邪道、非道とでも表現したほうが適切かもわかりません」
「黒緑と違って、強さの保証が皆無ですからね」
「そういうことです。あのデッキでどうして、ゴースト・アグロや白青パーミに勝てるのか。不思議で仕方ありません。正直私としても、福岡選考会の優勝はマッチ運が良かっただけでは、と思っていました。しかしこうして決勝卓に到達している以上、考えを改める必要がありそうです」
「SNoWは奥が深いですね! では、試合はどのように展開しそうでしょうか」
「一本目は北田気選手の有利に運ぶと思います。本来白青クロックパーミ対策に積まれていた、打ち消し無効の『放射性崩壊』などが、焔村選手には辛いでしょう。墓地対策カードをサイドインした二本目から、焔村選手がどう巻き返すかが勝負の肝となりますね。逆に言えば、北田気選手は一本目を絶対に落とせません」
「いい試合に期待したいですね! まもなくゲームが始まりそうです!」
観客の拍手に包まれる中、北田気と焔村はそれぞれのFFに手をかける。
ママを殺ったのだあれ!
地獄の底とて住まわば都!
そう言ったはずの二人の声など、すっかりかき消された。
準決勝Aで現れたような異空間は、そこにはない。生きたFF同士の戦いが引き起こすのか、と尭史はひとり考えた。
(そうだ。ひとつだけ、付け足しておくと)
北田気の先攻。プラグのち『アチェリ』を召喚。
そんな様子を見ながら、尭史はジェローナに語りかけた。
(『悲壮破りの軍師、スオウ』に関しては、オレも使う気でいたんだ。もちろん、お前と出会ってから、やめたんだけど)
「えっ……!?」
一回裏、ドローゴー。二回表、『アチェリ』攻撃後『卑小な山操』召喚、CIPで手札から追加プラグ。
ジェローナは尭史に驚いて振り向く。その間もゲームは進む。
(まあ、いろんな考察の末、ってやつだ。ただおれが作ったデッキと焔村のそれは、だいぶ違ってる。そこにあの、生きたスオウの秘密があるんだろうけど)
二回裏、『破滅の扇動者』。
テンポよく進むゲームの様子を、尭史はわき目も振らずに見届けていた。




